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慢性蕁麻疹とアトピーの深い関わり - 皮膚科医が解説する最新の知見

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

【慢性蕁麻疹とアトピーの関連性】

慢性蕁麻疹は、6週間以上続く蕁麻疹のことを指します。原因がはっきりしないことも多く、患者さんを悩ませる厄介な皮膚疾患の一つです。

一方、アトピーとは、アレルギー反応を起こしやすい体質のことを指します。代表的なアトピー性疾患としては、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎などが挙げられます。

最近の研究で、慢性蕁麻疹を持つ人は、アトピー性疾患を合併している割合が高いことがわかってきました。例えば、ある大規模な研究では、慢性蕁麻疹患者の19.9%がアレルギー性鼻炎、10.8%が気管支喘息、9.8%がアトピー性皮膚炎を合併していたそうです。

また、アレルギー検査で特定のアレルゲンに対するIgE抗体が陽性になる割合も、慢性蕁麻疹患者で高いことがわかっています。中でもハウスダストに対する感作率が最も高いようです。

このように、慢性蕁麻疹とアトピーの間には、何らかの関連性があることが示唆されています。ただし、アトピーが直接的に慢性蕁麻疹の原因となっているわけではなさそうです。むしろ、アトピー体質が慢性蕁麻疹のリスクを高めたり、症状を悪化させたりしている可能性が考えられます。

【IgEの役割と慢性蕁麻疹への関与】

IgEは、アレルギー反応に重要な役割を果たす抗体です。アトピー体質の人は、このIgEを作りやすい傾向にあります。

慢性蕁麻疹患者でも、血清中の総IgE値が高いことが知られています。ただし、アトピー性皮膚炎などの典型的なアレルギー疾患ほど高くはないようです。

最近は、慢性蕁麻疹患者の血清中から、様々な自己抗原に対する特異的IgEが検出されるようになりました。例えば、甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)などに対するIgEです。これらの自己抗原特異的IgEが、慢性蕁麻疹の症状に関与している可能性が示唆されています。

また、IgEが高親和性受容体に結合するだけで、肥満細胞を活性化させるという報告もあります。つまり、アレルゲンの存在なしにIgEが炎症反応を引き起こす可能性があるのです。

このように、IgEは慢性蕁麻疹の病態に深く関わっていると考えられます。アトピー体質によるIgEの過剰産生が、慢性蕁麻疹の発症や増悪に何らかの影響を与えているのかもしれません。

【アトピー性炎症と慢性蕁麻疹】

アトピー性炎症は、主に2型ヘルパーT細胞(Th2細胞)が関与する炎症反応です。Th2サイトカインとして知られるIL-4、IL-5、IL-13などが増加するのが特徴です。

慢性蕁麻疹患者の皮膚でも、これらのTh2サイトカインが増加していることが報告されています。例えば、IL-4やIL-5陽性細胞が蕁麻疹の皮疹部で増加しているのです。

また、慢性蕁麻疹患者の血清中でも、IL-4、IL-13、IL-31などのTh2サイトカインが高値を示すことがわかっています。

このように、慢性蕁麻疹には、アトピー性炎症に似た炎症パターンが見られます。アトピー体質による2型炎症が、慢性蕁麻疹の炎症反応にも何らか影響を及ぼしている可能性があります。

実際、抗IgE抗体であるオマリズマブが、慢性特発性蕁麻疹の治療に用いられ効果を上げています。また、Th2サイトカインを標的とした生物学的製剤が、難治性の慢性蕁麻疹に対する新たな治療選択肢として使用されています。

慢性蕁麻疹とアトピーの関係は、まだ十分に解明されたとは言えません。しかし、アトピーという体質的な背景が、慢性蕁麻疹の発症や経過に影響を与えている可能性は十分に考えられます。今後のさらなる研究によって、慢性蕁麻疹の原因解明と新たな治療法の開発が期待されます。

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近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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