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颯爽と踏み込む藤井聡太挑戦者(19)最新手法で新時代を切り開くか? 叡王戦五番勝負第1局開始

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 7月25日9時。東京都千代田区、江戸総鎮守・神田明神において第6期叡王戦五番勝負第1局▲藤井聡太二冠(19歳)-△豊島将之叡王(31歳)戦が始まりました。棋譜は公式ページをご覧ください。

「なんだ神田の大明神」

 そんな古くからの言い回しがあります。第1局の対局場は神田明神。江戸城を5五とすると、4四の地点にあります。江戸城から見て艮(うしとら=北東)。陰陽道でいうところの「鬼門」の方角です。

「なんだ神田の千駄ヶ谷」

 そんな言い回しもあります。同じ東京都内でも、神田と千駄ヶ谷は少し離れています。特に深い意味はなく、単に語呂がいいのでしょう。現在の将棋会館がある千駄ヶ谷は、国立競技場の最寄。現在開催中のオリンピックの模様を伝える映像、画像では、千駄ヶ谷の街並がよく出てきます。

 8時44分頃。神田明神内の対局室にまず入ったのは、藤井挑戦者。涼やかな白い羽織姿です。王位戦と立場が変わって、こちらでは挑戦者。下座に着いて、ペットボトルのお茶を手にし、グラスに注ぎました。

 8時46分頃、豊島叡王が入室。こちらも夏らしい、淡い青緑の羽織姿です。

 五番勝負開幕に先立つ振り駒は「と」が3枚。第1局は藤井挑戦者が先手と決まりました。

 本局の立会人を務めるのは島朗九段です。

 朝9時。

島「定刻になりました。挑戦者・藤井二冠の先手番で開始してください。よろしくお願いします」

 両対局者は深く一礼して、対局が始まりました。

 藤井二冠はまずグラスに注がれたお茶を飲みます。そして初手、飛車先の歩を突きました。

 ここで後手はゆったりと間隔をあけ、2手目を指すのが一般的なタイトル戦開始時の呼吸です。ストップウォッチ形式であれば、一分未満で指せば消費時間はカウントされません。

 本局、豊島叡王はすぐに2手目を指します。こちらも飛車の前の歩を一つ進めました。叡王戦はチェスクロック方式。使った時間は秒単位でそのまま消費時間として加算されていきます。

 相掛かりか、それとも角換わりか。重要な分岐点となる注目の5手目。藤井挑戦者は角筋を開きました。これは角換わりで指すという意思表示です。両者の間で指された先日の王位戦第3局も藤井先手で角換わりとなりました。

 このまま駒組が進むかと思われた9時15分。藤井挑戦者の手が早くも盤上に波紋を呼びます。19手目、藤井挑戦者は飛車先の歩の交換に出ました。これは驚きの一手。こう動いていくと早くも乱戦に入る可能性があります。

「えっ? うちのソフトだと最善じゃないんだけど?」

 そう言われる方も多いと思われます。実は従来型のコンピュータ将棋ソフトは藤井挑戦者の19手目を最善とはしません。しかし一方で、従来型のソフトの強さに追いつき、いままさに追い越そうとしている最新のディープラーニング(DL)系のソフトは、この19手目を最善と判定するそうです。

 棋士の間でソフト研究は一般化しました。しかしDL系は導入が難しく、まだほとんど浸透していないようです。一方で、藤井挑戦者はいち早くDL系を取り入れているそうです。藤井挑戦者の研究は最近、DL系の影響を大きく受けているのではないか、というのが識者の指摘するところです。

 従来型、DL系、それぞれにメリット、デメリットがあります。DL系は序盤の大局観が優れているそうです。藤井挑戦者がいち早くDL系での研究をうまく取り入れているとすれば、鬼に金棒というところでしょう。

 研究家として知られる豊島叡王の手がしばらく止まりました。22手目、反撃の角を打つ一手に18分が使われています。藤井二冠はすぐに横歩を取ります。その時間の使い方から、事前研究が十分であることを思わせます。

 藤井挑戦者は飛角交換で豊島叡王の反撃を収め、2歩得の成果をあげます。形勢はわずかに藤井挑戦者がリードを奪ったようです。

 時刻はそろそろ11時。現在は藤井挑戦者が33手目を考えています。

 本棋戦の主催社は不二家です。

 対局者には不二家のおやつが出されます。本日、日曜日。不二家のお菓子やケーキを食べながら観戦ということも多いでしょう。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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