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【今から楽しむ初代86BRZ】加速力アップ、燃費にも効く! インテークチャンバーって何だ?

高根英幸自動車ジャーナリスト
86/BRZにはインテークチャンバーが効果絶大、注目のパーツだ(筆者撮影)。

吸排気のチューニングは、サスペンションと並んでクルマをスポーティにリファインする定番の手法だ。

しかし吸気系も排気系も、手を加える場合は目的に合わせてバランスを取るのが大事。単に吸気抵抗、排気抵抗の少ないパーツに交換すればいいというものではないのだ。

特にスポーティなクルマの場合、ノーマルでも自動車メーカーが入念にチューニングを施している場合も多い。それでもスポーティなクルマでは、そういったチューニングパーツも数多く揃えられているから、選ぶのも楽しく、走りのフィールの変化も楽しめるというものだ。

例えばトヨタのGR86/スバルBRZの場合、エアクリーナーとスロットルボディをサクションパイプは吸気系パーツの定番だ。2Lエンジンを搭載していた先代の86/BRZでも同じように、ノーマルのゴム製の蛇腹状になったパイプから、シリコン製あるいは金属やFRP/CFRP製の太くてスムースな形状のパイプに交換しているオーナーも多い。

いかにも吸気抵抗がありそうな蛇腹状のノーマルから、アフター品のサクションパイプに交換することで、吸気系のロスが減り、スロットル操作に対するレスポンスや高回転域でのパワー感などが改善された、というオーナーの声も多い。

けれども、このサクションパイプよりもっと効果的な吸気系のチューニングパーツが登場したと聞いたら、どうだろう。それがインテークセルキット、エアロパーツを製作販売しているガレージベリーというパーツメーカーが発売した新しいアイテムだ。

ガレージベリーでインテークセル開発中の様子。筆者の先代後期BRZも容積やフィッティングの確認のために協力したのだ(筆者撮影)。
ガレージベリーでインテークセル開発中の様子。筆者の先代後期BRZも容積やフィッティングの確認のために協力したのだ(筆者撮影)。

純正のインテークチャンバーの容量を最大限に拡大

実はこのパーツ、86/BRZではノーマルでも付いているインテークチャンバーをサイズアップしたもの。インテークチャンバーとは吸気系に追加される膨張室のことで、ノーマルの蛇腹の曲がっている部分の裏側に拳大の樹脂製パーツが追加されているのだ。

純正のインテークパイプ裏側に装着されているインテークチャンバー(筆者撮影)。
純正のインテークパイプ裏側に装着されているインテークチャンバー(筆者撮影)。

前述のアフターパーツであるサクションパイプに交換している人は、サクションパイプ装着と同時に外してしまっているケースが多い。つまりチューナーでさえも見過ごしていたアイテムなのである。

気温が低い状態、すなわち空気密度が高い状態では最大で10psのパワーアップを記録(現行のGR86/BRZの場合)したそうだ。しかし、このアイテムの凄いところは、ピークパワーや最大トルクの向上などではない。

ノーマルのインテークチャンバーからインテークセルに交換した途端、アクセルを踏み込んだ瞬間のトルクが違うことに気付かされたのだ。それはまるでターボの過給が立ち上がった瞬間のような力強さを感じさせられたのである。

ガレージベリーのインテークセルキット。本体は大容量インテークチャンバーで、エアクリーナーに組み込む整流板もセット。86/BRZと現行のGR86/BRZの全てに対応(AT車は確認中)する(筆者撮影)。
ガレージベリーのインテークセルキット。本体は大容量インテークチャンバーで、エアクリーナーに組み込む整流板もセット。86/BRZと現行のGR86/BRZの全てに対応(AT車は確認中)する(筆者撮影)。

その効果の理由は、インテークチャンバーの装着位置とエンジンの仕組みを理解すれば見えてくる。エアクリーナーを通過するためには、それなりの吸気抵抗を伴う。インテークチャンバーは、あらかじめエアクリーナーを通過した空気を溜めておけるから、加速時にはチャンバーとエアクリーナーの両方から吸気するため、ポンピングロスが減って燃焼室への充填効率が高まるからだ。

効果が持続するのは時間にして0.5秒から1秒程度だが、その間の加速は交換前とは別物のように鋭く力強い。

MT車ではシフトアップのたびにアクセルを戻すから、その瞬間にスロットルバルブより上流(エアクリーナー側)の負圧は解消されて、インテークチャンバー内は正圧に近くなる。そして再度加速する時には、再びインテークチャンバーが効果を発揮してくれるのである。

全開加速などのやる気モードではなく、3000rpmでシフトアップしていく日常の緩加速でも効果を発揮するから、あっという間に5速までシフトして法定速度を超えそうになる。加速を楽しんでいると燃費は悪化してしまうが、上手に使えばむしろ燃費を向上させる走り方もできる。

先代86/BRZの加速力が大幅アップ!

そんなに効果があるなら自動車メーカーはなぜ、このインテークチャンバーを採用しない、あるいは採用しても小さな容量にとどめているのか。それはエンジンルームの容積から、インテークチャンバーを盛り込むことが難しいという理由もある。

またインテークチャンバーの効果が大きすぎると、アクセルを開けた時とそのまま加速し続けた時の差が大きく、エンジン性能が状況によって変わるので、違和感を感じるケースもあるだろう。事実、筆者は装着して初めて発進した直後、2速にシフトアップ時に若干のギクシャク感を感じた。

それはこれまでの加速とは異なるフィールで、スロットル操作に対するレスポンスが鋭くなってクラッチを繋いでいくタイミングが変わったからのようだ。少し走ればすぐに慣れて、それまで通りのスムースな走りを取り戻すことができた。その上で前述のように別物の加速力を味わえるのだからデメリットには感じなかった。

またATでは、シフトアップ時にスロットルバルブを閉じない(アクセルペダルは戻さないが、電子制御スロットルなので点火だけでなくスロットルバルブも閉じる方向に制御するエンジンはあるだろうが、全閉までは至らない)ので加速中にシフトアップの度に効果を感じ取ることは難しいだろう。

それでも2500rpm以上であればアクセルを踏んだ途端、クルマが前にグイッと出る感覚は味わうことができるから、装着するメリットは十分にあるハズだ。

装着されたインテークセルキット。クランクプーリーとのクリアランスも十分に考えられている(筆者撮影)。
装着されたインテークセルキット。クランクプーリーとのクリアランスも十分に考えられている(筆者撮影)。

実はこのインテークチャンバー、バイクでは常識のアイテムである。筆者もかつては2サイクルのバイクに傾倒していたから知っているが、2ストバイクとクルマでは効果の仕組みが若干違う。

2サイクルは開閉するバルブ機構を持たずポート(孔)を使って吸排気しているため、脈動が大きい。単気筒の場合はこの脈動をインテークチャンバーに導いて反響させることによって充填効率を高め、2気筒ではお互いのシリンダーが発生する脈動を利用して充填効率を高めるのだ。

スロットルバルブより上流にインテークチャンバーがある多気筒4サイクルのクルマでは脈動効果は期待できないが、前述のように加速時のポンピングロスが軽減されることにより、加速初期の立ち上がりが改善されるのである。

今回のインテークセルシステムはそうした構造を理解した上で、ガレージベリーが試行錯誤して容積を見極め、エアクリーナーボックス内に整流板を追加し、インテークチャンバーの効果を最大限に引き出している。

先代の86/BRZと現行モデルのGR86/BRZに対応し、排気量などによって仕様は異なるが、すべてFRP製で価格は35,200円(税込)。従来のエアロパーツ等と同様、全国のディーラーやカー用品店で注文可能だ。

MTのGR86/BRZ、先代の86/BRZオーナーには、間違いなくオススメできるアイテムだ。トルクの谷を解消して、鋭い加速が楽しめる。

ただしサクションパイプをノーマルから交換しているオーナーは、ノーマルのゴム製蛇腹形状に戻す必要がある(SARD製のサクションパイプなどインテークチャンバーを装着するタイプは利用可能)。

サクションパイプ自体はブリッピング時のレスポンスや高回転域での加速フィールを改善する効果はあるから、好みで選ぶべきパーツとも言える。

普段乗りのストリートではインテークセルの方が効果を発揮するが、トルクよりも高回転域の伸びやナチュラルなパワーフィールを優先するならサクションパイプ交換もアリだと思う。

ともあれ初代86/BRZは、まだまだ新たなチューニングアイテムが登場するなど現行のGR86/BRZにも負けない、走りの魅力を堪能できるクルマであることが証明されたのであった。

自動車ジャーナリスト

日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。芝浦工業大学機械工学部卒。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、様々なクルマの試乗、レース参戦を経験。現在は自動車情報サイトEFFECT(https://www.effectcars.com)を主宰するほか、ベストカー、クラシックミニマガジンのほか、ベストカーWeb、ITmediaビジネスオンラインなどに寄稿中。最新著作は「きちんと知りたい!電気自動車用パワーユニットの必須知識」。

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