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錦織圭、本気のフェデラーと戦い手にした収穫と課題。芝で形を得た攻撃テニスは、進むべき道を指す

内田暁フリーランスライター
(写真:アフロ)

準々決勝 ●錦織圭 6-4 1-6 4-6 4-6 R・フェデラー○

「chum jetze(コムイェッツ!)」

 フェデラーがそう叫んだ時、記者席に座っていたスイスのジャーナリストたちが、「おおっ」と小さく声をあげました。

 第3セットの第1ゲームで、長い打ち合いの末に、錦織のフォアがネットに掛かった時のこと。

「あれは、スイス・ジャーマンで『カモン』の意味。ロジャーがスイス・ジャーマンで叫ぶ時は、本当に気合が入っている時なんだ」

 隣に座っていた記者氏は、驚きの声が漏れた理由を、そう明かしてくれました。

 この日のフェデラーに気持ちが入っていることは、第2セット以降のプレーを見ても明白です。リターンゲームでプレッシャーを掛け、自分のゲームは危なげなくキープしていく。第1セットは錦織が驚異のスタートダッシュでフェデラーを圧しますが、錦織のプレーも、そして芝の特性も知悉している百戦錬磨の王者に、焦りはないようでした。

  

 第2セット以降、リターンゲームで苦しんだ訳を、錦織は「自分のサービスゲームで常にプレッシャーを感じていたため、リターンゲームになかなか気持ちが入っていけなかった」、そしてフェデラーがサービスを「ちょっと変えてきたので、それに対応できなかった」からだと説明しました。そのフェデラーのサービスの変化で一つ顕著なのは、ボディ(身体の正面に打つサービス)を多く混ぜてきたこと。第2セットでは、全体の21%をボディに打っていました。

 その一方でフェデラーは、錦織が第1セットから多く用いたボディ―サーブの攻略に着手します。正面に来たボールを回り込み、フォアで尽く強打。その試みは、多くの場面でラインを割りますが、それでも彼はやめません。そして第3セットの第7ゲームで、ついにフェデラーが錦織のボディサーブを捉えます。このゲームをブレークされた錦織は、第11ゲームで唯一のブレークチャンスを掴みますが、これを逃し第3セットもフェデラーの手に。第4セットもほぼ同じ展開で、芝の帝王を破るには至りませんでした。

 試合後の錦織は、第2セット目以降は「焦ってしまった」ことを再三、敗因として口にします。同時に、苦手意識を抱いていた芝で、自分の成長を実感しているようでもありました。 

 「全体的にプレーの質は凄く上がった。去年より今年は良い試合が多かったと思う。安定して芝でもプレーできるというのは改めて自信になった。サービスも良くなっていて、ファースト(サービス)で取れるのも感じてきた。ハードでもサービスの確率があがってフリーポイントが取れれば、よりチャンスは広がる。収穫はたくさんあった大会でした」。

 

 芝でつかんだ攻撃テニスへの手応えを、ハードコートへも持ち込みます。

※テニス専門誌『スマッシュ』のFacebookより転載

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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