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テレビ朝日『報道ステーション』とTBS『報道特集』が示す報道番組の可能性

篠田博之月刊『創』編集長
2022秋にリニューアルしたTBS『報道特集』(C:TBS)

 ドラマとともに各局の顔といえるのが報道番組だ。テレビ朝日『報道ステーション』とTBS『報道特集』を取り上げ、それぞれの局の報道についての姿勢や取り組みを探ってみよう。

『報道ステーション』と大越健介キャスター

 『報道ステーション』は前身の『ニュースステーション』が夜10時台に帯のニュース番組を新設するというチャレンジングな取り組みとしてスタートし、多くの人の視聴習慣を変えたという番組だ。初代の久米宏さんから古舘伊知郎さんへとMCが交替し、その後は局アナの富川悠太さんがMCを務めていたが、2021年10月改編で元NHKの大越健介さんをMCに起用するというリニューアルを行った。

 その『報道ステーション』の現況についてテレビ朝日報道局の秦聖浩・報道番組センター長に聞いた。

「視聴率ということでは、今はテレビ界全体でHUT(総世帯視聴率)もPUT(総個人視聴率)も下がっている状況ですから、それを考えればしっかり支持されていると言えるのではないでしょうか。

 大越さんがこれまで蓄積してきたキャリアをベースにしたニュースへの洞察力を番組に生かしたい、番組スタッフのニュースへの向き合いをそれと共存させていきたいというのが番組の大きなコンセプトです」

 テレビ朝日はこの何年か、平日だけでなく土日夜にも『サタデーSTATION』『サンデーSTATION』を編成し、夜21時~22時台にニュースを見るという視聴習慣を定着させようとしている。また2022年10月改編では大越キャスターが週末の金曜にもMCを務めることにした。

土日夜の報道番組と『スーパーJチャンネル』も健闘

 秦センター長は日曜朝の『サンデーLIVE!!』、土日夜の『サタデーSTATION』『サンデーSTATION』など土日の報道番組も統括しており、週末の報道番組についても聞いた。

「週末は平日夜と見ている人の気持ちが違うということを意識しつつ、でもニュースはしっかり伝えようという考え方です。土曜夜はMCの高島彩さんの特性を生かして、テンポや伝え方で少し柔らかく見せる工夫をしています。ただ扱う項目はオーソドックスですね。日曜は、見る側も翌日へ向けて仕事モードですからやや堅めですね。

 土曜夜はNHKが『サタデーウオッチ9』を放送している影響を受けていますが、日曜夜は、今年は予想した以上に多くの人に見ていただいています」

 テレビ朝日の報道番組としては平日夕方の『スーパーJチャンネル』の強化が課題だったが、これについても2022年4月にリニューアルしたのが奏功してか、このところ健闘しているという。

「夕方のニュースは日本テレビの『news every.』がトップですが、2番手争いにはテレビ朝日も食い込んでいます。

 夕方のニュースはともすると生活情報など柔らかいネタを扱おうとしがちなのですが、『スーパーJチャンネル』は硬いテーマでもトップニュースを大きなボリュームで伝えようとしているのが特徴ですね」(秦センター長)

調査報道に力を入れるTBS『報道特集』

 報道番組の位置づけは各局それぞれだが、このところ調査報道に力を入れ、しかもそれを看板として掲げているのがTBSだ。平日23時台の『news23』は2021年7月に報道局内に「調査報道ユニット」というチームを新設し、「調査報道23時」というコーナーを設けて取り組んできた。それについては2021年12月にヤフーニュースに報告記事を書いた。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20211208-00271773

TBS最後の挑戦『THE TIME,』と『news23』調査報道の取り組み

 今回は、土曜夕方という独特な時間帯にTBSが放送している『報道特集』について取り上げよう。曺琴袖(ちょうくんす)編集長に話を聞いた。

『報道特集』をめぐる金平茂紀キャスターの話題

 2022年秋改編で同番組をめぐって話題になったのは、金平茂紀キャスターが常時出演でなくなり、今後は取材テーマによって出演する形となったことだ。それに代わって、これまで『news23』などで調査報道に関わってきた村瀬健介さんがキャスターとして新たに登場するというリニューアルが行われた。

 金平さんはこれまで、番組冒頭のコメントで鋭い権力批判を行うなどのスタイルで熱く支持する視聴者も多かったから、このキャスター交代にはネットを中心に「なぜだ」「何があったのか」という感想が吹き荒れた。まずこれについて曺さんに聞いた。もちろん彼女は人事権を行使する立場ではないので局上層部の意向に関わっているわけではないのだが、彼女が発信しているSNSにも多くの声が寄せられたという。

「私は番組公式ツイッターを担当しているので、そこに出演の継続を希望する声が一斉に届きました。最近も金平さんはいつ出るんですかという問い合わせが多いので、私は“いいね”を押しています。わかっていますという意味の“いいね”ですね」

連続して伝えるキャンペーン型の調査報道

 曺さんは2年前から『報道特集』編集長を務めているのだが、同番組が東京オリンピックでの内部告発や最近の旧統一教会問題など、調査報道で成果を上げているのは、もともと彼女が現場記者時代からキャンペーンや調査報道を手がけてきたことも影響しているようだ。

 東京五輪が無観客になったことで用意した食べ物が大量に捨てられているというキャンペーンは大きな関心を呼び、『報道特集』が一度の放送で終わらせることなく連続して告発を行ったことも高く評価された。そうした番組への評価は、例えば視聴率にも跳ね返ったりするものか、最近の旧統一教会批判キャンペーンについてうかがった。

「番組ツイッターのフォロワーは5万人いるのですが、番組について告知をすると反応する方が通常は200~300なのですね。でも旧統一教会問題を始めた当初はそれが5000くらいになりました。今はそれが2500くらいに落ち着いています。問題が長期化したことで最近は旧統一教会問題を扱えば反応が広がるという状況ではなくなりつつありますね」(曺編集長)

『報道特集』と言えば、通常のニュースのほかに長尺の特集を、それも特集1、特集2と二段構えで組むスタイルで知られている。特集1にはデスクを立てているという。

 ウクライナ報道についても、『報道特集』では特集形式で時間を割き、フリージャーナリストの新田義貴さんや遠藤正雄さん、それに同局報道局の秌場(あきば)聖治前ロンドン支局長や須賀川拓中東支局長などの映像を相当量報道した。『news23』のようなストレートニュース番組ではそう長い時間を割けないが、『報道特集』は特集に時間を割くのが特徴だからだ。

 ちなみにその須賀川記者は、最近のウクライナ戦争に至る戦場取材の経緯を衝撃映像とともに『戦場記者』という映画に編集し、2022年12月に公開した。これもTBSの報道の延長とも言える新しい発信の形で、須賀川さんのインタビューをヤフーニュースでも紹介したので興味ある方は下記をご覧いただきたい。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20221215-00328495

12月16日公開の映画『戦場記者』と須賀川記者はドキュメンタリー映画の新しい領域を開拓した

曺編集長が唱える“わらしべ長者方式”とは

『報道特集』はスタッフが約20人おり、調査報道など取材にあたる記者やディレクターが12~13人いるという。この人数には社外スタッフも含まれている。曺さんも編集長になる前からディレクターとして、相模原障害者殺傷事件や森友文書改ざん事件の赤木雅子さんの告発などを、キャスターの金平さんと一緒に取材していたという。

 TBSは『news23』も『報道特集』も番組で情報提供を呼びかけ、その情報に基づいて調査報道を行うというスタイルを意識的に続けている。

「小さな情報でもそれをもとに取材を重ねて大きなスクープにつなげていくということを心がけています。私は“わらしべ長者方式”と呼んで、会議などでも強調しています」(同)

『報道特集』のキャンペーンでは、前述した東京五輪の内部告発などのほか、アサリの産地偽装問題も反響が大きかったという。東京五輪告発も、食品廃棄問題のほかにお金の中抜き問題などいろいろな視点からの告発を行ったが、情報源となった内部告発者はそれぞれ別だという。

 TBSは日曜朝の『サンデーモーニング』など、硬派の番組でも高い視聴率をとっているのだが、『報道特集』も他局が同時間帯に報道番組を編成していないこともあってか、視聴率も好調と言われている。

 また同局は毎年末に『報道の日』という、報道局をあげて取り組む報道特番を放送しているが、2022年末の『報道の日』には曺さんが大きく関わっている。

 TBSはこのほか、平日夕方の『Nスタ』も健闘している。報道番組以外でも土曜夜の『情報7daysニュースキャスター』や日曜朝の『サンデーモーニング』も高い視聴率を獲得している。

 テレビ朝日とTBSは報道番組への取り組みで硬派の似た印象をもたれており、民放の報道局は、TBS・テレ朝と、日テレ・フジの2つの路線に二分されつつある。それは編成方針といったことだけでなく、政権との距離の取り方など様々なところに現れている。

 なおテレビ朝日、TBSについての情報番組の現状については下記記事をヤフーニュースに書いた。本記事と関連したことでもあるので参照いただきたい。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20221230-00330778

朝の情報番組めぐる闘いに異変? テレ朝『モーニングショー』独走とTBS『ラヴィット!』の健闘

 いずれも月刊『創』(つくる)1月号(12月7日発売)の特集「テレビ局の徹底研究」の取材で得たものをテーマ別に再構成しているのだが、同様に各局のドラマへの取り組みについても記事にしている。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20221216-00328510

『silent』など配信拡大で激動の時代を迎えたテレビ各局のドラマをめぐるコンテンツ戦略

 ついでに『創』1月号テレビ特集の内容も示しておこう。

http://www.tsukuru.co.jp

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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