小田和正 45万人を感動させたツアー、地元・横浜で完遂。25曲の“思い”を伝え「また会えたらいいね」
小田和正が8月1日、2日 地元横浜・横浜アリーナで、『明治安田生命Presents Kazumasa Oda Tour「こんどこそ、君と!!」』全国アリーナツアーのファイナルを迎えた。同ツアーは前回の『Tour 2022 「こんど、君と」』の振り替えを含む9会場18追加公演のライヴで、トータルで45万人を動員した。
この約3年ぶりの全国アリーナツアーは、ビッグパレットふくしまを皮切りに全国15か所32公演の最年長全国アリーナツアーだったが途中、自身のコロナ感染、そして台風の影響で東京、福岡公演は中止(振替公演を含む)という選択をせざるを得ない状況となった。そして今回の「こんどこそ、君と!!」全国アリーナツアーは5月3日サンドーム福井を皮切りにスタート。全国8か所をめぐりファイナルは小田の地元・横浜だ。小田、そしてファン、バンド、スタッフの想いがひとつの結晶、大きな“希望”になって、劇的なライヴが繰り広げられた。
1万3千人の大きな拍手に迎えられバンドに続いて小田が登場し、1曲目は昨年6月に発表した約8年ぶりのオリジナルアルバム『early summer 2022』のオープニングナンバーでもある「風を待って」。張り巡らされた花道を隅々まで歩きながら歌い、丁寧に届ける。そして何度も「ありがとう」と客席に感謝の言葉を贈る。ライヴに来てくれたこと、ツアーを完走できたこと、そしてこの日出会えたこと、様々な思いが込められた「ありがとう」がライヴを通して小田から伝えられた。
「会いに行く」「愛を止めないで」と美しいメロディが次々と披露されるが、この時点で声の伸び、艶、そして力強さ、美しさが最終日にして最高の状態であることがわかる。6月の代々木公演も観たが、この時も素晴らしいパフォーマンスだったが、この横浜アリーナのライヴがどんなに素晴らしいものになるか、期待が膨らむ。
「最終日ということで、変に盛り上げようとするとコケるので、できるだけいつもと同じようにやろうと思ってましたが、やはり、なんと言っても最終日。みんなで思いっきり盛り上がっていきたいと思います!よろしくお願いします」と語ると大きな拍手が起こる。「夏の日」、色褪せない名曲「愛の唄」(1975年)とオフコースのナンバーが続く。オフコース時代から応援し続けているファンには堪らない選曲だ。
「大谷(翔平)君がホームランを打つと、その日一日中元気でいられます。僕も頑張らないと」と、野球少年だった小田が嬉しそうに語る。小田少年は、横浜・金沢八景で育ち、映画館で素晴らしい音楽に出会った。それが映画『ティファニーで朝食を』(1961年)の主題歌「ムーン・リバー」だ。この曲は、2作目のソロアルバム『BETWEEN THE WORD&THE HEART』(1988年)でもカバーしている。この日はピアノの弾き語りで披露した。ライヴ恒例の「ご当地紀行」でも金沢八景の実家(小田薬局)を訪ね、兄弟での2ショットを披露するなど、ルーツに触れる時間が多かったのも印象的だった
「言葉にできない」はオリジナルアレンジで披露し、感動が広がっていく。続く「たしかなこと」は、一人ひとりが人生や思いを小田の歌と交差させ、生まれる思いを深く感じながら聴き入っている。一転「キラキラ」で会場は総立ちになる。どこまでも伸びる声が心を高揚させてくれる。「ラブ・ストーリーは突然に」は、コロナ前のように小田がマイクを客席に向け、お客さんが歌うというパフォーマンスはできないが、全員歌っている。「風と君を待つだけ」「ナカマ」、そして「the flag」と共に、ツアーの合間に出演した『ap bank fes '23』でも披露した「生まれ来る子供たちのために」で力強いメッセージを伝える。静謐な空気の中に圧倒的な力強さを感じさせてくれるスタンダードナンバーだ。ストリングスの美しい響きが歌の世界観をさらに深く伝える。
壮大なナンバー「今日も どこかで」では、大きな愛で会場を包み込む。「みんなの歌う声が本当によく聞こえました。どうもありがとう」と感謝を伝え「こんど、君と」「君住む街へ」で本編は終了。
アンコールは最新曲「what’s your message?」(ドラマ『この素晴らしき世界』(フジテレビ系)主題歌)から。「YES-YES-YES」は客席、スタッフ、全員で大合唱。そして地元・横浜でのライヴの時に演奏する「my home town」をパフォーマンス。小田の過ごした街の風景、時間が鮮やかに蘇ってくる。「hello hello」もそうだが、小田の音楽はとにかく前向きな言葉と優しいメロディが、聴き手に寄り添う。そして大きな未来を想像することも大切だが、足元を見つめること、思い続けることの大切さを教えてくれる。
ラストは「こんど、君と」で締めくくる。ツアータイトルにもなっている「こんど、君と」はこの日2回歌った。《もう少し この先へ 行ってみよう もう少しだけ》という歌詞は、お客さんの背中を押すと同時に、小田が自身に向けて歌っているように感じた。
9月で76歳になることもあり、失礼だが、正直このツアーが最後になるのではないかという思いがどこかにあった。しかし声の瑞々しさと透明感、凛とした佇まいに感動し、思いを改めた。そして多くの「共感」が生まれるこのライヴの熱さと心地よさ、唯一無二の世界を改めて一人でも多くの人に観て、感じて欲しいと思った。このツアーもチケットを獲れない人が多かったという。小田の音楽を求めている人はますます増えている。だから《もう少し この先へ 行ってみよう もう少しだけ》という歌詞が、より力強く伝わってきた。エンドロールのメッセージも「また会えたらいいね」だった。“次”を期待したい。
今年2月に亡くなった、小田のバンドのベーシストだった有賀啓雄さんの写真がスクリーンに大きく映し出され、感謝と惜別の大きな拍手が贈られた。