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井山裕太棋聖を破り、「十段」挑戦を決めた芝野虎丸名人が、その足で向かった先とは?

内藤由起子囲碁観戦記者・囲碁ライター
写真撮影に応じる芝野虎丸名人。第一ホテル東京にて。2020年1月31日、筆者撮影

今後の囲碁界の勢力図を決めるであろう「十段」挑戦者決定戦が1月30日に打たれ、芝野虎丸二冠(名人、王座)が井山裕太三冠(棋聖、本因坊、天元)を快勝で破って、挑戦者となった。タイトルをひとつ積み上げるチャンスを手に入れた。

これで両者の対戦成績は5勝1敗と、虎丸名人が圧倒。井山棋聖は苦手に思っているのだろうか。

虎丸名人はどこに向かったか?

挑戦者決定戦は、棋士序列上の井山棋聖の本拠地、日本棋院関西総本部(大阪市)で打たれた。

井山棋聖は翌31日には2月1日から長崎市で打たれる棋聖戦第3局に向かった。相変わらずのハードスケジュールだ。

一方、自宅が東京の虎丸名人は、翌日午前中に大阪を発つ。その足で向かった先とは……?

上野愛咲美女流本因坊の就位式へ

正午。虎丸名人は、東京都港区「第一ホテル東京」に現れた。上野愛咲美女流本因坊の就位式に参加するためだ。

虎丸名人は、なんと、花束プレゼンターとして登場。人生初の経験だったそう。

シークレットゲストだったのか、虎丸名人の名前は式次第になかった。上野女流本因坊のお母さんは「来てくれるなんて、知りませんで。娘が教えてくれなくて。忙しい中、ありがとうございます」と恐縮していた。

上野女流本因坊と虎丸名人、広瀬優一四段の3人は研究会「たこぽん」(名称は上野女流本因坊が名付けた)仲間で親しい間柄なのだが、時の名人が花束贈呈を務めたのは非常に珍しい。史上最年少の名人だからこそ、実現したのだろう。

上野愛咲美女流本因坊の就位式にて。花束贈呈を務めた芝野虎丸名人と上野女流本因坊。第一ホテル東京にて。=2020年1月31日、筆者撮影
上野愛咲美女流本因坊の就位式にて。花束贈呈を務めた芝野虎丸名人と上野女流本因坊。第一ホテル東京にて。=2020年1月31日、筆者撮影

虎丸名人は「上野さんとは、ふだんから一緒に勉強しているので、自分が勝つこと以上に嬉しいです」とお祝いを述べた。

司会者に「上野さんはどんな人ですか?」ときかれると、虎丸名人は「勉強熱心で優しくて、気もつかえるイメージがあります」。さらに、「何か気をつかってもらった具体的なエピソードは?」と突っ込まれると、「そう言われてみると……」と笑ってすました。

上野女流本因坊のほうが、「虎丸先生は気をつかってくれます。研究会のときに、チーズケーキやジュースを買って持ってきてくれます」と笑顔でこたえていた。

研究会仲間

虎丸名人はふだん、自宅などではインターネット対局が中心で、はやりのAIを使っての研究はしていないという。

AIを駆使して、深く熱心に研究しているのが上野女流本因坊だ。虎丸名人は、上野女流本因坊と研究会をすることでも、AIの知見などを吸収している。

若手トップのふたりは、お互いの得意を生かしながら精進し、高めあっているのだ。

囲碁観戦記者・囲碁ライター

囲碁観戦記者・囲碁ライター。神奈川県平塚市出身。1966年生。お茶の水女子大学大学院修士課程修了。お茶の水女子大学囲碁部OG。会社員を経て現職。朝日新聞紙上で「囲碁名人戦」観戦記を担当。「週刊碁」「囲碁研究」等に随時、観戦記、取材記事、エッセイ等執筆。囲碁将棋チャンネル「本因坊家特集」「竜星戦ダイジェスト」等にレギュラー出演。著書に『井山裕太の碁 AI時代の新しい定石』(池田書店)『囲碁ライバル物語』(マイナビ出版)、『井山裕太の碁 強くなる考え方』(池田書店)、『それも一局 弟子たちが語る「木谷道場」のおしえ』(水曜社)等。囲碁ライター協会役員、東日本大学OBOG囲碁会役員。

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