開幕スタメンを勝ち取ったマリナーズ イチローの次の試練
5年ぶりのマリナーズ復帰を果たしたイチローの開幕スタメンがほぼ確定したようだ。この先の健闘を祈りつつ、今後の展開を予想してみたい。
直前まで、イチローの去就に関しては情報が錯綜していた。右ふくらはぎの状況を慮り、開幕は10日間の故障者リスト(DL)入りで迎えるだろうとの報道もあった。44歳という年齢を考慮すると、万全を期すのも十分アリだったと思うが、球団の見方はもう少し積極的だったということだ。
しかし、イチローにはいくつかの不安材料がある。まずは体調だ。3月7日に契約しスプリングトレーニングに参加したが、そのふくらはぎの故障や練習試合での頭部への死球などトラブル続きだった。全くの不運だった後者はともかく、17年間のメジャー生活でDL入りは2009年の一度だけ(しかも胃潰瘍で本質的な故障ではない)で、体調管理には人一倍気を遣っているイチローの故障の報はショッキングだった。正直なところ、近年攻撃力・守備力とも低下は否めないが、「故障知らず」というのが故障者(ベン・ギャメル)の代役として白羽の矢が立った理由の一つだったはずで、その前提が揺らいだのだ。
次は打撃不振だ。調整の遅れや右ふくらはぎの故障の影響もあったのだろうが、カクタスリーグ(練習試合などは含まない)での10打数無安打5三振という数字には、公式戦ではないとはいえ不安を感じざるを得ない。
3つ目はライバルの出現だ。27日にマリナーズはナショナルズからFAのジェイソン・ワースとマイナー契約を結んだ。昨季は故障もあり70試合しか出場しておらず5月には39歳になるが、メジャー通算229本塁打のスラッガーだ。今季はようやく自身のスプリングトレーニングが始まるところで当面マイナーで調整するしかないが、仕上がって来れば本来プラトーンプレーヤーまたは代打要員としてはまだ大いに期待できる。マリナーズがワースとのマイナー契約に踏み切ったのも、それ自体にほとんどリスクがないとは言え、イチローの故障や低調な打撃が球団フロントに不安を感じさせたことが影響を与えてはいないとは言い切れない。
最後はロースター枠の壁だ。もともと、マリナーズによるイチロー獲得の直接の要因は前述の通りレギュラー左翼手のギャメルの故障だった。彼が復帰してくると見られている4月後半までは、本来の第4の外野手であるギレルモ・へレディアが代役を務めるところだが、彼も故障上がりだ。そこで代役の代役が必要になったのだ。ということは、予定通りのスケジュールでギャメルが復帰してくるとどうなるのか?純粋な外野手は4人もいれば十分だ。その場合だれかが弾き出されてしまうということだ。本来ならそれはイチローかへレディアかということだったが、その頃にはワースも含めた3人で一枠を争うことになる可能性が高い。ここまでのマリナーズの対応を見る限り、完全なる実力主義・編成上の事情優先というよりかは、やはり球団史というか球史に残るスーパースターへの配慮やマーケティング効果への期待が見て取れなくもない(そもそもイチロー獲得の時点で、セミレギュラークラスの外野手はまだ市場に少なからず残っていた)が、メジャーの通例では将来のホール・オブ・フェイマーであっても必要ないと判断されればバッサリと切り捨てられる可能性も排除できない。「最低でも50歳までの現役」を目指すのであれば、今回のマリナーズ復帰もギャメルDL明け後の試練も、通過点でしかないはずだ。同様な事態はこれから何度も繰り返されるはずだ。冷静に見守っていきたいと思う。