“青汁王子”が私財1.8億円投じ訴える「森友事件 佐川元国税庁長官を罪に問うべき」
「森友事件は終わっていない」「国会で虚偽答弁を繰り返し、公文書を改ざんさせた佐川宣寿元国税庁長官は罪に問われるべきだ」…こう思う人は少なくないでしょう。けれど、それを1億8000万円もの私財を投じて世の中に広く訴えるというのは、誰もができることではありません。
それをするという人物が現れました。“青汁王子”の異名で広く知られる三崎優太さん(30)です。
“青汁王子”栄光と転落の日々
三崎さんは18歳で北海道から上京して起業。青汁などの健康食品のインターネット通販の会社を立ち上げて、年商百数十億円もの企業に成長させました。その派手な生活ぶりがネット上やマスコミで取り上げられ、彼は“青汁王子”の呼び名で知られるようになります。20代にして人生の絶頂期を迎えたようなものです。
そんな栄光の日々が終わりを迎えたのは去年(2018年)1月。泣く子も黙る国税局の査察部、通称マルサが強制調査に入ったのです。“青汁王子”の会社は年間14億4000万円もの税金を納めていました。脱税額とされたのは1億8000万円。額としては大きいけれども、納税額に比べれば10数%にすぎません。また特殊な経緯があって彼自身が「脱税にあたる」という認識がなかったこともあり、国税当局と争うことになります。その結果“青汁王子”は今年2月、東京地検特捜部に逮捕され、脱税で起訴されました。人生は暗転しました。
奇抜な言動を繰り返す“王子”
それからの“青汁王子”は理解しがたい言動が目立つようになります。
社長を辞めて「無一文になった」と宣言。焼き鳥屋でアルバイトを始めます。キャバ嬢の彼女と別れた、ED(勃起障害)になった、などと極私的なことをツイッターに投稿します。あげくに新宿・歌舞伎町のホストクラブでホストになり、一晩で300万円売り上げた、ナンバーワンホストになった、などと自慢し、シャンパンタワーのグラスを一気にたたき割る姿もツイッターにさらしました。
普通に見れば、人生転落して破れかぶれになったと思われても仕方ありませんが、あまりに奇抜な言動がかえって人々の関心を呼んで、ツイッターのフォロワー数は20万人近くに達しました。
奇抜な行動はすべて計算尽くだった
「あれは全部計算してやってるんですよ。とにかく目立つ。目立ち続ける。世間の注目を集める。そのためなら何でもやる。そのためにあえてあんなバカなことをしているんです」
8月某日、“青汁王子”は都内某所で私に真相を語りました。何のためにそこまで目立たなくてはならないのか?そのキーは、マルサが強制調査に入った時の国税当局トップにありました。
「僕の会社に査察が入った時の国税庁長官は佐川さんですよ」
そう、佐川宣寿氏。森友事件が発覚した時の財務省理財局長で、国有地売却の経緯について「文書はすべて廃棄した。いっさいない」と国会で虚偽答弁を繰り返し、同時に土地取引に関する公文書の改ざんを指示した人物です。政権に都合の悪い事実を表に出さないようにした功績が認められたのか、その後、国税庁長官に“栄転”したものの、公文書改ざんが発覚して辞任することになります。
しかし、大阪地検特捜部は佐川氏をはじめ、改ざんや国有地売買に関連した財務官僚や近畿財務局職員らを全員不起訴にしました。罪に問わなかったのです。
一方で“青汁王子”の脱税事件は、まさに佐川氏が国税庁長官の時に摘発され、その後逮捕・起訴されて、有罪判決を受けました。
「森友事件なんてあまりにもおかしいじゃないですか。だから査察官に『森友はいいのか?佐川さんはいいのか?あれに比べれば僕の件なんて小さいじゃないか』と食い下がったんです。そしたら『お前には関係ない。国は偉いんだ』って、完全に上から目線でした」
国税査察官の許せないやり口
さらに国税の査察官は脅迫的な言葉も使ったといいます。
「僕のおばあちゃんは北海道にいますけど、体調が悪いんです。それを知った上で、査察官は『認めないなら祖母のところに押しかけるぞ』と脅したんです。おばあちゃんは脱税に何の関係もないのに、実際彼らは北海道の祖父母のところに行ったんですよ。ほかにも『否認を続けるなら、お前は完全につぶす』と言われました」
「森友事件を忘れるな 佐川氏は罪に問うべきだ」
自分は国に損害を与えるつもりはなかった。脱税したとされる額よりはるかに多い税金を納めていた。なのに国税当局からいいように脅されて立件された。それが有罪というなら、その判決は受け入れる。
でも、政権のために不正を行った佐川氏らは罪に問われない。そんなおかしなことはないだろう?そのことを何としても世の中に訴えたい。
“青汁王子”はそう考えて、判決が出たら自分の訴えを世に広めよう。そのために目立ち続けようと、奇抜な言動を繰り返していたのです。
森友事件告発の動画公開「犠牲者も出ている」
“王子”は判決翌日のきょう6日午後5時に、ネット上に自分の訴えを収録した動画を公開しました。全部で23分ほどあります。その中で彼は、森友事件のおかしさを忘れないでほしいと訴えています。
あの事件では、改ざんを押しつけられた近畿財務局の現場職員が、不正行為を無理強いされたことを気に病んで、自ら命を絶っています。犠牲者が出ているのです。なのに、不正を命じたおおもとの佐川氏は刑事処分のおとがめなしです。“青汁王子”は動画でそのことについても指摘しています。
【”青汁王子”のTwitterアカウント https://twitter.com/misakism13】
1億8000万円の私財を投じて広く知らしめたい
そして、この動画を大勢の人に知ってもらうための切り札が、脱税額と同額の「贖罪寄付」なのです。動画はユーチューブで公開されています。それをツイッターもしくはインスタグラムを通して拡散した人の中から抽選で180人に100万円ずつ、計1億8000万円を配るとしています。
“青汁王子”の行動にはいろいろな意見があると思います。私は彼とは年齢が倍近く違い、生まれも北海道と九州、経歴も稼ぎもまるで違います。ですが私は彼に自分と同じある種の「匂い」を感じました。それは誤解を恐れずに言えば「奇人変人」です。奇人変人の訴えを伝えてもいいじゃないか、そんな思いで“青汁王子”のことを記事にしました。
N国党から選挙に出るの?
今回の記事の本旨からはそれますが、今何かと話題のNHKから国民を守る党、略称N国党の立花孝志参議院議員が“青汁王子”に熱い視線を向けています。5日の判決の日も立花議員は東京地裁で“王子”の判決公判を傍聴し、その後、地裁前で2ショットでマスコミの囲み取材に応じています。
「彼の能力を極めて高く評価しています。ぜひ選挙に出てほしい。来年の都知事選もある」
「彼とは政見放送でどういうことを話すかも一部話をしているんですよ」
「彼のことは守ってあげなくてはいけないと思っています。これからいろいろと連絡をとります」
“青汁王子”本人はこのことをどう受けとめているのでしょうか?
「立花さんは僕が転落してからもいろいろと親切にして頂いて感謝しています」
「ただ選挙うんぬんはまた別の話で、まずは森友事件のことを世に広めないと。そのためにできることをしていきます」
「政見放送についての話はしていませんよ。僕の訴えたいこととして『国税庁をぶっ壊せ』と話した程度です。少なくとも都知事選はないですよ(笑)」
「ただ政治にも関心はありますので、よく考えます」
含みを持たせる答えでした。
佐川氏は説明すべきでは…
当の佐川氏は“青汁王子”の訴えをどう受けとめるでしょうか?私はきょう6日、東京都内の住宅地にある佐川氏の自宅を訪れました。これまで何度か訪れていますが、ご本人にもご家族にもお会いできたことはありません。この日もインターホンに反応はなく、人の気配は感じられませんでした。しかし自宅の様子に前回訪れた時から変化が感じられたので、まったく出入りがないということではなさそうです。
佐川氏は、森友事件のそもそもである国有地の取り引きには関わっていません。その後、彼が理財局長になってから問題が発覚したため、国会で矢面に立つことになり、結局は国税庁長官を辞めることになりました。そういう意味では彼もまた役人人生の最後を棒に振った事件の被害者の一人と言えなくもありません。家族は間違いなくそうでしょう。
しかし、“青汁王子”も指摘するように、この事件には明確に犠牲者がいます。その犠牲者の思いに応えるには、なぜそんな公文書改ざんの必要があったのか、なぜ国会でウソをつきとおす必要があったのか、説明しなければなりません。佐川氏はまだその責任を果たしていないのです。
【執筆・相澤冬樹】以下は”青汁王子”が公開した動画(本人了解済み)