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<ガンバ大阪・定期便VOL.13>宇佐美貴史の最初の一歩。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
今シーズンの初ゴールは宇佐美にとっても特別な1点になった。 写真提供/ガンバ大阪

「今までゴールを奪ってきましたけど、ナンバー3、3本の指に入るくらい、今日のゴールは嬉しかった」

 試合後に宇佐美貴史の口から出たその言葉は、ここまでのチームの、そして彼自身の苦しみを物語っていた。

 FUJI XEROX SUPER CUP 2021、J1リーグ開幕戦での公式戦2連敗と、新型コロナウイルスによる活動休止ーー。約1ヶ月を経て再開したJ1リーグでは、他チームが試合を重ねてコンビネーションに充実を見せ始めたのと対照的にエンジンがかからず、出遅れている感は明らかだった。

 中でも深刻だったのは攻撃だ。

『連戦』という状況を踏まえ、また今シーズンは前線に新たな戦力を複数、補強していた中で試合を戦いながら選手のコンディションを上げていく狙いもあってだろう。宮本恒靖監督は再開初戦となったサンフレッチェ広島戦以降、柏レイソル戦までの3試合、常に前線の組み合わせを変えて戦いに臨んできたが、誰一人としてゴールネットを揺らすことはできなかった。 

 その状況に、宇佐美が何も感じていないはずはなかった。

「活動休止という苦しい状況をチーム全員で乗り越えて、でもJ1リーグが再開しても悔しい結果が続いていた中で、誰がゴールを決めるのか、誰がチームを勝たせるのかとなった時に、俺がやらないと、っていうのは…そのことを考えすぎて苦しくなるくらい、取らないと、取らないと、と毎日考えていた。前節の柏レイソル戦も、あと少しという場面までいったけど取れずに、負けて…『俺が決めていたら』という思いもあって、なかなか寝つけなかった」

 エースとは何か。チームを勝たせるために必要なものは何か。ピッチの内外で自分と向き合う時間は、一方で自分の力不足を突きつけられる時間にもなり、そのことがまた彼を苦しめた。

 そんな状況で迎えた4月14日のサガン鳥栖戦。FWパトリックと2トップを組んだ宇佐美は2試合ぶりの先発に、ただただ「悔しさはゴールで晴らせ」と自分に言い聞かせてピッチに立った。その中で68分に叩き込んだ今季初ゴール。胸の内を表すかのごとく雄叫びをあげて喜んだ『1点』は、チームに今季初白星をもたらす決勝点になった。

「湧矢(福田)の練習中のプレーや試合でのプレーを見ていて、試合前に『抜ききらずに、中にクロスをあげることも視野に入れておいたほうがいい』と伝えていた。前半もそういうクロスボールから康介(小野瀬)が抜け出てシュートまでいったシーンもあった中で、ゴールシーンも湧矢から抜ききらずにクロスが上がってくるなという予感があったので、あの瞬間は湧矢がそれをチョイスしてくれるように、しっかりと彼の選択肢になるポジションに入っていくことを心がけた。低いボールで、止めやすいボールをくれたので振り切るだけだったし、強気にシュートを打つという選択ができたことが得点につながった要因の1つだと思う。常々、監督には『今、溜まっているものを、しっかり得点や結果で拭い去ってチームとして勢いに乗っていこう』と言われていたので、そういう一発というか、気持ちがスカッとするような一発が今日の試合で出れば間違いなく勝てると思っていました」

 もっとも、パフォーマンスとしては正直、チームも、宇佐美自身もまだまだ本調子とはいえない。

「前半は少し守備の時間が長かったので、後半は前にどうチームを持っていくかを考えながらプレーしていたし、押し込む時間を作らなければいけないと思っていた。でも攻撃でやろうとしていたことはなかなかできず、結構相手に押し込まれ続けてしまった」

宇佐美にもその自覚はある。J1リーグ5試合目にしてついた「1」という数字に納得しているはずもない。

 だが、最初の一歩は必ず、二歩目を踏み出す足がかりになる。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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