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GAFAの天敵が「反独占」の棍棒を手に政権入りする

平和博桜美林大学教授 ジャーナリスト
By Open Rights Group (CC BY-SA 2.0)

GAFAの天敵が「反独占」の棍棒を手に政権入りする――。

グーグル、フェイスブックなど巨大IT企業による市場独占への批判の急先鋒で、「反トラストのクルセイダー(活動家)」とも呼ばれるコロンビア大学教授、ティム・ウー氏が米バイデン政権入りすることが3月5日、発表された

トランプ前政権の終盤、グーグル、フェイスブックは反トラスト法(独占禁止法)違反で相次いで提訴され、その照準はアマゾン、アップルにも向けられている

EUを含め、「大きすぎる」プラットフォーム規制の動きが本格化する2021年。

そんな世界的な潮流の中で、「反トラストの"冬の時代"は終わった」と述べる論客が、ホワイトハウスでプラットフォーム規制を加速させる。

●「ネット中立性の父」

ティムは、大統領が掲げるアジェンダ推進を支えてくれるだろう。それは、ITプラットフォームの強大化がもたらす経済的、社会的な課題への取り組み、競争の促進、そして独占と市場支配力への対処だ。

ホワイトハウスのジェン・サキ報道官は3月5日の記者会見で、ティム・ウー氏のホワイトハウス入りについて、こう説明した。

ウー氏はコロンビア大学ロースクール教授の職を辞し、国家経済会議(NEC)のテクノロジー・競争政策担当の大統領特別補佐官に就任する

国家経済会議は、大統領をトップとする省庁横断の経済政策に関する調整組織。その中枢に、プラットフォームの天敵、ウー氏が陣取ることになる。

ウー氏は父親が日本統治下の台湾出身。これまでに米最高裁のスティーブン・ブレイヤー判事(※最近ではゴーン被告逃亡事件の2容疑者引き渡し差し止め請求棄却)のロークラーク(調査官)や、バラク・オバマ政権で連邦取引委員会(FTC)シニアアドバイザー、国家経済会議のアドバイザーなどを務めている。

ウー氏といえば、まず挙げられるのが「ネットワーク中立性の父」という呼び名だ。

ウー氏が2000年代初めから提唱してきた「ネットワーク中立性」とは、ブロードバンド政策において、ネットワーク事業者が「すべてのコンテンツ、サイト、プラットフォームを平等に扱う」べきであるとする考え方だ。

この「ネットワーク中立性」が担保されず、ネットワーク事業者が特定のサービスを優先するなどの差別的取り扱いが横行すれば、市場への新規参入のハードルとなり、イノベーションが阻害される、との危険性を指摘する。

この考え方は、現在のプラットフォーム支配に対する批判にもつながる。ウー氏のホワイトハウス入りが注目されるのは、まさにその点だ。

●「金の力では逃げられない」

今回の提訴は、米国政府が放棄してしまったのでは、と誰もが危惧していた役割を、再び担うという証だ。すなわち、米国の最大・最強の独占企業を規制する、という役割だ。

ウー氏は2020年10月22日に、ニューヨーク・タイムズに寄稿した「グーグルよ、金の力ではここからは逃げられない」と題したコラムで、そう指摘している。

その2日前、米司法省は反トラスト法違反でグーグルを提訴している。「最強の企業であっても、それを上回る人民の力があることをわきまえておくべきだ。この提訴はそのことに気づかせてくれる」とウー氏は述べる。

この司法省の提訴を皮切りに、12月9日の米連邦取引委員会(FTC)ニューヨーク州など48州・準州・特別区の司法長官によるフェイスブック提訴、12月16日にはテキサス州など10州17日にはコロラド州など38の州・準州・特別区によるグーグル提訴、と波状攻撃のような提訴が続く。

※参照:2021年、GAFAは「大きすぎて」目の敵にされる(12/18/2020 新聞紙学的

※参照:「買収か死か」ユーザー32億人のFacebookに分割を突き付けるわけ(12/11/2020 新聞紙学的

連邦取引委員会の停止から3日後の12月12日、ウー氏がニューヨーク・タイムズに書いたコラムのタイトルは「フェイスブックは金の力で競争を逃れることはできない」。

連邦政府と各州は、すべての米国企業にとっての基本的なルールを、改めてはっきりさせようとしている。金の力で競争を逃れることはできないのだ。CEOのマーク・ザッカーバーグ氏が率いるフェイスブックは、そのニヤついた、悪辣な戦略によって、競争上の脅威を抑え込むためにいくつもの企業を買収してきた。同社の行為を見逃せば、それを認めることになる。長年にわたって違法行為を許していけば、それが規範になってしまう。

この2本のコラムを読むだけでも、プラットフォーム規制に対する、ウー氏の立ち位置はわかってくる。そして、バイデン政権の競争政策がどの方向に向かうのか、おおよその見当はつきそうだ。

●「反トラスト、"冬の時代"は終わった」

現在の大半の業界は、1社による支配もしくは寡占状態だ。グーグルは検索を"占有"している。フェイスブックはソーシャルネットワーク。イーベイはオークションを支配。アップルはコンテンツのネット配信を支配。アマゾンは小売りだ。

ウー氏は2010年11月のウォールストリート・ジャーナルへの寄稿で、こう指摘している。

ウー氏の批判の矛先は、グーグル、フェイスブックだけではない。インターネット上の自由市場が、限られた巨大IT企業によって支配されていることへの異議申し立てを、一貫して行ってきている。

その現状と表裏の関係として、1998年に司法省が提訴したマイクロソフトへの反トラスト法違反訴訟(※和解で分割回避、2011年終結)以降、米国政府は約20年にわたって反トラスト法違反の摘発から遠ざかっていた――それがウー氏の認識だ。

今回の提訴は、反トラストの"冬の時代"の終わりを告げるものだろう。

2020年10月の司法省によるグーグル提訴を受けて、ウー氏はNPRのインタビューでこう述べている。

デジタルエコノミーの門番として、これらプラットフォームは、勝敗を見通し、小規模ビジネスをなぎ倒し、競合の息の根を止めて、自社を肥大させる。そんな権力をおう歌してきたのだ。(中略)その力は、企業による政府権力とも言うべきものだ。建国の父たちは、国王に屈することを拒んだ。我々もまた、ネットエコノミーの皇帝に屈してはならない。

2020年7月末、米下院反トラスト小委員会の委員長、デビッド・シシリン氏(民主党)は、GAFA4社のCEOがオンラインで顔をそろえた公聴会の開会の声明で、こう述べている。

※参照:コロナ禍でさらに強大化、GAFA支配の黒歴史が問いただされる(07/31/2020 新聞紙学的

グーグルとフェイスブックへの提訴が行われたということで、アップルとアマゾンが難を逃れたわけではない。

ワシントンのNPO「オープンマーケット研究所」ディレクターのサリー・ハバード氏は、2021年1月のブルームバーグのインタビューで、そう指摘している。

●プラットフォーム規制の年

EUでもプラットフォーム規制の動きは勢いを増す。

欧州委員会は2020年12月には、フェイクニュース(ディスインフォメーション)に関する包括的な政策パッケージ「欧州民主主義行動計画(EDAP)」と、プラットフォームのコンテンツ管理に焦点を当てた「デジタルサービス法(DSA)」と、競争促進に焦点を当てた「デジタル市場法(DMA)」の2つの規制法案を発表している。

また、オーストラリアでは2021年2月25日、プラットフォームにメディアへのニュース使用料支払いを義務化する「ニュースメディア・デジタルプラットフォーム契約義務化法」が成立。カナダやEUにも同様の動きが飛び火する様相だ。

※参照:Google、Facebook「支払い義務化法」が各国に飛び火する(03/01/2021 新聞紙学的

ウー氏のホワイトハウス入りは、そんな「プラットフォーム規制の年」を象徴する動き、と言える。

(※2021年3月8日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

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