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<ガンバ大阪・定期便69>『抜けた』先にあったもの。福田湧矢がリーグ戦初ゴール。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
前節・京都戦では値千金の決勝ゴールを勝利につなげた。 写真提供/ガンバ大阪

 プロスポーツの現場では、いつもいろんな「戦い」を目にする。敵チーム、局面での1対1、ポジション、ライバル、痛み、ケガーー。目に見えるものから、目に見えないものまで、選手は数多ある戦いを乗り越えてピッチに立つ。

 中でも彼らが常に向き合っているのが『自分』との戦いだろう。どうすれば、ポジションを掴めるのか。思うような結果を残せるのか。理想の姿に近づけるのか。昨日の自分を超えられるのか。これまで過ごしてきた『過程』に対する自信の側で、ピッタリと寄り添って離れない不安や葛藤、怖さと向き合いながら、だ。

 J1リーグ20節・京都サンガF.C.戦で、今シーズンのリーグ戦で初ゴールを決めた福田湧矢もその一人だったのではないだろうか。事実、今シーズンの彼は、明らかに苦しんできた。

「ケガから復帰してからも、思うようにコンディションも上がらないし、こんなにリーグ戦に絡めないシーズンは初めてだったので。自分に対して考えることも多くなるし、正直、もがいて、考えての連続でした。純粋に体が重いように感じていることが一番ブレーキになっているとは思うんですけど、それを感じながらも何が理由かわからなくて。いつも全力を出し切っているときにケガをしちゃうことが続いていたせいか、意味のわからんブレーキがかかって全力を出せない、みたいな。その怖さが自分の中から拭えなかった時期は特に、マイナスな思考ばかりが大きくなっていたところもありました」

 調子を上げていた最中のJ1リーグ8節・京都サンガF.C.戦で左肩を痛めてからは、特にその不安が拭えない時間が続いたという。コンディションを上げなければいけないという自覚と、全力を出すことへの不安。日々、誰よりも長くクラブハウスで過ごしていると言っても過言ではないほど、体のケアやプラスアルファのトレーニングに取り組んできた福田だが、5月末に戦列に戻ってもその思いはなかなか拭えなかった。

「マジで怖かったです。少し上がってきたなと思ったら、6月18日のルヴァンカップでの大阪ダービーのアディショナルタイムにまた軽い脳震盪みたいになるし…。結果的にはそこまでひどくなかったので離脱は免れましたけど、試合後、ロッカーに戻ってからしばらくは立っていられなかったです。しかもあの試合で前歯も折れちゃったんですよね。それも痛くて二重の苦しみみたいな感じになっていました。余談ですけど、その後、すぐに歯医者さんに行って折れた部分を治してもらったのに、数日後、クラブハウスで亮太郎くん(食野)とお昼ご飯を食べていたら、白飯を食べている時にボリボリってすごい音がしたんです。亮太郎くんに『お前、それ何の音?!?』って驚かれたくらいに。その時は自分でも気づかずに『何でしょう?』って言っていたら、ご飯を飲み込んだ後に、あれ? また前歯がない! となって歯を食べていたことに気づきました (笑)。で、また歯医者に行って…みたいな地獄。歯のことはアクシデントだったとはいえ、なんか続く時は続くよなっていうか、そういう時はそんな些細なことでも気になっちゃって、それでまた不安になるみたいな感じでした」

 ようやくその状態から抜け出しつつあると実感したのは7月に入ってからだという。いろんなことに慎重になりすぎていた自分を一旦、全てリセットし、普段の練習からとにかく100%を出し切ることを心がけていたら『抜けた』感じがあったという。

「あれやこれやと取り組んできましたけど、僕はそんなふうに色々と深く考え過ぎているときほど、うまくいかないタイプですから。とにかく深く考えずに、100%でやってみようと。ステップ1つ踏むのも、ロンドでも、ポゼッションの練習も…いつもなら自分の体に耳を傾けて少し強度を調整してやっていたメニューも、ケガをしてもいいから全部、100%だと。筋トレもこれまでは体が重くなるのが嫌で、敢えてしてこなかったけど、陸(半田)に誘われて、陸がやっていたメニューを元に、やるようになったんです。適度にというか、体に少し違う刺激を入れるみたいな感覚ですけど。そんなふうに、自分の体に『お前はもう大丈夫だ』って染み込ませるために全てをガムシャラにやることを続けていたら、ふと抜けたような感覚があったというか。自分の中で、明らかに体が動くようになるのを感じることができたし、その上での、京都戦での先発出場だったので。もちろん、それは、すごい存在感を示していた秋くん(倉田)がケガで離脱しちゃったとか、チーム事情も重なったからだと思いますけど、自分としてはこれがラストチャンスだというくらいの覚悟で、ピッチに立ちました」

 その『覚悟』には不安も入り混じっていたそうだが、最後は開き直ってピッチに立った。

「リーグ戦は約3ヶ月ぶりくらいの先発出場でチームの流れがいい中で自分がブレーキになってしまうんじゃないかという不安もありました。でも、それも含めて楽しもうと。これで何もできなかったら自分はここまでの選手だと開き直ったのが良かったのかもしれない。ってか、ここで爪痕を残せなければ、ガンバにいる資格がないということも試合中、何度も自分に投げかけながら、とにかく出し切る、走り切る、戦い切ると思っていました」

幼少の頃からのガンバファンだった福田は、プロになった時からガンバでの『タイトル』を目標に掲げてきた。写真提供/ガンバ大阪
幼少の頃からのガンバファンだった福田は、プロになった時からガンバでの『タイトル』を目標に掲げてきた。写真提供/ガンバ大阪

 拮抗した時間が続く中、スコアレスの状況を打ち破ったのは、72分だ。右サイドでボールを受けた山本悠樹が送り込んだクロスボールは、ゴール前中央にいたイッサム・ジェバリの頭上を超えてフォアサイドへ。そこに飛び込んだ頭で福田が合わせ、ゴールをこじ開けた。

「頭で行く方が確実だと思って、迷わず飛び込みました。おそらく悠樹くんはジェバリを狙っていたはずで…ボールの軌道からしてジェバリが相手に引っ張られて遅れなければ、合わせられたシーンだったんじゃないかと思います。でもやや遅れたことで触れずに僕のところに流れてきた。ダニ(ポヤトス監督)やマルセル(サンツ・ヘッドコーチ)にはいつも、クロスボールに対する入り方を散々言われていた中でその通りに押し込めた。何度も脳震盪を経験してきただけに、自分としては頭で決められたことが嬉しかったです。試合前はいつも軽食を食べるんですけど、その時に実は陸には言ってたんです。『俺、今日決めそうじゃない?』って(笑)。そしたら陸も『湧矢くん、マジで決めそうな気がする』って言ってくれていて、試合後にもやっぱり決めたね、って言われました」

 京都戦後、改めて福田に話を聞いたのは、14日の練習後だったが、驚いたのが、そのシーンを振り返りながら「ちょっと待ってください、記憶が定かじゃないので、もう一回観ます」と動画をその場で見返し、「ああ、良かった。あっていました」と続けたこと。すでに、頭の中は明日16日に開催されるJ1リーグ21節・柏レイソル戦に切り替わっているという。

「ようやくリーグ戦で結果が1つ出せて自信にもなったし、やってきたことが間違いじゃなかったって確認できたことも、何よりチームが勝てたことも嬉しかったし、良かったです。ただ、大事なのはこれを続けられるかだと思っているので。いつも試合が終わったら、自分の関与したプレーシーンだけを全部、切り取ってまとめてくれる人に映像を送ってもらって見るんですけど、京都戦後も、オフも含めて、その映像を何十回も見直して、ここはこうしたら良かったなってことを頭に叩き込んだので。今はもうそれを柏戦でどう活かすかのことしか頭にないです。もちろん、1つ結果を残したくらいでポジションを手に入れられるとは思っていないし、同じポジションにはいい選手がたくさんいるので次もピッチに立てるかはわからないけど、でも、自分としてはされど結果というか。1つ目に見えて数字を残せたことで、ここから変われそうな予感はめっちゃあります。ってか、変えないと。何度も言ってきたけど、僕はこのガンバでタイトルを獲得すること、その瞬間にピッチに立っていることが1番の目標で、プロ6年目に入った今もそれは達成できていないと考えても、とにかく1日1日を無駄にせずやり続けるしかない。今回の経験を通して改めて、苦しい時間もやるべきことをやり続けていたらいつか報われる日がくると思えたので、とにかく自分に継続を求めながら柏戦も勝ちたいし、勝ちます」

 そういえば、以前、彼が「これ、昨日作ったんです」と携帯電話に保存してある写真を見せてくれたことがある。ご飯とお味噌汁の他に色とりどりの8品ほどのおかずがずらりと並んだ夕食の写真だ。「外食ばかりだと栄養バランス的に偏っちゃうから」という理由で始めたという食事管理は今も続いていて、練習後、昼食を摂った後のトレーニング、ケアを済ませると、スーパーで買い物をして食材を仕入れ、毎日のようにキッチンに立って料理に励む。

「やることがある方が、時間を持て余さなくていいし、健康に過ごせるから」

 その時は、サラリと話していた福田だが、以前、彼と仲のいい谷晃生が「いつも湧矢くんは何やかんや予定があって忙しくしている」と証言していたように、また彼の1日の行動スケジュールを聞く限り、自主トレを含めて、取り組んでいることが多すぎて、どう考えても持て余す時間はないというのが現実だろう。

 そして、そうして全てを費やし、自分と戦い続ける日々が今の福田湧矢を作り出している。

ゴール後、雄叫びと共に作ったガッツポーズに「変われそうな予感」を秘めて。写真提供/ガンバ大阪
ゴール後、雄叫びと共に作ったガッツポーズに「変われそうな予感」を秘めて。写真提供/ガンバ大阪

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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