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広がる「人食いバクテリア」早期対策や予防の方法は?

市川衛医療の「翻訳家」
イメージ(写真:アフロ)

いま「人食いバクテリア(壊死性筋膜炎)」と呼ばれる感染症が過去最大の広がりを見せ、大きな話題になっています。

人食いバクテリア、患者数が過去最多に

報道によれば、「A群溶血性レンサ球菌」を原因とする「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」にかかる人が過去最多の442人に達しています。

発症すると手足の筋肉が急激に壊死する「壊死性筋膜炎」(人食いバクテリア flesh-eating-bacteria)になり、致死率はおよそ30%とされています。

「A群溶血性連鎖球菌の電子顕微鏡写真」東京都感染情報センターHPより
「A群溶血性連鎖球菌の電子顕微鏡写真」東京都感染情報センターHPより

通常は、レンサ球菌に感染しても無症候のことも多く、ほとんどは咽頭炎や皮膚の感染症にとどまります。

しかし、まれに通常は細菌が存在しない組織(血液、筋肉、肺など)に菌が侵入し、急激に症状が進行する重篤な疾患となることがあるといいます。

上記の情報だけ聞くと、とても恐ろしく、対応のしようがないように思えます。

でも、もし「どんな症状があったら注意したほうが良いのか?」「予防するにはどうすれば良いのか?」ということがわかれば、万が一その状況になっても、手遅れになる前に対応できるかもしれません。

そこで「壊死性筋膜炎」(人食いバクテリア)について調べてみたところ、いくつか参考になる情報があったのでご紹介させてください。

どのくらい心配すべきか?

まず調べたのは、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)の一般向けHPです。いわゆる「感染症」に関する研究や、対策の取り組みで世界的に評価されています。

壊死性筋膜炎になるほとんどの人は、感染に対抗する免疫システムに問題を抱えた人です。例えば糖尿病や腎臓病、がん、その他の免疫を弱める慢性的な病気です。もしあなたが健康で免疫システムが正常であり、衛生やけがの管理に気を付けていれば、壊死性筋膜炎を発症することはほとんどないでしょう。

出典:CDC「Necrotizing Fasciitis」より ※筆者和訳

上記の記述によれば、リスクが高いのは、糖尿病や腎臓病など「免疫」の仕組みを弱める病気にかかった人だとされています。

健康な人でリスクが全くないとは言えませんが、ケガによる傷の管理などをきちんとしていれば、必要以上に心配しすぎることはないということです。

どんな症状があったら病院に行くべきなのか?

とはいえ心配なのは、どんな症状があったら病院に行くべきか?ということですよね。この点に関し、イギリスの国営医療サービスであるNHSが一般向けに出している情報が参考になりました。

壊死性筋膜炎の症状

この病気の症状は時々刻々と進行します。最初の症状はインフルエンザや胃腸炎などに似ているかもしれません。

初期症状は下記のようなものです

・小さいけれど痛みを伴う傷や、皮膚のひっかき傷

・高い発熱など、インフルエンザかな?と思うような症状

数時間後から数日後に、次のようなことが起こります

・痛みがあった場所に、腫れや赤みが起きてきます。腫れは通常、触ると固く感じます

・下痢および嘔吐

・皮膚に黒っぽい斑点ができ、それが、水疱に変わります

※治療せずに放っておくと、感染は体内に速やかに広がり、めまい、衰弱、混乱などの症状を引き起こす場合があります

出典:NHS Choises「Necrotising fasciitis 」※筆者和訳

上記のような症状があったら、どうすべきか?必要なのは、できるだけ速やかに治療を始めることです。

壊死性筋膜炎は緊急事態であり、すぐに治療する必要があります。

あなたがそれを持っていると感じたら、できるだけ早く最寄りの救急外来に行ってください。自分の足で病院に行くのが難しければ、救急車を呼んでください。

出典:NHS Choises「Necrotizing Fasciitis」※筆者和訳

予防するためには

調べたところ、現状では残念ながら、この病に対するワクチンなどはなく、病気のメカニズムも完全には明らかになっていないようです。

でも、どうすれば少しでもリスクが減らせるのか?という意味で、参考になる情報がCDCのサイトにありました。

大切なのは、けがによる傷にきちんと対処することです。

常識的に、きちんと傷に対処することは、細菌による感染症を予防する最良の方法です。

・血などがでていたり、まだ開いていたりする傷は、清潔で乾燥した包帯でカバーしてください。

・水疱やすり傷、またはちょっとした切れ目のような傷でも、放っておかずに早めに対応してください。

・開いた傷などがある場合は、治るまで温泉、プール、湖・川・海などで過ごすことを避けてください。

・石鹸と水で頻繁に手を洗ってください。それができない場合は、アルコールで手をこすってください。

出典:CDC「Necrotizing Fasciitis」※筆者和訳

まずは傷を清潔に保ち、「細菌の侵入をいかに防ぐか」が最大のポイントのようです。切り傷を悪化させないために普通に推奨されているのと同じことですね。

これから、かぜやインフルエンザの時期になります。頻繁な手洗いはそれら困った病気の予防にも推奨されています。非常に稀な病気ですが、怖がりすぎず軽視しすぎずの態度が大切。まずは、上記の対策を少しでも心にとめてくだされば幸いです。

医療の「翻訳家」

(いちかわ・まもる)医療の「翻訳家」/READYFOR(株)基金開発・公共政策責任者/(社)メディカルジャーナリズム勉強会代表/広島大学医学部客員准教授。00年東京大学医学部卒業後、NHK入局。医療・福祉・健康分野をメインに世界各地で取材を行う。16年スタンフォード大学客員研究員。19年Yahoo!ニュース個人オーサーアワード特別賞。21年よりREADYFOR(株)で新型コロナ対策・社会貢献活動の支援などに関わる。主な作品としてNHKスペシャル「睡眠負債が危ない」「医療ビッグデータ」(テレビ番組)、「教養としての健康情報」(書籍)など。

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