井山裕太棋聖を破り、「十段」挑戦を決めた芝野虎丸名人が、その足で向かった先とは?
今後の囲碁界の勢力図を決めるであろう「十段」挑戦者決定戦が1月30日に打たれ、芝野虎丸二冠(名人、王座)が井山裕太三冠(棋聖、本因坊、天元)を快勝で破って、挑戦者となった。タイトルをひとつ積み上げるチャンスを手に入れた。
これで両者の対戦成績は5勝1敗と、虎丸名人が圧倒。井山棋聖は苦手に思っているのだろうか。
虎丸名人はどこに向かったか?
挑戦者決定戦は、棋士序列上の井山棋聖の本拠地、日本棋院関西総本部(大阪市)で打たれた。
井山棋聖は翌31日には2月1日から長崎市で打たれる棋聖戦第3局に向かった。相変わらずのハードスケジュールだ。
一方、自宅が東京の虎丸名人は、翌日午前中に大阪を発つ。その足で向かった先とは……?
上野愛咲美女流本因坊の就位式へ
正午。虎丸名人は、東京都港区「第一ホテル東京」に現れた。上野愛咲美女流本因坊の就位式に参加するためだ。
虎丸名人は、なんと、花束プレゼンターとして登場。人生初の経験だったそう。
シークレットゲストだったのか、虎丸名人の名前は式次第になかった。上野女流本因坊のお母さんは「来てくれるなんて、知りませんで。娘が教えてくれなくて。忙しい中、ありがとうございます」と恐縮していた。
上野女流本因坊と虎丸名人、広瀬優一四段の3人は研究会「たこぽん」(名称は上野女流本因坊が名付けた)仲間で親しい間柄なのだが、時の名人が花束贈呈を務めたのは非常に珍しい。史上最年少の名人だからこそ、実現したのだろう。
虎丸名人は「上野さんとは、ふだんから一緒に勉強しているので、自分が勝つこと以上に嬉しいです」とお祝いを述べた。
司会者に「上野さんはどんな人ですか?」ときかれると、虎丸名人は「勉強熱心で優しくて、気もつかえるイメージがあります」。さらに、「何か気をつかってもらった具体的なエピソードは?」と突っ込まれると、「そう言われてみると……」と笑ってすました。
上野女流本因坊のほうが、「虎丸先生は気をつかってくれます。研究会のときに、チーズケーキやジュースを買って持ってきてくれます」と笑顔でこたえていた。
研究会仲間
虎丸名人はふだん、自宅などではインターネット対局が中心で、はやりのAIを使っての研究はしていないという。
AIを駆使して、深く熱心に研究しているのが上野女流本因坊だ。虎丸名人は、上野女流本因坊と研究会をすることでも、AIの知見などを吸収している。
若手トップのふたりは、お互いの得意を生かしながら精進し、高めあっているのだ。