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中国は日本の武力的脅威になるのか?――安保法案の観点から

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

安保法案必要論の一つに「日本をとりまく国際情勢の変化」が挙げられる。北朝鮮を別とすれば、その変化の中には中国がある。では中国が日本の軍事的脅威になるのか。尖閣諸島に対するアメリカの姿勢から再考察する。

◆中国は日本に戦争を仕掛けてくるか?

中国が日本に戦争を仕掛けてくるか否かによって、日本に対する中国の軍事的脅威が本当に存在するか否かが決まってくる。

まず結論的に言えるのは、中国は戦争を仕掛けて来ないということである。

その理由のひとつは、中国は絶対に負け戦をしないからである。

負け戦となれば、再び占領され、「中華民族の偉大なる復興」の夢が崩れてしまう。

いま現在、中国の軍事力はアメリカの軍事力には勝てない。日本と戦いを交えれば、必ず日米同盟によりアメリカが日本の側に付いて戦闘する。となれば中国は負けるので、中国は日本に戦争を仕掛けて来ないということが言える。

二つ目の理由は、戦争などをしたら社会の不安定化を招いて、これまで中国政府に対して不満を抱いているさまざまな層の人民が暴動を起こす。おそらく一気に民主化への道を選ぶだろう。中国政府はそれだけはさせまいと、国内に力を注がなければならなくなる。 

結果、内憂外患に悩まされ、中国共産党の一党支配体制は崩壊するだろう。

こんな危ない選択は、「共産党一党支配体制維持」を最優先課題とする中国には、あり得ないのである。

それ以外にも経済のグローバル化がある。

ここまで互いに相手の国に食い込んでいると、大きな戦争のしようがなくなる。たとえば中国にいる日本企業は多くの中国人従業員を雇用しているが、戦争になれば日本企業は撤退し従業員は解雇されるだろう。となれば解雇された従業員は戦争を起こした中国政府に対して暴動を起こす。そればかりではなく、互いに経済的損失が大きすぎるので、中国が日本に戦争を仕掛けてくることはないと考えていいだろう。

したがって、少なくとも日本に関する限り、中国脅威論を以て安保法案の正当性を主張することは、論理的に弱い。

(ここでは北朝鮮の問題には言及しない。別途の論議が必要だからだ。)

◆問題はむしろアメリカ

日本にとって最も大きな問題は、むしろアメリカだ。

尖閣諸島の領有権に関して、アメリカは中立の立場を取っている。ニクソン政権のときに沖縄を日本に返還するに当たって、「アメリカがサンフランシスコ条約によって日本から預かったのは沖縄の施政権だけであり、いま日本に帰すのはその施政権のみである。領有権に関しては関与したことがない」とした。したがって「領有権に関しては中国、台湾および日本といった紛争関係者のみで解決すべきだ」という声明を出した。

以来、アメリカはこの姿勢を崩したことがなく、2013年6月における習近平国家主席の訪米の共同記者会見で、オバマ大統領は高らかに「どちらの側にも立たない!」と叫んだ。

このことは2015年4月29日付けの本コラム「日本が直視したがらない不都合な事実――アメリカは尖閣領有権が日本にあるとは認めない」で詳述した。

中国はこれがあるからこそ、尖閣諸島に関して強気の態度を取っているのである。

だから日本が「外交的努力」で説得すべきはアメリカであって、中国ではない。しかし日本には、アメリカを説得する勇気が、今もないのである。

日本にとって最大の問題は、ここにある。

◆日本は占領時のアメリカと対等になれていない

アメリカは日本敗戦に当たり、日本を完全に武装解除し、二度と再び武器を持てないようにした。その精神に基づいて1946年に日本国憲法を制定させておきながら、1950年6月に朝鮮戦争が始まると180度方針を転換して、サンフランシスコ平和条約と同時に日米安保条約を締結させた。こんにちの自衛隊の前身である警察予備隊を設置。日本の武装化に関して、相矛盾する、あいまいな姿勢を見せた。

このねじれが、今も日本を歪めている。

今般の安保法案是非の根源も、ここにある。

日本は米軍基地を受け容れ、アメリカ軍の庇護の下に「戦後平和」を保っている。

そのアメリカの傘下から逃れたとき、日本の防衛はどうあるべきなのか?

それとも永久にアメリカの庇護の下に置かれたまま日本という国は生きていくのか?

それは「日本がアメリカと対等になるのか否か」の選択なので、そのためにはアメリカの占領下で制定された「日本国憲法」のあり方そのものを問うべきであって、ねじれを内包したまま「解釈」のみで憲法をいじろうとするので、論争が起きる。

憲法と現実の間に乖離があるのはたしかなので、新しい体制に移行するなら、憲法改正を国民に問うべきだろう。

それが独立した「国家」のあり方ではないのだろうか。

解釈だけで戦後体制を変えようとするのは、アメリカの占領下からまだ逃れておらず、アメリカと対等にものが言えないことを意味する。

対等になった上で、強い日米同盟を結ぶことには特段の問題はないだろう。ただ、それまでには長期間にわたる議論と日本国民の覚悟も要求されるのではないだろうか。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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