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<GAMBA CHOICE 4>昌子源が示す、声と言葉の牽引力。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
J1リーグにフル出場。プレーと声でチームを鼓舞し続ける。 写真提供/ガンバ大阪

 J1リーグ開幕戦から気迫漂うパフォーマンスで体を張り続けている。加入以来、痛みを抱えていた右足首が、昨年末の手術によってほぼ取り除かれたこともあってだろう。本人も「頭で考えることがスムーズにプレーで表現できるようになってきた」と話す通り、最終ラインでは対人の強さ、読みの鋭さといった持ち味が光り、日本代表でも示してきた『ラスボス感』が漂う。

 そうしたプレーとともに目を惹くのが、昌子の『声』と言葉だ。時に厳しく、時に激しく。リモートマッチが続く状況下だからこそ耳に届く彼の熱を伴った言葉の数々を頼もしく感じているファンも多いことだろう。

「キャプテンである弦太(三浦)が常にチームメイトを鼓舞する、励ます声を掛けてくれているので、僕は逆に厳しく、怒ることを意識的にしているというか。そこはチームなので、みんなが同じように吠える必要もないのかな、と。そこのバランスがうまく取れていれば、弦太の声も、僕の声もよりみんなに響くんじゃないかと思っています」

 中でも、印象的だったのは、5月2日に戦った『大阪ダービー』での一コマ。前半の終了間際、VARによって相手のPKが確定すると、すぐさま声を張り上げた。

「まだ、決まってないよ!」

 相手にプレッシャーをかけるように、味方の士気を高めるように発せられた短くて力強い言葉。結果的にキッカーに立った選手のシュートは左ポストを叩き、ガンバは大きなピンチを切り抜けることができた。

「VARでPKが確定した瞬間、相手チームの選手がすごい喜んでいましたからね。相手チームに対して、キッカーに対してのプレッシャーをかけると同時に、味方を奮い立たせるための言葉でもありました。どうしてもPKを奪われた瞬間というのは誰もが落胆してしまうものですが、『俺らにはヒガシ(東口順昭)がおるやろ』『まだ、失点したわけでもない。ここからが勝負や』という思いを込めました。とかいいつつ、その後、試合終盤に僕のシュートでPKを奪った時は、思いっきりガッツポーズして喜んでいるので、やや説得力に欠けますけど(笑)、セレッソのPKの瞬間は、そんな思いであの言葉を口にしたのは間違いないです」

 ピッチでの『言葉』の重要性を学んだのは、鹿島アントラーズ時代にさかのぼる。百戦錬磨の選手が顔を揃える鹿島にあって、本来のセンターバックではなくサイドバックで試合経験を積むこともあったプロ1〜2年目。鹿島に加入した時から、クラブGMに「将来は鹿島でキャプテンマークを巻きたいです」と伝えていた彼は、試合に出るたびにプレー面はもちろん、先輩選手のピッチでの振る舞い、言葉から多くを学んでいた。

「高卒ルーキーの言葉なので、当たり前のことながらGMには『お前じゃ無理や』と笑われたのを覚えていますが、僕自身は常にそこを意識していたので、その頃から当時のキャプテンだった満男(小笠原)さんをはじめ、中田浩二さん、新井場徹さん、岩政大樹さんらの仲間や相手選手に向けられる言葉のチョイス、声の掛け方など、プレー以外の『振る舞い』を常に観察していました。苦しい時にどんな声を出すのか。うまくいっていない時にどんな言葉をかければ味方選手に響くのか。レフェリーとのやり取りもその1つで…若い時は、ピッチ上で直接レフェリーとコミュニケーションをとるのは難しいものですが、だからこそ、味方選手が相手にファウルをされて倒れた時などに、レフェリーのところに集まると決まって…僕は何も言えないのに参加していました(笑)。そこで、レフェリーとどんなやりとりをしているのか。レフェリーにどんな言葉を発しているのか。どんな駆け引きがあって、それに対してレフェリーがどんな反応をするのか、表情を見せるのかを知りたくて、です。あの時の経験が自分のセンターバックとしての声でのアプローチに活きているところはすごくあります」

 そうして先輩選手の言葉や声を学ぶだけではなく、若かりし時は特にその声に自分も励まされ、勇気づけられてきたからだろう。5月8日の川崎フロンターレ戦に惜敗した後、右サイドから二度、崩されて失点を許したことへの対応について聞かれた昌子は「失点はチーム全員の責任」と明言した上で、この日、本来のセンターバックではなく右サイドバックでプレーした佐藤瑶大について、こんな言葉を残した。

「瑶大は対人も強いし、ヘディングも強いし、ディフェンダーとしての能力はすごく高い。僕もプロをスタートしたばかりの頃はよく左サイドバックで出場していましたけど、僕もそうだったようにセンターバックはやられて、悔しい思いをして成長していくもの。自分に納得のいかなかったプレーを反省して次に活かすことで存在感を示せるようになっていくポジションだと思っています。世間的には大卒だから即戦力という捉え方をされがちだけど、彼はまだ今日でプロ2試合目。彼のポテンシャルの高さはこれから試合を積んでいけばもっと皆さんにも伝わるはずだし、普段の練習から本当に素晴らしい能力を示している選手なので、彼にも僕を始め、弦太(三浦)やヨングォン(キム)、駿哉くん(菅沼)ら他のセンターバックのいいところを盗んでいってもらいたいし、僕も彼のいいところを盗んでいきたいと思います」

 勝利数が物語っているように、正直、ガンバのチーム状況は今、決して良くない。であればこそ、その状況でチャンスを得た若手選手たちは、「やってやろう」「チャンスをものにしてやろう」という思いと同時に、大きなプレッシャーも感じているはずだ。その姿を間近で見ているからこそ、自らの経験を通して感じてきたからこそ、もっと言えば、若手選手を含めたチームメイトが日々のトレーニングでどんな準備をし、試合に臨んでいるのかをつぶさに見てきたからこそ放たれた、昌子の言葉。これは何も仲間を擁護するためのものでは決してない。ピッチから聞こえてくる言葉と同様に、チームを勝たせるため、仲間を信じて前を向いて共に戦い続けるための言葉である。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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