イスラエル、アルゼンチンとホロコースト史料アーカイブを共有:南米でのホロコースト教育も推進
イスラエルのエルサレムにある国立のホロコースト博物館であるヤド・バシェムはアルゼンチンの国立文書資料館とホロコースト時代の史料アーカイブの共有を行っていく。ヤド・バシェムは第2次大戦時にナチスドイツによって殺害された約600万人のユダヤ人らを追悼するための国立記念館で1953年に開設されてからずっとホロコーストに関する情報や資料、個人のデータなどを収集してきた。収集してきたホロコーストに関する情報、資料、データを文書にすると2億2200万ページ以上になる。そしてヤド・バシェムではそれらの文書アーカイブの多くをデジタル化して保存しておりオンラインで世界中からも閲覧ができる。
アルゼンチンには第二次世界大戦時にナチスドイツの迫害を逃れてきたユダヤ人や戦後移住してきたユダヤ人も多い。シオニズム運動を起こしたテオドール・ヘルツルは、ユダヤ人の国家としてパレスチナかアルゼンチンのいずれかを選ぶべきだろうと提案していたこともあった。またナチスドイツの戦犯らの多くも戦後にアルゼンチンにひっそりと逃亡してきて潜伏していた。1960年にイスラエル諜報特務庁 (モサド) によってイスラエルに連行されたナチスの親衛隊中佐だったアドルフ・アイヒマンが有名だ。
戦後75年以上が経ち、ホロコースト生存者らの高齢化が進み、記憶も体力も衰退しており、当時の様子や真実を伝えられる人は近い将来にゼロになる。ホロコースト生存者は現在、世界で約24万人いる。現在、世界中の多くのホロコースト博物館、大学、ユダヤ機関がホロコースト生存者らの証言をデジタル化して後世に伝えようとしている。ホロコーストの当時の記憶と経験を自ら証言できる生存者らがいなくなると、「ホロコーストはなかった」という"ホロコースト否定論"が世界中に蔓延することによって「ホロコーストはなかった」という虚構がいつの間にか事実になってしまいかねない。いわゆる歴史修正主義だ。そのようなことをヤド・バシェム、ホロコースト博物館やユダヤ機関は懸念して、ホロコースト生存者が元気なうちに1つでも多くの経験や記憶を語ってもらいデジタル化している。これらのデジタル化されたホロコースト生存者らの当時の体験や記憶に基づく証言の1つ1つも貴重な史料アーカイブである。
ヤド・バシェムではホロコーストの記憶と歴史を次世代に継承するためのデジタル化に積極的である。ヤド・バシェムには約480万人のホロコースト犠牲者のデータベースがあり、それらは世界中からネット経由で閲覧することもできる。約600万人のユダヤ人が殺害されたが、残りの120万人は名前が判明していない。第2次世界大戦が終結して75年以上が経過し、ホロコースト生存者の高齢化が進んできた。生存者が心身ともに健康なうちにホロコースト時代の経験や記憶を証言として動画で録画してネットで世界中から視聴してもらう「記憶のデジタル化」が進められている。さらにヤド・バシェムでは、ホロコースト当時の写真のデジタル化とオンラインでの展示も進めている。現在のようにスマホで誰もが簡単に撮影できる時代ではなかった。カメラも貴重なものだった。1枚1枚の写真が全てのユダヤ人の思い出が詰まっている。さらにヤド・バシェムではホロコースト犠牲者の身元確認とデータベース構築も進められているが、ナチスドイツによって完全に消失したユダヤ人集落などもあり、全ての犠牲者の名前や写真を収集してデータベースに格納することは難航している。また写真だけは辛うじて残っているが、それが誰の写真なのか全くわからないものも多い。現在残っているホロコースト時代の写真はデジタル化されて様々なメディアに出てきているので、ホロコースト時代の写真は多く残っていると思っている人も多い。ナチスドイツはユダヤ人から家財、衣服などあらゆる生活物資や金融資産を奪いつくしていた。だがナチスドイツにとって全くお金にもならないし、ナチスの戦争に貢献したり、ドイツ経済に役立たないので、一番不要だったのがユダヤ人の写真だった。だからユダヤ人が持っていた写真の多くが捨てられり焼かれたりしたので、現在残っているユダヤ人が撮影した写真はかなり貴重である。
またイスラエルのヤド・バシェムとアルゼンチンの国立文書資料館は中南米でのホロコースト教育の推進でも協力していく。ヤド・バシェムのダニ・ダイヤン氏は「ホロコーストの研究とデジタル化された史料の共有だけでなく、ホロコースト教育は現代社会のヘイトスピーチや他者への無関心と戦うのにとても重要です」と語っていた。ヤド・バシェムなど世界各地のホロコースト博物館では、当時の記憶や経験を後世に伝えようとしてホロコースト生存者らの証言を動画や3Dなどで記録して保存している、いわゆる記憶のデジタル化は積極的に進められている。そしてデジタル化された証言や動画、コンテンツは欧米ではホロコースト教育でよく使われている。