「トップガン:マーヴェリック」著作権侵害訴訟は単なる言いがかりではなさそう
「米映画”トップガン”の原作者遺族が続編巡りパラマウントを提訴 20年に”著作権終了”と主張」というニュースがありました。1986年公開の一作目の方の「トップガン」の原案の記事の著者の遺族が、今年公開の「トップガン:マーヴェリック」を巡って、パラマウント・ピクチャーズを相手に著作権侵害訴訟を起こしたというお話しです。
PACERで訴状をチェックしてみましたが、前回書いたマライア・キャリーのケースのように言いがかりに近い訴訟ではなく、(原告が勝訴するかどうかは別として)正当な著作権侵害訴訟のようです。以下に書くように、多少複雑ではありますが、真面目に検討すべき論点がいくつかあります。
まず、上記記事の見出しの「(20)20年に著作権終了と主張」が引っかかる人がいるかもしれません。米国では著作権は原則著作者の死後70年まで存続しますので、こんなに早く著作権が終了することはありません。
これは、米国著作権法に特有の「終了権」(termination right)という制度(米国著作権法203条)のことを言っています。終了権とは、簡単に言えば、著作権のライセンス・譲渡契約を、35年経過後に著作者側が一方的に終了できるという強行規定です。契約締結時点では著作物の将来的価値の把握が難しいため不当な条件で長期的に契約が続くことがないようにすることでクリエイターを保護するための制度です。ポールマッカートニーがビートルズ時代の作品の著作権を取り戻すためにSONY等を訴えた事件(最終的に条件非公開で和解)等が有名です。
なので、正確には「(20)20年に著作権ライセンス契約終了と主張」と書いた方が正確だったと思われます。ちなみに、米国の記事でもこのあたりをちゃんと書いてあるものは少ないです。
今回のケースの時系列は以下のとおりです。
1983年:原告(の親)が”California Magazine”に記事寄稿
1983年:パラマウントが記事の映画化権契約を締結
1986年:「トップガン」(1作目)公開
2018年:原告、終了権に基づく契約解除をパラマウントに通知
2020年:原案記事の著作権が原告に戻る
2022年:「トップガン:マーヴェリック」公開
ちなみに、「トップガン:マーヴェリック」は元々2019年7月に公開予定でしたが、コロナ等の事情により何回か公開が延期されています。公開延期がなければこの問題も生じなかったかもしれません(最初の契約内容しだいですが)。
この点について原告側の主張が認められると、次は、映画「トップガン:マーヴェリック」が原案記事の著作権(翻案権)を侵害するかという話になります。この点については、訴状のEXHIBIT1において原案記事と映画の100件弱の共通点がまとめられています。しかし、それらはほとんど「主人公は子供のころからパイロットになりたかった」等々の設定・アイデアに関するものです。著作権法はアイデアそのものは保護しませんので、仮にこの共通点の判断が日本の著作権侵害訴訟で行われたとしたならば、「共通部分はアイデアやありふれた表現に過ぎない」として著作権侵害が否定されそうです。この原則は米国でも同様ですが、原告弁護士が「大手映画会社が個人である原告を搾取している」というストーリーを陪審員にうまく説得できれば、原告に有利な判決が出る可能性もゼロではないと思います。