淫らすぎるサスペンス・ホラー『殺人鬼を飼う女』に主演 女優・飛鳥凛がエロスと闇に挑む理由
「エロス+サスペンス=ホラー」を掲げ、1人の女性に潜む四つの人格を4人の女優が演じる映画『殺人鬼を飼う女』が公開される。『甘い鞭』や『呪怨』の大石圭の小説が原作で、『リング』や『スマホを落としただけなのに』の中田秀夫が監督を務めた話題作だ。闇を抱える主人格の役で主演したのが飛鳥凛。「人間の本質を追求したい」とヌードや濡れ場も厭わず、観る者の胸に刺さる演技を見せる彼女に、この作品を通じて女優業への想いを語ってもらった。
すべてをさらけ出したら芝居に人生を費やす覚悟ができました
中田秀夫監督といえば『リング』や『仄暗い水の底から』などで知られるJホラーの第一人者。最近では『スマホを落としただけなのに』の大ヒットも記憶に新しい。2017年に日活ロマンポルノ45周年で企画された「ロマンポルノ・リブート・プロジェクト」の一作『ホワイトリリー』でメガホンを取り、主演に抜擢したのが飛鳥凛だった。彼女はこの作品で初めてヌードを披露し、レズビアンとしての濡れ場も演じた。『殺人鬼を飼う女』は映画ではそれ以来のタッグとなる。
――『ホワイトリリー』公開の際、「服のアリ・ナシより、中田監督の作品に出たかった」とコメントされていました。改めて、女優として中田監督作品のどんな点に惹かれたのでしょう?
飛鳥 女優としてというより、単純に昔から好きだった作品の監督さんなので、会えるだけでも嬉しいじゃないですか(笑)。私はこのお仕事をする前からホラーが好きで、中でも『リング』のように、夜も眠れなくなるくらい観た人を追い込む映画はすごいと思っていました。そんな監督とぜひお仕事したい……ということでした。
――逆に言えば、中田監督の作品でなかったら、ヌードになったりはしてなかったということでしょうか?
飛鳥 そうですね。『ホワイトリリー』はオーディションでしたけど、中田監督でなかったら、受けていなかったと思います。
――あの映画に出演してから、自分の気持ち的なことでも仕事の流れでも、結果的に変わったことはありましたか?
飛鳥 もちろんそれまでも一生懸命、女優のお仕事をやってきましたけど、すべてをさらけ出してお芝居したことで、さらに自分の人生を費やしてやっていく覚悟ができました。お芝居をより好きにもなりました。
――『殺人鬼を飼う女』は中田監督の指名を受けての主演。いろいろとハードな作品ではありますが、一も二もなく引き受けた感じですか?
飛鳥 マネージャーさんから「こういう話があるけど、どう?」と聞かれて、「やりたいです!」と即答しました。解離性多重人格の役は絶対難しいし、いろいろ悩むだろうけど、だからこそやってみたいと思ったんです。私はプライベートでも、人間心理に訴えかけてドキドキするような作品を好きで観るので、お話をいただけて嬉しかったです。
撮影中は気力がどんどんすり減りました
飛鳥が演じるキョウコは幼い頃に義父から性的虐待を受けて、別の3人の人格が潜んでいる。キョウコを愛するレズビアンの直美、自由奔放なビッチのゆかり、小学生のままのハル。その四つの人格を別々の女優が演じている。キョウコの母親は異性関係に奔放で、キョウコの職場にまで金をたかりにくる。
――別人格を演じる4人の女優さんで、事前にディスカッションをしたそうですね。
飛鳥 インする前に3日間、本番を撮影する場所でリハーサルという贅沢な時間を過ごさせてもらって、自分たちのことを腹を割って洗いざらい話しました。役についてカッチリ話し合ったわけではないですけど、「こういう人っているよね」「私はこうなっちゃう気持ちはわかる」みたいな会話を、休憩室でざっくばらんにしました。そのおかげで、いろいろなシーンに安心してぶつかれました。
――その中で、キョウコを演じる手がかりも見つかったんですか?
飛鳥 リハーサルで本番さながらのお芝居をして、感じたことはあります。別の人格と話しながら、「でも、相手も私なんだよな」と俯瞰している自分たちがいて、人と人が話す距離感ではなかったというか……。
――単純な会話ではなくて。
飛鳥 そういうものを感じて、お芝居のヒントになりました。そのことについて他の人格役の方と話してはいませんけど、たぶん同じ気持ちになっていたと思います
――多重人格の部分もさることながら、キョウコの虐げられて生きてきた感じが痛々しかったです。演技とはいえ、辛くなりませんでした?
飛鳥 辛かったです。お母さんと対峙するシーンはどれも本当にしんどくて、自分の気力のバロメーターが毎回ズンとすり減っていくのがわかりました。お母さんに家に来られて叩かれるシーンも、お芝居だから体は痛くはないんです。でも、息ができなくなるほど心臓が押し潰されそうな痛みを感じました。涙が本当に止まらなくて……。撮影期間中は全編通して、精神のすり減りは多かったです。
――そこまですり減った経験は、今までの作品ではなかったこと?
飛鳥 はい。あそこまで人生を追い込まれる役を演じたことがなかったので。
濡れ場を飛ばすほうが疑問があります
『殺人鬼を飼う女』のキョウコには『ホワイトリリー』以上に大胆な性描写が多い。別人格の直美とのSM的なレズシーン、マンションの隣室に住む小説家・田島冬樹とのベッドシーン、さらに3人の人格と田島が絡み合うシーン……。その中で飛鳥は儚げなエロスを漂わせている。
――レズビアンの直美との性愛シーンでは、キョウコはバイブで攻められたりと辱められているように見えました。あの2人というか、二つの人格の関係性はどう捉えましたか?
飛鳥 行き過ぎた依存の最終形態で、ああしないと一緒にいられない関係だと思いますけど、難しかったです。撮影初日が直美との絡みのシーンで、大島(正華)さんとお互い本番に入るまで、どうしたらいいのかわかりませんでした。監督がその都度心情を説明してくれて、本番では全力でぶつかりましたけど、あの2人が意志を通じて助け合いながら生きていくには、ああするしかないのかな……みたいな感覚はありました。
――キョウコが裸でワインを飲むシーンは、台詞にあった「自分の中に住んでいる化け物」が顔をもたげていたと思いますが、試行錯誤はありましたか?
飛鳥 ライティングとか影とかすごく幻想的な中で撮影していて、現場の雰囲気から現実世界ではないようでした。血しぶきを浴びて立ったところは不思議な感覚で、あれこれ考えずにそこにいた感じです。ただ、清々しい気分だったのは覚えています。私にとってもキョウコにとっても、憑きものがひとつ落ちたというか。
――クライマックスの3対1の絡みは尺も長くて、体力的に大変だったのでは?
飛鳥 まる1日かけて撮って、大変でした(笑)。海外の有名な画家さんが描かれた絵を現場で監督に見せていただいて、「こういうイメージで」と言われたんですけど、無理な態勢を取って「こっちの手はこう? ここに手は置けないよ」みたいな感じで、みんなでヒーヒー言ってました(笑)。
――田島は初めてキョウコを愛してくれた人で、そんな男性と結ばれるのは『ホワイトリリー』の濡れ場とは違う感覚もありました?
飛鳥 またちょっと違いました。『ホワイトリリー』のはるかは孤独でも、まだ人を信じられる部分があって希望も見えましたけど、キョウコはほぼ絶望しかない。その絶望の中で自分が信じる幸せを見つけた感じでした。それがハッピーエンドに見えるか、バッドエンドに見えるかは別ですけど。孤独だからこそ、人にすがるしか道がない。そんな気持ちの中でのああいうシーンで、ずっと何をしていても孤独なんです。
――田島と求め合って、少なくともあの瞬間は幸せなはずなのに……。
飛鳥 それでも孤独……という感覚でしたね。だから、すごく複雑でした。
――ああいう性愛シーンは女優魂を発揮した感じですか? あるいは、ごはんを食べる演技とかと変わりませんか?
飛鳥 海外では、ドラマでもそういうラブシーンがありますよね。
――確かに、テレビで美人女優さんがあっさり胸を出したりもします。
飛鳥 だから別に抵抗はありませんし、作品に必要なら……と思います。そういう部分をすっ飛ばして、きれいなままで終わるほうが疑問があります。なので、余計なことは考えませんでした。
――女優としては普通のこと?
飛鳥 そうですね。『ホワイトリリー』でそういうことに初めてぶつかってみて、今回も、まあ女性なのでいろいろ考える部分はありましたけど、やりたい気持ちのほうが強かった感じです。
感情が飛んで汚らしい部分も全部出しました
――完成した『殺人鬼を飼う女』を自分で観ると、どんなことを感じました?
飛鳥 たまにキョウコが死んだような目をしているときがあるなと。キョウコの心情を考えたり感じながら演じていたのを思い返すと、「あのときはこういう気持ちだったから、そういう目になるのか」ということで、「私はこんな顔もするんだ」みたいに思いました。
――死んだ目をしようと思ったわけでなくて、感情から入って、そうなっていたと。
飛鳥 本当に今回の作品は自分で客観的に観られました。観終わったあとに泣いちゃったんです。キョウコのことを考えると何だか辛くて……。いろいろな感情がリンクした作品でした。
――「見せたくないような汚いところもたくさん見せていると思います(笑)」とのコメントもされてました。そういうところを多くの人に見せる女優の仕事は、考えたら大変ですよね。
飛鳥 プライベートだったら、大声で泣きわめいてグシャグシャになった姿は誰にも見られたくないじゃないですか。でも、作品の中で自分が本当にそういう気持ちになって泣きわめいても、客観的に観たら共感できるし、心が動く。そんなシーンが今回、何ヵ所もありました。今まで出したことのなかった汚らしい部分も全部出した作品なので、いろいろな人に観てもらいたいです。
――今作は「リミッターを外せ!」をテーマにする『ハイテンション・ムービー・プロジェクト』の第1弾でもあります。演じていてリミッターが外れたこともありましたか?
飛鳥 いっぱいありました。感情が飛ぶというか、自分でわからない感覚に陥ることがよくあって、自分を制御できなくなる。「あっ!」と思ったのが、お風呂の中でシャワーを浴びながら死のうとするシーンです。
――自分の首元に包丁を向けて……。
飛鳥 リハーサルやテストでは、あのシャワーはお湯だったんです。本番で2月に死ぬほど冷たい水に変わったんですけど、演じているときは冷たさも何も感じなくて、ただ体がすごく震えていて。撮り終わった瞬間、「水だーっ! 寒ーいっ!」となりました(笑)。そんなふうに自分自身の感覚がわからなくなることがよくあって、まさにリミッターが外れているのを感じました。
――飛鳥さんはよく「きれいな上辺の部分だけでなく、人間の本質を追求したい」と発言されています。そういう意味で、今後取り組みたい役はありますか?
飛鳥 元号が変わって、「平成生まれなの?」と言われる時代も来るでしょうけど(笑)、今めちゃくちゃやりたいのは、自分が生まれてなかった時代に強く生きた女性です。たとえば戦後の男尊女卑の時代に、虐げられながら一生懸命生きてきた女性はカッコイイと思うんです。辛いことはたくさんあっただろうし、今みたいな娯楽もない時代に、自分の中で幸せを見つけて生きた女性はすごく魅力的。そういう役を演じてみたい気持ちがあります。
飛鳥凛(あすか・りん)
1991年3月28日生まれ、大阪府出身。2007年に映画『天使がくれたもの』で女優デビュー。2008年に映画『口裂け女2』で初主演。2009年にはドラマ『仮面ライダーW』(テレビ朝日系)で敵役のヒロイン・園咲若菜を演じて人気を呼んだ。その他の主な出演作は映画『ひぐらしのなく頃に』、『ホワイトリリー』、『のみとり侍』など。舞台『HERO~2019 夏~』に出演(7月31日~8月4日/ヒューリックホール東京)。
『殺人鬼を飼う女』
監督/中田秀夫 原作/大石圭 配給/KADOKAWA
4月12日(金)よりテアトル新宿、池袋シネマ・ロサほか全国ロードショー(R18+)
(C)2019「殺人鬼を飼う女」製作委員会