新型コロナウイルスの影響でDI値は過去最低値を更新…2020年3月景気ウォッチャー調査の実情をさぐる
現状は下落、先行きも下落
内閣府は2020年4月8日付で2020年3月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DI(※)は前回月比で下落、先行き判断DIも下落した。結果報告書によると基調判断は「新型コロナウイルスの影響により、極めて厳しい状況にある。先行きについては、一段と厳しさが増すとみている」と示された。2019年2月分までは「緩やかな回復基調が続いている」で始まる文言だったことから、景況感がネガティブさを見せる形が2019年3月分以降、13か月連続する形となっている。
なお現状判断DI、先行き判断DIともに、値が取得できる2001年1月分以降においては、リーマンショック後の2008年12月につけたこれまでの過去最低値(現状判断DIは19.0、先行き判断DIは21.3)を下回り、最低値を更新する形となった。
2020年3月分の調査結果をまとめると次の通り。
・現状判断DIは前回月比マイナス13.2ポイントの14.2。
→原数値では「やや悪くなっている」「悪くなっている」が増加、「よくなっている」「ややよくなっている」「変わらない」が減少。原数値DIは15.9。
→詳細項目はすべての項目が下落。「サービス関連」のマイナス17.9ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は皆無。
・先行き判断DIは前回月比でマイナス5.8ポイントの18.8。
→原数値では「悪くなる」が増加、「よくなる」「ややよくなる」「変わらない」「やや悪くなる」が減少。原数値DIは18.7。
→詳細項目はすべての項目が下落。「住宅関連」のマイナス12.5ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている項目は皆無。
昨今では現状判断DI・先行き判断DIともに低迷傾向にあり、ここ1、2か月で急落と表現できよう。
現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中。今回月は前回月に続き新型コロナウイルスによる影響を受け、大きな下落の中にある。
先行き判断DIも海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。さらに今回月は前回月に続き新型コロナウイルスの影響拡大を懸念する形で、大きくマイナスを示す形になった。
DIの動きの中身
次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。
2019年11月以降は実際に消費税率が引き上げられた10月の大幅下落からの反動で上昇を示していたが勢いは弱く、消費税率引き上げ直前の値46.6までには戻っていなかった。そして2020年2月では新型コロナウイルスの影響による景況感の悪化が一気に噴き出した形となり、大きな下落。その勢いは今回月まで続き、目も当てられない状態になっている。特に「飲食関連」は0.7と、これまでに見たことも無いような値に。なお今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は皆無。
続いて先行き判断DI。
今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は皆無。最大の下げ幅は「住宅関連」の17.3ポイントだが、これは新型コロナウイルスの影響で景況感の悪化はしばらく続き、住宅の購入を避ける動きが強まるのではないかとの想定があるものと考えられる。また、中国などから建築資材が入って来ないために建築工期が遅延する事態が多々生じているが、その状況が継続するものとの観測も多分に影響しているのだろう。
新型コロナウイルスで超大打撃
報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。
■現状
・学校の休校や外食から内食への変更により、売上が大きく伸びている。ただし、ここ数か月、来客数は大きく変わらず推移していることから、現状の売上増は景気が上向いているためとは考えられない(スーパー)。
・長引く新型コロナウイルスの影響で、海外からの観光客に加え、一般の来客も減っている。特に遅い時間帯の客が減っており、お菓子や総菜の販売は伸びているものの、来客数の減少による落ち込みはカバーできていない(コンビニ)。
・新型コロナウイルスの影響により、企業接待、異業種会合、社内送別会などが軒並みキャンセルとなり、料亭部門では来客数が前年比の約30%まで落ち込んでいる(高級レストラン)。
・新型コロナウイルスの影響により、海外旅行は壊滅的な状況である。国内でも、自粛の影響があり、集客が伸びていない(旅行代理店)。
■先行き
・新型コロナウイルスの影響と、東京オリンピックの延期によるテレビなど映像関連の不振を見込んでいる(家電量販店)。
・新型コロナウイルスの収束も見えず、宴会部門の予約はほとんどがキャンセル状態である。この状況が2-3か月続けば、倒産もあり得る厳しい状況になってきている(都市型ホテル)。
・新型コロナウイルスの影響が日増しに大きくなっている。今後数か月で劇的に回復するとも思えず、営業時間や営業日の調整などを本格的に検討することになる(百貨店)。
・東京オリンピックの延期も決まり、既に各所ではゴールデンウィーク期間中のイベントも中止の判断をされるなか、先が見通せない状況が続いており、今後の感染拡大の状況次第では、閉園などの対応が必要となることも懸念されるため、悪化は避けられない(テーマパーク)。
2020年1月分まででは見受けられた消費税率の引き上げや暖冬、さらには米中貿易摩擦の話がほぼ吹き飛び、新型コロナウイルスへの懸念で埋め尽くされている。ごく一部にはポジティブに影響するところもあるが、ほとんどがネガティブ。人も物も動きが停滞してしまうため、あらゆる方面で悪影響が生じてしまっている。ポジティブな材料となるはずのゴールデンウィークやオリンピックまでも巻き込む形となり、その上、明確な先行きが見えないことが、不安をさらに強いものとしてしまっているのが確認できる。
企業関連でも新型コロナウイルスの影響への不安の声が見受けられる。
■現状
・受注の勢いが弱くなり、新型コロナウイルスの影響で、中国からの設備商材の部品が来ないため、工事完成の見込みが立たない。工事によっては受注を見合わせる物件も出てきている(建設業)。
・新型コロナウイルスの影響で工場が止まったり、物が来ないといった影響が多々出始めている(輸送用機械器具製造業)。
■先行き
・新型コロナウイルスの流行でアジア向けの輸出、輸入関連貨物がストップしている。中国向けは来月辺りから若干動き始める見込みであるが、その他の地域向けがいつ頃に回復するのかまったく分からない(輸送業)。
・東京オリンピックの延期により建築案件が更に先送りになり、当面鋼材消費の回復は期待できない(鉄鋼業)。
新型コロナウイルスは国内の人や物の動きを低迷させるだけでなく、国外においても同様の影響を与えているため、それが国内にも悪影響をおよぼす形となってしまっている。
雇用関連でも新型コロナウイルスが大きな影響を与えている。
■現状
・特に、ホテル、飲食、観光業界の売上が激減しており、助成金若しくは休業などの相談が非常に増えてきている(職業安定所)。
■先行き
・新型コロナウイルス感染拡大の影響により、今後の業績が見通せない状況となっている。業績が悪化する兆しが生じれば、パート、アルバイト、契約社員の契約満了を視野に入れるようになるだけでなく、人材派遣などの利用も減少することになる(人材派遣会社)。
企業の業績が急激に悪化し今後の見通しも立ちにくい状況の中で、人材を確保するどころか企業自身の存続も危ういとの話が出ており、雇用市場が悪化している実情が分かる。
今件のコメントで消費税率引き上げに関するコメントを「消費税」のキーワードで確認すると、現状のコメントで21件(前回月83件)、先行きのコメントで16件(前回月55件)の言及がある。不安や懸念といったネガティブな内容が多々見られるが、それらですら大部分は新型コロナウイルスの話に付け加える形でのものとなっている。どこぞで主張されている「消費税の増税で財政再建が進むので社会保障への安心感が強まり、消費が活性化される」などとの意見は見当たらない。なお「財政再建」は一件も言及されていない。
米中貿易摩擦に関しては現状のコメントで4件、先行きのコメントで1件が確認できる。ネガティブな内容がほとんどで、景況感の足を引っ張っていることは間違いない。もっとも今回月では消費税同様に、ほとんどが新型コロナウイルスの言及のついでに語られている形となっている。
他方新型コロナウイルスに関しては現状で998件(前回月788件)、先行きで1085件(前回月1059件)。凄まじい言及数で、消費税率の引き上げも米中貿易摩擦も暖冬もすべて吹き飛んでしまった状態。内容の性質上、ネガティブな話になるのは当然ではあるが、先行きでは特に悲観的な意見が多い。
今回月でリーマンショックや東日本大震災を超えるレベルにまで景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、しばらくは状況の改善は期待できない。次回月以降も心理的、そして具体的な形で景況感に悪い影響を与えることになるだろう。
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※景気ウォッチャー調査
※DI
内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域毎の景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。
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