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ベンゼン検出問題で揺れるニキビ治療の現場〜皮膚科医が語るBPO製品の安全性と今後の展望

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:アフロ)

【ベンゾイルペルオキシド製品から検出されたベンゼンとは?】

みなさんは、ニキビ治療に欠かせないベンゾイルペルオキシド(BPO)配合製品から、発がん性物質であるベンゼンが検出されたというニュースをご存知でしょうか?ベンゼンは、白血病などのがんと関連があることが知られています。

2024年3月6日、米国の独立検査機関バリシュアが、高レベルのベンゼンが検出されたBPO製品の自主回収をFDAに要請しました。バリシュアは66種類のBPO製品を検査し、体温(37度)、医薬品安定性試験温度(50度)、高温の車内(70度)で保管した際、高レベルのベンゼンが生成されることを発見したのです。

一部の専門家からは、過度に高温で検査したことへの疑問の声もあります。検査機関のバリシュアは、製品のライフサイクル全体(通常は製造から使用期限までの3年間)にわたり安全性を保証するため、数ヶ月間高温にさらす「加速安定性試験」を実施しました。FDAもこの検査方法に問題がないとの認識のようです。

【ベンゼン検出問題に対する専門家の見解】

イェール大学医学部皮膚科准教授のクリストファー・ブニック博士は、2021年の日焼け止めクリームでのベンゼン検出以来、皮膚科領域でのベンゼン混入問題に注目してきました。博士は、2024年のアメリカ皮膚科学会年次総会で、BPO製品におけるベンゼンについて最新情報を発表しました。

ブニック博士によれば、BPOの最大の問題点は分解であり、混入ではないとのこと。FDAはベンゼンを2ppm以下に抑えることを求めていますが、これは製品の製造に絶対に必要で、その製品が大きな医療上の進歩をもたらす場合に限られます。ニキビ治療には他にも多くの選択肢があることから、BPO製品に2ppmを超えるベンゼンが含まれることは許容できないとブニック博士は指摘しています。

また博士は、BPO製品の使用を続けたい場合の対策として、製品を常に冷蔵庫で保管し、3~6ヶ月ごとに新しいものに交換すること、高温での保管を避けることを提案しています。これにより、ベンゼンの生成をを遅らせることができるでしょう

【皮膚疾患治療における今後の展望】

ニキビなどの皮膚疾患治療に広く用いられているBPO製品ですが、今回のベンゼン検出問題により、米国では患者さんの間に不安が広がっています。皮膚科医としては、ベンゼンの発がんリスクを踏まえつつ、ニキビの症状改善に向けた最適な治療法を提案していく必要があります。

私個人の意見としては、今のところBPO製品は決められた方法で正しく保管すれば、発がん性の問題はないと考えております。ただ、高温となる場所での長期保管は避けたほうが良いでしょう。

BPOに代わる新たな有効成分の開発や、ベンゼンを生成しにくい製剤の改良など、製薬業界の取り組みにも注目が集まります。同時に、患者さん自身が正しい情報を得て、適切な皮膚ケアを行えるよう、医療従事者からのサポートが必要だと思います。

参考文献:

- Valisure Citizen Petition on Benzene in Benzoyl Peroxide Products (https://www.valisure.com/wp-content/uploads/Valisure-FDA-Citizen-Petition-on-Benzene-in-Benzoyl-Peroxide-v4.0-3-6-23.pdf)

- USP statement on third party laboratory benzene findings (https://www.usp.org/news/statement-on-third-party-laboratory-benzene-findings)

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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