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『オーボエ協奏曲』と『ボレロ』。宇野昌磨を世界の頂点に立たせた、二つのプログラム

沢田聡子ライター
(写真:ロイター/アフロ)

ショート『オーボエ協奏曲』とフリー『ボレロ』。二つのプログラムを滑り切り、宇野昌磨はついに世界選手権で優勝を果たし、頂点に立った。

宮本賢二氏振付による『オーボエ協奏曲』は、ゆったりとしたメロディに乗って宇野の重厚なスケーティングが映える。特に世界選手権では、一つひとつの音を最後まで使い切る宇野の体の線が美しかった。

ショート後の会見で質問に立った海外メディアの関係者は「今日『オーボエ協奏曲』は傑作になった」とした上で、今まで次のエレメンツに急いでいるようだった宇野が今日は時間を支配しているように見えたが、その違いは何かと問いかけている。宇野は「そういった言葉を言っていただき、すごく嬉しく思います」と感謝し、言葉を継いだ。

「本当におっしゃる通りだと思っていて、最近の僕の演技というのは、割と一つのエレメンツが終わった後に、次に気持ちが…不安から来る気持ちなんですけれども、気持ちがそこにないというか。次のことばかり考えていたり、結構慌ただしい演技になりがちな中、今日は、これは練習でずっとできていたからこその落ち着きだったとは思うんですけれども『本当にただただ練習通りをやればいい、それだけでいい』という。自分をいつもより良く見せようとせず、いつも通りを見せようとした結果生まれた、余裕のある演技だったと思います。

ショートプログラムに関してはまだまだジャンプの難易度が低いので、そのジャンプ以外のところにもっともっと力を入れられると思う。今年は僕のフィギュアスケートがまた再発進したと思っている年なので、これからもっと成長を見せられたらなと思っています」

またフリー『ボレロ』は、宇野が師事するステファン・ランビエールコーチが振り付けたプログラムだ。フリー後の記者会見で、ある海外メディアの記者がフリーで使っている『ボレロ』を「面白いアレンジをした、再解釈したようなもの」とし、音楽との関係性について尋ねたところ、宇野は次のように答えている。

「このフリーの『ボレロ』に関しては、ショートと違って…ショートは比較的スローなテンポなので、割と曲に合わせて体を動かすことによって無駄な力が抜けて、体力もショートの方が楽です。このフリーに関してはアレンジも振り付けもあいまって、すごくジャンプも難易度が高いので、体力をとても消耗するプログラムになっています。

この最後の試合になって、ようやく最後までちゃんと滑り切る状態にできました。一年間、ショートは一週間に一回か二回、それ以外の日は全部フリー、という感じで練習をしてきても、ようやく一年でここまでもってくるので精一杯でした。これだけ大変なプログラムは、もちろんステファンコーチがそれだけ期待して下さっているからかなと思います。また今後どのプログラムをやるにしても、このプログラムよりは楽だなって思えると思います」

すると司会者が、会見場にいたランビエールコーチに「もしよかったら追加で答えてみますか?」と呼びかける。ランビエールコーチは遠慮しながら、「一言だけ言いたいと思います」と話し始めた。

「ショーマ、さらにステップアップするから楽になることはない」

宇野はこの言葉を聞いて、笑っている。

「『さらにハードワークを重ねるからこそいい選手になって、その先にはまた新たなチャレンジが待っているんですよ』と伝えたいと思います」

日本の振付師による端正で優雅なショートと、ランビエールコーチの期待が込められた濃密なフリーを滑り切り、宇野はついに世界王者になった。来季、ランビエールコーチはさらに高度なプログラムを用意し、宇野をさらなる高みに引き上げるのだろうか。

ライター

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(フィギュアスケート、アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。2022年北京五輪を現地取材。

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