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北朝鮮「処刑台へ向かう男」の残酷写真…生死の境界に置かれた脱北者たち

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
2019年11月7日、脱北漁民が板門店で北朝鮮に強制送還された(韓国統一省)

韓国の尹錫悦大統領は14日、ソウル市内の青瓦台(旧大統領府)で初めて開催された「北韓離脱住民の日(脱北者の日)」の記念式典で演説し、「北を脱出し海外にいる同胞が強制的に送還されないようあらゆる外交努力を尽くす」と述べた。

尹氏は式典で涙さえ浮かべ、生と死の分かれ道に置かれた脱北者らの境遇に思いをいたしていたという。

その念頭にまずあったのは、中国に潜伏中の脱北者たちのことだろう。中国政府は国際社会の批判をものともせず、摘発した脱北者の強制送還を続けている。

そしてさらに、尹氏の脳裏には、ある2人の男性の姿があったのではないだろうか。2019年、北朝鮮との融和に前のめりだった当時の文在寅前政権によって北朝鮮に送還され、拷問の末に処刑されたとされる脱北漁民たちだ。

(参考記事:北朝鮮の15歳少女「見せしめ強制体験」の生々しい場面

文在寅前政権と関係者らは当時から、漁民2人が船内で同僚の乗組員16人を殺害し、逃亡していた事実を北朝鮮側の通信を傍受するなどして把握。国内に迎えることはできないと判断し、送還を決断したと説明している。

ただ、犯行情報が事実であるかを確認されるための調査が、十分に尽くされたかは疑わしい。この点を巡っては、漁民に対する合同調査を強制的に早期終了させた職権乱用などの疑いで徐薫(ソ・フン)元国家情報院長が起訴されている。

韓国統一省が公開した送還時の写真を見ると、ひとりの男性は全力で抵抗し、もうひとりの男性はすべて諦めたような雰囲気を漂わせている。どちらも、きわめて残酷な場面と言える。

そもそも大韓民国の憲法や各種の法律には、同国に入国した北朝鮮国民を、本人の意思に反して強制的に送還できる規定はない。また、北朝鮮との間に犯罪人の引き渡しに関する取り決めもない。

それ以前に、朝鮮半島全体を自国の領土としている韓国の憲法によれば、北朝鮮は国家として認められておらず、北朝鮮国民は韓国の国民ということになる。それにもかかわらず、件の2人について適法な司法手続きも行わず、北朝鮮に引き渡してしまったというのは、憲法違反の疑いありということになる。

韓国社会は深刻な左右対立により分断を深めているが、こうした問題にも、対立が解消しない原因が隠されているように思える。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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