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「民進党」の皆さん、中国が南シナ海で構築中の「戦略的トライアングル」って知ってますか?

木村正人在英国際ジャーナリスト
ウッディー島のミサイル配備に抗議するフィリピンの反中デモ(写真:ロイター/アフロ)

地対空ミサイルが配備されたウッディー島

中国海軍と長らくにらみ合ってきた香田洋二・元海上自衛隊自衛艦隊司令官が17日、英議会内で開かれたシンクタンク「ヘンリー・ジャクソン・ソサイエティ」の会合で講演し、「中国の海洋進出には南シナ海を戦略ミサイル原子力潜水艦の出撃拠点にする狙いが隠されている」と指摘しました。

香田元司令官によると、中国人民解放軍は南シナ海で着々と「戦略的トライアングル」を構築しています。(1)パラセル(西沙)諸島のウッディー島(2)スプラトリー(南沙)諸島のファイアリークロス礁(3)フィリピン・ルソン島西沖のスカボロー礁を結んだ三角形です。

英議会内で講演する香田元司令官(筆者撮影)
英議会内で講演する香田元司令官(筆者撮影)

パラセル諸島のウッディー島に2砲兵中隊の地対空ミサイルを配備したことについて、中国国防省は2月、「わが国は自国領土内に防衛施設を配備する正当な権利を有している」と公式に認めました。米FOXニュースのスクープ報道に答えたものです。

国際軍事情報会社IHSカントリー・リスクのオマル・ハミド・アジア分析部長は「領有権争いのある島々に対する中国のアプローチは少しずつ軍事化し続けることと、領有権争いの相手国を排除するエリアを構築することだ」と分析しています。

米海軍の誘導ミサイル駆逐艦が1月に「航行の自由作戦」の一環としてパラセル諸島のトリトン島に接近したことへの対抗措置というのが中国の言い分です。IHSジェーンズ・インテリジェンス・レビューのニール・アシュダウン副編集長は「中国が配備したのは第4世代の地対空ミサイルシステムで、軍事的には大きな飛躍だ」と指摘しています。

パラセル諸島の中で最大のウッディー島についてはベトナムと台湾も領有権を主張しています。1974年、中国は武力でパラセル諸島全体を支配しました。その後、ウッディー島には2300メートルの滑走路が作られ、2014年から3千メートルに拡張する工事が進められています。レーダーシステムも設置されました。

「点」から「線」へ、南北ライン構築

出典:グーグルマイマップで筆者作成
出典:グーグルマイマップで筆者作成

ウッディー島の先にあるのがスプラトリー諸島のファイアリークロス礁です。274万平方メートルが埋め立てられ、軍用機が離着陸できる3千メートルの滑走路が完成、現在、3110メートルに拡張中です。ヘリポートも2基あります。対空砲や対潜水兵の防御が以前から配備され、8カ所に大砲が設置できるそうです。

ファイアリークロス礁の人工島ではレーダー塔とみられる建物が建設中で、軍のタンカーが停泊できる港湾施設の開発も進められています。香田元司令官によると、中国海軍の戦略ミサイル原潜の出撃基地・海南島三亜とウッディー島を結ぶ「ノース・ライン」、ウッディー島とファイアリークロス礁を結ぶ「サウス・ライン」を合わせた「南北ライン」が構築されています。

「点」が「線」になり、中国軍は南北ラインに沿って主力戦闘機を南シナ海の南半分まで展開させようと思えばできる状況に近づいています。「線」を「面」にするための、もう一つの拠点が、中国の支配下にあるフィリピン西沖のスカボロー礁です。フィリピンの眼と鼻の先なので、さすがの中国もパラセル諸島やスプラトリー諸島のように埋め立てや滑走路建設を思い通りに進めることができません。

「戦略的トライアングル」の狙い

同

この「戦略的トライアングル」が完成した暁には、中国は領有権を主張する南シナ海全域に防空識別圏を設けることが可能になります。米軍の艦船や航空機が入ってきたら直ちに緊急発進(スクランブル)をかけることができ、「接近阻止・領域拒否」を実行できます。中国にはもちろん南シナ海の実効支配をさらに強固にする狙いがあります。

南シナ海は原油や天然ガスの海上輸送路(シーレーン)で、豊富な海底資源が埋蔵されています。米エネルギー情報局(EIA)によると、11年時点で南シナ海とタイランド湾を通る原油は1日平均約1400万バレル。世界の原油輸送量の約3分の1を占めています。

出典:米エネルギー情報局
出典:米エネルギー情報局

日本へ日量320万バレル、韓国へ同240万バレル、台湾や香港へは540万バレルです。日本は原油の99.7%を輸入しており、その約83%を中東に依存しています。南シナ海で有事が発生した場合、マラッカ海峡を迂回してインドネシア中部のロンボク海峡を抜けなければならなくなります。

また、南シナ海の原油埋蔵量は推定で112億バレル、天然ガスの埋蔵量は推定で190兆立法フィートです。中国は南シナ海ほぼ全域の島嶼部や人工島の領有権だけでなく、その周囲の「排他的権利」を主張するなど、南シナ海の海底資源を独り占めする野望を隠していません。

南シナ海に潜む中国の戦略ミサイル原潜

一番注意を要するのは中国の戦略ミサイル原潜の動向です。南シナ海の平均深度は1200メートル以上。海盆の平均水深は3500メートル、最深部は約5600メートルに及びます。英シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)の「ミリタリー・バランス」によると、中国は戦略ミサイル原潜を4隻配備し、潜水艦発射弾道ミサイルJL-2を核抑止力の柱の1つにしています。

しかしJL-2の射程では米ワシントンをとらえることができません。南シナ海から米軍を追い払えば、冷戦時にソ連が戦略ミサイル原潜をオホーツク海に潜ませたのと同じように、中国は南シナ海に戦略ミサイル原潜を自由に展開できます。海南島三亜を拠点に最新型の潜水艦が南シナ海を深く潜航して、台湾とフィリピンの間のバシー海峡を通って西太平洋に抜けることが可能になります。

中国が海も空も支配するウッディー島、ファイアリークロス礁、スカボロー礁を結ぶ一辺650~900キロメートルの三角形が出現すれば、南シナ海に本格的な作戦基地を有しない米国は極めて深刻な事態に陥ります。

綻ぶ「核の傘」

中国の戦略ミサイル原潜が南シナ海を聖域にして活動範囲を太平洋やインド洋に拡大し、潜水艦発射弾道ミサイルで米ワシントンを狙えるようになれば、どうなるでしょう。米国はミサイル防衛や早期警戒システムを見直さなければならなくなります。核の均衡に大きな変化が生じることで日本が入る「核の傘」に綻びが生じる恐れもあります。

出典:グーグルマイマップで筆者作成
出典:グーグルマイマップで筆者作成

香田元司令官によると、米国、日本、オーストラリアはベトナムやフィリピンと協力し、ベトナムのダナン、カムラン湾、フィリピンのスービック湾、パラワン島を拠点に中国の海洋進出を包囲して圧力をかけていく必要があります。

そのためには南シナ海で日本もできることをする必要があります。中国が南シナ海に戦略的トライアングルを構築するか否かは、原油、天然ガスといったエネルギーだけでなく、日本の安全保障の核をなす「核の傘」にも致命的な影響を及ぼします。昨年の安全保障法制で日本は深化した日米同盟を基軸にオーストラリアやフィリピン、ベトナムと協力する土台を築くことができました。

民主党と維新の党が合流する「民進党」は基本的政策合意で「安全保障法制については、憲法違反など問題のある部分をすべて白紙化する」と明記しています。米国では大統領選予備選の共和党候補指名争いで首位を走る不動産王ドナルド・トランプ氏が、日本の「日米安保タダ乗り」論をまき散らしています。

民主党の岡田克也代表も、維新の党の松野頼久代表も中国の「戦略的トライアングル」をどのような方法で止めるつもりなのでしょう。まさか、話せば分かるとでも思っているのでしょうか。

香田洋二(こうだ・ようじ)

元海上自衛隊自衛艦隊司令官(海将)。1972年防衛大学校卒業、海上自衛隊入隊。統合幕僚会議事務局長、佐世保地方総監、自衛艦隊司令官などを歴任し、2008年退官。09年から11年まで米ハーバード大学アジアセンター上席研究員。

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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