こんな状況でどうしてホテルは建ち続けるのか-更地に放置物件も?
こんな状況でも見かけるホテル建設そして開業
出口の見えない1年だったホテル業界。営業終了、破綻した施設も数多く既存のホテルも予断の許さない状況は続いている。GoToトラベル再開に東京オリンピック開催へ一縷(いちる)の望みをかけていた業界であったが、先行き不透明な状況が続いている。そもそもコロナ禍以前からホテルの供給はかなりの量に及んでおり、地域によっては供給過多も指摘されていた。さらにインバウンド増加率は2019年段階で鈍化、現在も国内需要に頼らざるを得ない状況が続いている中にあって意外にもホテル建設の現場を街中で見かけることがある。
これだけホテルが溢れる中「こんな状況なのにやっていけるのか?」「勝算はあるのか?」と訝しげに思う人もいることだろう。一方、業界関係者の話を聞くと「長い目でみた場合にまさにいまを好機と捉えつつ、攻めの姿勢を続ける投資家やオペレーターもいる」というが。確かにファンドの傘下で開発・出店を続けるケース、コロナ禍ならではの運営手法で受託する運営会社など、一般のニュースではホテル関連といえば暗いニュースが続くイメージにあって“中”の話は少々雰囲気が異なる。
高名な巨大ホテルチェーンの代表者インタビューでも“いまだからこそ攻め続ける”というニュアンスの話は妙に説得力があったし、高稼働率を叩き出し続ける人気ブランドはさらに出店を加速している。とはいえ、業容拡大のメインシナリオは既存物件の買収や運営受託となってきており、そんな勝算ありきの新築案件建設・開業ばかりではないだろう。現に地方都市など取材へ出向き街歩きをするとホテル建設予定地が更地のまま放置されているのを見かけることも。近所の商店主に話を聞くと“コロナに入ってから工事止まっちゃったね”と当たり前でしょうと言わんばかりの表情で話す。
工事が停止・中止されることはまれ
長期計画と莫大な費用が投じられるホテルであるが、こんな時期に建設・開業が続くのはやはりかなりの勝算があってのことなのだろうか。取材をすすめると決して勝算ばかりではないそれなりの事情があるようだ。ホテル投資やマネジメント契約、ホテルアセットマネジメント経営が専門の立教大学大学院特任教授の沢柳知彦氏は、「開業遅延はあるものの工事が停止・中止されることはまれ」と話す。
まず、建築はゼネコンが竣工まで責任を持つ請負契約で行なわれることが一般的だが、一度発注された着工された建築工事は中途解約ができないため工期中に停止・中止されることは例外とし「工期が比較的短いビジネスホテル建築でも竣工までに18-36ヶ月ほどかかるため、コロナ禍を見て発注・着工を取りやめた分が竣工件数に現れるのは2021年後半からで、それまでは新規供給が続く」と予測する。
一方で、一部のホテルは竣工までにオペレーターの倒産や契約解除によりオペレーター不在のままで放置される物件も出てきているという一部実態も指摘する。莫大な費用が投じられるホテル建設である。なるほど、コロナ禍以前から進んでいたプロジェクトがおいそれと朝令暮改とはなりにくいだろう。開業後の運営環境が厳しいとわかっていても莫大な違約金を払って工事を中止するくらいなら、物件を竣工・開業させて少しでも投資金額を回収したいという施主の思いを受けてくれるオペレーターは、果たして見つかるだろうか。
シフトチェンジ感じるホテル業界
竣工・開業予定だったホテルがコロナ禍で延期されるケースを筆者も多く見てきたが、昨年の緊急事態宣言が解除されるタイミングやGoToトラベルキャンペーンの実施で開業ラッシュが訪れたことは記憶に新しく、先日の緊急事態宣言解除後もホテルの開業や停止していたダイニング再開等の情報に関するリリースなどが続々と届くようなった。
トレンド先取り的な意味合いもあるこのようなニュースは際立つが、陽性者数の推移からも予断は許さない状況が続く中、事態の推移や状況を見極めつつも業界のこうした動きは、ニュートラルからドライブへシフトチェンジしつつあるいまを物語っているし、なにより“観光産業は必ず復活する”という強い思いも感じる。
日頃から運営会社の現場を取材している筆者としては、この1年コロナ禍に対応すべく奮闘するホテルのリアルを見てきた。パブリックスペースや客室の除菌や消毒、レストランでの工夫など、様々なアイディアを創出し実行する涙ぐましい現場に感涙することもあった。困難に直面するほど信じられない力を発揮し成長するのは“人も開業するホテルも同じ”と信じたい。