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あのCMで知られた吉谷彩子がドラマ主演。妹の悪意で不幸に陥る姉役に「怒るより辛くなるのはわかります」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)さいマサ/エブリスタ(C)竹野筍・ましき/comico(C)NTV

強烈なタイトルで姉妹のドロ沼不倫劇を描くドラマ『どうか私より不幸でいて下さい』。姉の不幸が何より快感という妹の悪意により、親友も夫も奪われていく役を吉谷彩子が演じている。「ビズリーチ」のCMで知られる一方、数々のドラマに出演してきたが、地上波の連続ドラマには初主演。妹への逆襲が始まりそうなところで、これまでのキャリアも踏まえて聞く。劇中と違い「理想」と言う自身の新婚生活や8年続く「ビズリーチ」への想いも語ってくれた。

感情がグチャグチャになる役で大変

――吉谷さんは男を振り回す役と振り回される役を同時期にやっていたこともありますが、自分の中で演じやすい役や入りにくい役はありますか?

吉谷 毎回どんな役でも悩んでいて、自分の引き出しを全部開いて、近いところを探していくんです。今までで一番自分に近いなと思ったのは、主演させていただいた『ハルとアオのお弁当箱』のハルですね。オタクの女の子で元気でトボけた感じもあって、演じやすい役でした。

――逆に、一番難しかった役というと?

吉谷 『グランメゾン東京』のパティシエの松井萌絵ですね。生意気だけど人に嫌われないようにしないといけない。出すぎた言動があって、でも愛せる。そのあんばいがすごく難しかったです。

――『どうか私より不幸でいて下さい』の景子の難易度は、どんなものでした?

吉谷 受けの芝居が多かったので、どっちかと言うと妹の志保のほうが難しかったと思います。でも、追い詰められて「どうしよう?」となったり泣いたり、感情がグチャグチャになる役で、そこは大変なところでした。すごく挑戦的で攻めた作品で、面白くなるか否かは演じる側で決まる気がして、緊張感もありました。

学生時代は真面目で道徳の成績は5でした

――今回も自分の引き出しを開けてみたわけですか?

吉谷 開けました。景子は人をすごく信じやすいのが、自分と似ているなと。私は冗談をあとから「ウソだよ」と言われて、「えっ? 信じていたのに」とかよくあるんです。おじいちゃんに「和菓子屋も大工も庭師もやっていた」と言われ続けて、ずっと「すごーい」と思っていたら、亡くなったあとに母から「あれは全部ウソ」と言われました(笑)。

――吉谷さんも景子のような優等生タイプでもあったのでは?

吉谷 学生時代は真面目でした。道徳の成績は5でしたから(笑)。第1ボタンを開けたりスカートを短くしたりもせず、校則は絶対に守っていて。いつも背筋を伸ばして先生の話を聞いていたので、「吉谷さんを見習いなさい」とも言われました。実はボーッとしていただけですけど(笑)。

――では、スムーズに役に入れました?

吉谷 台本を読んで、「このときの感情はこうだろうな」とパッとイメージできました。人にこう言われたら怒るのか、悲しいのか。考えて現場で話しながら進めたら、固めていけると思えました。

――監督から演出で言われたことも?

吉谷 志保が100%悪くて、景子がかわいそうなだけでは面白くない、ということでした。景子は純粋で志保にやさしく接するけど、それが志保を苛立たせたりもする。そこは景子が鈍感、というところも意識しました。

強い意志でぶつかり合うお芝居は面白くて

――姉妹のマウントバトルからの復讐ということで、構図としては去年の『悪魔はそこに居る』と似てますかね?

吉谷 そうですね。いとこの話だったので、今回はまたテイストは違いますけど、ぶつかり合う話は演じ甲斐があります。楽しいということでなく、お互いに強い意志をもって、しっかり対立するのは、お芝居をしていて楽しかったです。

――人間の生々しさが出ますよね。『私より不幸で』の前半では、特に印象的なシーンはありました?

吉谷 景子を演じて、本当に大変なのは後半なんです。最初は「なんて幸せなんだろう」と生きていて、妹の裏切りも知らない。中盤で徐々に異変に気づいていく過程が、観る方には面白いと思います。「ここだよ! 気づかないの?」みたいなところがいっぱいあるので。お芝居としては、グラデーションのように表現できればと。景子の表情が移り変わって、終盤はすごい顔になると思います(笑)。

――夫の信一の浮気を疑いつつ、志保に励まされて「信じることにした」と言ったのは、目を背けようとしていたのでしょうか?

吉谷 妹に対しては、小さい頃から大好きで、かわいがってきて、信じたい気持ちが大きかったと思います。目を背けるのは後半になってからで、まだ「そんなことをするはずがない」という想いが強いですね。

どん底に落とされるのを想像しました

――2話では、信一の浮気相手と思っている親友の由香との修羅場がありました。

吉谷 感情をグチャグチャにされたシーンのひとつです。母から受け継いだ特別な日に焼くパイを、由香に握り潰されて感情マックスになりました。あのパイには家族の思い出や幸せが詰まっていて、それをグシャッとやられて。怒りよりも悲しみが大きかったです。

――先ほど出たように、そういう感情がイメージできたと。

吉谷 私も家族が大好きなので。母と一生懸命作ってきたものを壊されたら、もちろん腹は立ちますけど、それより辛くなるだろうなと。どん底に落とされる感じを想像して演じました。

――「どうして私の幸せを奪うようなことをするの?」と涙してもいて。

吉谷 激怒はできなかった。人によっては「なんで奪うんだよ!」と言えるかもしれませんけど、景子は辛さが先に出ちゃうでしょうね。

――吉谷さん自身、怒りが込み上げるタイプではないんですか?

吉谷 怒ったり怒鳴ったりするのはすごく苦手です。ワーッと言おうとしても、声が震えて「なんでそういうことをするの……」と泣いてしまうんです。涙が最初に出ちゃうから、怒れない。そこも景子と似ているかもしれません。

――喧嘩もしませんか?

吉谷 昔、母と「どうして起こしてくれないの!?」みたいなくだらない喧嘩をしたくらいです。犬同士が喧嘩をしていると「やめなさい!」って声を張りますけど(笑)。

直接話さないと何も進みませんから

――妹と不倫する信一はよろしくないですね。

吉谷 いけませんね。最低です(笑)。ああいうことをする人は許せません! もし自分がそんなことをされたら……絶対ないですけど(笑)、直接聞きます。

――そこは景子と違って。

吉谷 何も言わない選択肢はありません。話し合わないと何も進みませんから。感情的にならず、冷静になって。

――劇中では、景子が信一の携帯を見てしまって、疑心暗鬼になりました。

吉谷 携帯は絶対見たらダメです! いいことないですから。怪しいことがあるなら聞く。携帯を見るくらいなら、尾行して現場を押さえる(笑)。もちろん、私はそんなことはしませんよ。道徳5なので(笑)。

――しかし、結婚してすぐ、こんなドラマをやるとは思わなかったのでは(笑)?

吉谷 そうですね(笑)。主人には相談しましたけど、「いいんじゃない」ということでした。私も挑戦したかったので、演じられて良かったです。

家でごはんを作っているときは幸せです

――志保のモノローグで「毎日ごはんを作って、夫の帰りを待つことに幸せを感じるような平凡な女とは、私は違う」とありました。吉谷さんは専業主婦ではありませんが、そういうことに幸せを感じますか?

吉谷 お仕事もしっかり楽しんでますけど、家のことをするのも私は幸せを感じます。ごはんを作っているときもすごく幸せ。「こんな味付けをしたら喜んでくれるかな」と考えていて。

――食べてくれる人がいると、違うんでしょうね。

吉谷 そうなんです。私は料理が好きなので、自分が食べるごはんも作りますけど、やっぱり主人でも家族でも誰かが食べてくれるほうが「パセリを散らしちゃおうかしら」みたいになります(笑)。景子のパイのように、何かいいことがあってケーキやスイーツを作るときもあります。アップルパイも結構作りましたね。

自分たちは理想の夫婦だと思います

――結婚して変わったこともありますか?

吉谷 家に主人がいてくれる安心感があります。生きていれば、仕事のこととか電車で人にぶつかったとか、多少なりともストレスはありますよね。それを1人で溜め込んでハーッとなるより、帰ったら「ただいま」と言える相手の存在だけで、自分のメンタルがすごく保てます。

――景子の台詞の中で「信一さんは服とか脱ぎっぱなし」とありましたが、吉谷さんは昔のインタビューで、ご自分が「服を脱いだ状態のままにしてしまう」と語られてました。

吉谷 本当にそうだったんです。ここで脱いだとわかるくらい、服がきれいに自分の形のままの抜け殻になっていて(笑)。それはやらなくなりました。もう33歳なので、しっかりしなければと、脱ぎっぱなしは卒業しました(笑)。

――今どき家事は女性が全部するものでもないでしょうけど、料理以外のこともしているんですか?

吉谷 料理はしたいので、そんなに帰りが遅くならなければ、ごはんは作っています。洗いものは苦手で主人がやってくれて、その間に私が別の家事をしたり、何も言わなくてもうまく流れができる感じです。だから、家のことは全然苦になりませんし、本当に理想の夫婦だと思います。

――『私より不幸で』みたいに「結婚は1年後が危ない」ということもなさそうですね。

吉谷 絶対ないはずです(笑)。

主役だから違うことはありません

――今回、地上波の連続ドラマでは初主演。念願だったんですか?

吉谷 もちろん主演をやるからには全力で取り組んでいますけど、全部の作品でそうなので。主役だからと言って、特に何かを変えることはありません。

――この世界で長く続けるだけでもすごいことですが、たとえば同世代で主演級を続けている人を、羨ましく思ったりもしませんでした?

吉谷 全然ないです。自分が出演する作品をいいものにすることで精いっぱい。仕事面での嫉妬心はまったくありません。

――「もっと売れてやる!」みたいなことは考えないと。

吉谷 そんなにないです。自分のペースで、自分にできるお仕事をさせていただければ、という感じです。

相手の顔を見たら想いが伝わることを学んで

――これまでで、ご自分の代表作はどの辺だと思っていますか?

吉谷 CMではビズリーチで、お芝居でターニングポイントになったのは『陸王』ですかね。福澤(克雄)監督と初めてお仕事させていただいて、演技プランを改めて考えさせられました。主演も役所(広司)さんで、自分の出番でなくても、基本モニターから離れないようにしていたんです。こんなにいい勉強のチャンスはないぞと。本当にたくさんのことを学ばせてもらった現場でした。

――吉谷さんは足袋製造会社の最年少の社員役でしたが、具体的にはどんなことを学んだんですか?

吉谷 福澤監督によく言われたのが「台詞は全部台本通りでなくていいから、気持ちで言ってごらん」と。どれだけ時間が掛かっても構わないから、周りにいる1人1人の顔を見る。その人たちの想いがきっと伝わる、ということでした。実際に皆さんの顔を見た瞬間、台本にはなかった涙がバーッと出てきて。私が演じた美咲にスポットが当たった回で、「私に作らせてください」と言うお芝居がそこで固まりました。福澤監督がずっとカメラ横で見てらっしゃってプレッシャーでしたけど、終わってから「やればできるね」と励まされて。本当にいろいろ変われた現場でした。

――今もその教えは活きていて?

吉谷 それ以降、お芝居では相手の感情をしっかり読み取って、キャッチボールをするようにしています。今回は志保役の(浅川)梨奈ちゃんが、激しい感情から無表情になったり、鳥肌が立つようなお芝居をしてくれたので、私も受けてやりやすかったです。

トライストーン・エンタテイメント提供
トライストーン・エンタテイメント提供

ビズリーチと呼ばれるのは嬉しいです

――ビズリーチのCMはもう8年続いていて、言わずと知れた吉谷さんの代名詞になっています。一方、何かと「ビズリーチ女優」などと言われることに、思うところもないですか?

吉谷 まったく問題ないです! 朝ドラの『舞いあがれ!』のときも、「ビズリーチ先輩がカッコいい」と言われて嬉しかったです。ありがたいことですから、ぜひそう呼んでください。

――「私はビズリーチという名前ではなくて」との話も出ていましたが。

吉谷 私がイヤな女性を演じたとき、「ビズリーチが嫌い」と言われるのが辛かったんです。そこにビズリーチという企業名を使われたくなかったのが、「ビズリーチと呼んでほしくない」みたいな取られ方もされてしまって。そうではなく、私はビズリーチが大好きで大事だから、企業名で悪く言ってほしくない、という意味だったんです。

夏は大玉スイカを食べるのが幸せ

――『私より不幸で』では景子も志保も、“幸せ”について考えています。そこまで大きいことでなくても、吉谷さんにとって夏の幸せは、どんなことですか?

吉谷 私はスイカが果物で一番好きなんです。だから、夏にはいっぱい食べようと思っていて。ふるさと納税で何Lかの大玉スイカを頼んであるので、家で食べて、食べ切れない分はよく行く喫茶店のおじいちゃん、おばあちゃんにおすそ分けします。あと、最近ピラティスに通い始めました。やり方がわかってきたので、夏に続けていくと、いい感じになるんじゃないかと思います。

――視聴者としては、『私より不幸で』が佳境に入っていくのを観るのも、この夏の楽しみになっています。

吉谷 ずっと面白かったと思いますけど、これからすごく面白くなっていきます。ぜひお楽しみいただければ。

Profile

吉谷彩子(よしたに・あやこ)

1991年9月26日生まれ、千葉県出身。1996年に子役としてデビュー。2016年より「ビズリーチ」CMに出演中。主な出演作はドラマ『陸王』、『グランメゾン東京』、『ハルとアオのお弁当箱』、『舞いあがれ!』、『忍者に結婚は難しい』など。『どうか私より不幸でいて下さい』(日本テレビ)に出演中。今冬放送のスペシャルドラマ『グランメゾン東京』(TBS系)に出演。

ドラマDEEP『どうか私より不幸でいて下さい』

日本テレビ・火曜24:24~

出演/吉谷彩子、浅川梨奈、瀬戸利樹、村瀬紗英ほか

公式HP

(C)さいマサ/エブリスタ(C)竹野筍・ましき/comico(C)NTV
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埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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