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「船上で救命胴衣をつけない」はダメ。ゼッタイ。 相次ぐボート事故の身の守り方

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
長岡技術科学大学ヨット部の乗組員(筆者撮影)

 今年の夏休みに入ってからプレジャーボートなど小型船舶の事故が多発し、読者の中にはそういったニュースを見かけた方も多かったのではないでしょうか。プレジャーボートが身近になり、ゲストとして乗船する機会が多くなるなか、ボートで遊ぶとき皆さんは何に気を付けたらよいでしょうか。

 

最近続いたボート事故

 今年の夏、ボートの事故が続きました。7月27日には沖縄県座間味村の沖の防波堤に、男女9人が乗ったプレジャーボートが衝突しました。はずみで投げ出され、全員が怪我をしました。また8月3日には静岡県南伊豆町の沖合でプレジャーボートが岩に衝突しました。乗っていた男女4人は怪我をせずにすみましたが、付近の漁船に救助されました。さらに、この記事を執筆中の8月6日には神戸大学のカッターボートが和歌山県で転覆し、22人が海上に投げ出された(その後のニュースでは23人)というニュースが飛び込んできました。速報では全員が無事だったということでほっとしているところです。

プレジャーボートの事故の種類

 事故の種類にはいくつかありますが、大きく分けると衝突と転覆になります。衝突は、座間味港沖で起きた事故と南伊豆町の沖合で起きた事故がそれにあたります。一方、神戸大のボートの事故は転覆です。

 衝突は、海面上に出ている防波堤などの構造体にあたる場合が多いです。この場合、船上の乗組員等は船の甲板から衝突した構造体に直接投げ飛ばされるので、運が悪ければ構造体そのものに体をぶつけることになります。ぶつけた時の衝撃で、打撲や骨折など重い傷を負う場合があります。そのまま海中に沈めば、怪我で体が動かせず、海中で呼吸がままなりません。

 衝突の中には、海中にある岩などに乗り上げてしまう事故もあります。この場合もやはり船上から乗組員等が投げ出されますが、多くは海中に転落します。単に海に落ちるだけならまだしも、衝突時の衝撃で意識がとぶことが多いのです。そして、海中に投げ出されてからわれにかえります。もし海中にて意識がもうろうとした状態が続くと、溺水することがあります。

 転覆は、ボートに大きな波を受けたときに発生します。例えば三角波。波が急に高くなると、河口などで山のような大きな三角波が発生します。それを沖合から戻ったボートが無理に通過しようとすると、その三角波で転覆します。台風からのうねりが岸壁で跳ね返って起きる波でも転覆することがあります。転覆の際にはやはり乗組員等が船上から投げ出されて、海中に転落します。そのあとは乗り上げ事故と同じ経過をたどります。

 うまく海中に転落すればまだしも、転覆した船内に乗組員等が閉じ込められることもあります。そうすると自分で脱出することはほぼ不可能で、ひっくり返った船内で専門の潜水救助隊による救助を待つことになります。

原因は操縦不慣れ

 夏のレジャーシーズンのプレジャーボートの事故の多くは、操縦不馴れが原因です。筆者もよく操船しますが、多くても操船はほぼ1週間ごとですから慣れているとは言えません。その証拠に毎日運転する車と違って、操船時には毎回なにか大事なことを忘れているように感じます。

 いくら経験豊富な船長といっても、座間味港沖の事故のようにゲストを乗船させた状態で、たまに行う夜間航行では日中では見えていたはずの海面上の構造体などが見えなかったり、日中であっても他船の航行に気を取られて、いつもは気を付けているはずの海面下の岩礁に乗り上げてしまったりします。この夏に続いている事故がそれを物語っています。

ゲストのあなたは何に気を付けるべきか

 本来は事故を未然に防ぐのが船長の責任ですが、万が一の事故時にはゲスト乗船しているあなたが自分で自分の命を守らなければなりません。

 衝突の時はたいてい海に転落します。転落の瞬間に気が遠退いたりしますので、救命胴衣が最後にあなたの命を守ってくれます。従ってゲストとして乗船するときには、命を守る対策として、当然のごとく救命胴衣を着用します。構造体との衝突や波の衝撃で瞬間的に意識が遠退いても、海中に落ちたとき、救命胴衣の浮力で顔が水面にでるので、呼吸は確保されます。法律で決められている性能を有する救命胴衣を着用していれば、意識がない状態でも顔が水面に出るように、仰向けの姿勢に自然になります。

 事故は、船の離接岸時に多く発生します。こういうときには桟橋、他船、消波ブロック、岸壁などに衝突します。プレジャーボートには車のようにシートベルトがなく、したがって歩くくらいのスピードでぶつかっても船外に投げ出されます。特に接岸時には、衝突の確率が最も高い船首部分にいないようにする、周辺のしっかりしたものにつかまって座るようにします。図1は、離岸時に乗組員が船首で見張りをして、ゲストは船首から離れるようにして座っている様子です。

図1 離接岸時には万が一の事故を防ぐため乗組員が船首で見張りをします。ゲストは船首から離れてしっかりしたものにつかまり座っています(筆者撮影)
図1 離接岸時には万が一の事故を防ぐため乗組員が船首で見張りをします。ゲストは船首から離れてしっかりしたものにつかまり座っています(筆者撮影)

 もし、海中に落水したら、救命胴衣の浮力で浮上します。冷水であれば、水温が20℃を切りますと急速に体の熱が水に奪われます。できるだけ身を丸くして、体温を逃がさないように工夫します。大勢で転落したら、一か所にできるだけ集まり輪を作りながら救助を待ちます。

 意外と多いのが、乗船下船する際に桟橋から転落する事故です。特にプレジャーボートを係留しているマリーナの桟橋は、フェリーを係留する桟橋より細いことが多く、少し強い風が吹いただけでよろけて海に落ちることもあります。転落しても浮いて救助が待てるように、図2のように救命胴衣を着用して、船に向かうようにしましょう。

図2 乗船下船の際に桟橋を歩くときにも救命胴衣を着用して命を守ります(筆者撮影)
図2 乗船下船の際に桟橋を歩くときにも救命胴衣を着用して命を守ります(筆者撮影)

おわりに

 せっかくの夏休み、ボート遊びのアクティビティも計画に盛り込んで楽しんでいただければと思います。乗船の際には、船長に正しい救命胴衣の着用方法を教わり、万が一の時には自分で自分の命を守れるようにしてください。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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