伊老舗帽子「ボルサリーノ」が破綻、守破離の精神で復活なるか!?
ハンフリー・ボガードやアラン・ドロン、マイケル・ジャクソンやジョニー・デップ、日本ではサッカーの三浦知良氏や政治家の麻生太郎氏など、ダンディな紳士の装いを象徴するアイテムが、イタリア発の高級帽子ブランド「ボルサリーノ」のハットだ。今年で創業160周年を迎えたその老舗メーカーが破綻したというニュースが年の瀬を駆け巡っている。数年前から経営が悪化し、2015年には3000万ユーロ(約39億円)の負債を抱えていたところを、イタリア国内の投資会社ヒエレス エクイタに買収された。約120人の従業員と共に事業の建て直しを期していたところに、マルコ・マレンコ元オーナーが脱税によりスイスで逮捕されるなど、バッドニュースが相次いだ。直近でも救済案を地元の裁判所に申請していたが、棄却され、破産手続きを進めざるを得ない状況に陥った。
ビームスの設楽社長、三越伊勢丹の大西前社長も愛着を語る
破綻のニュースに際して、セレクトショップを展開するビームスの設楽洋社長は、「ハットが好きで、おそらく今、50個ほど持っている。その中で最も愛用しているのが『ボルサリーノ』の帽子だ。イタリアに行くたびに店舗に寄って買い求めていたが、それができなくなる日がくると思うと残念だ」とコメント。
三越伊勢丹ホールディングス前社長で、イセタンメンズを世界を代表するメンズファッションの館に作り上げた大西洋オフィスタイセイヨウ代表は、「メンズを担当していた者としては、『ボルサリーノ』は単に雑貨というくくりではなく、メンズのトータルファッションの中で、スタイルがあり、モノも良く、ものすごくブランド力もあるという稀有な存在だった。個人的にも学生時代にジャン=ポール・ベルモンドとアラン・ドロンがソフト帽を被って登場する映画『ボルサリーノ』を観ていたので、良いイメージを持っていた。破綻は残念だが、次に買収して経営する企業が、きちんとこのブランドの力やイメージを引き継ぐことを期待したい」とエールを送る。
ちなみに、「ユニクロ」を率いる柳井正ファーストリテイリング会長兼社長は10月にニューヨークで行った東レとの合同展示会で、奇しくも帽子とスタイルについて語るシーンがあった。「服というのは、タイムレスな部分とファッションとして変化するものがある。それ以上に人々のライフスタイルが変わり、圧倒的に市場が変わる。僕の部屋(社長室)には『ライフ(LIFE)』の1950年代のニューヨーク五番街の写真があるが、それを見るとほとんどの人が帽子を被ってスーツを着ている。今の五番街では誰も帽子とスーツは着ていない。2050年になったらどんな服を着ているか、想像できないが、楽しみだ」として、顧客や時代のニーズに合わせて完成度の高い商品を作ることの重要性を指摘していた。
伝統と職人技へのこだわりが硬直化を招いた!?
翻って、「ボルサリーノ」も帽子着用人口の減少の波に巻き込まれていた。いわゆる帽子というジャンルでの競合も増えた。それでも、創業以来、昔ながらの手法で全て職人の手作りで商品を作るという伝統と職人技へのこだわりは守り通してきた。変わらぬ良さも、変わってはいけないことももちろんあり、それがファンを魅了してきた部分でもある。
一方で、同じくイタリア発の老舗ブランド「グッチ」は若いアレッサンドロ・ミケーレをクリエイティブ・ディレクターに起用して若返りを図り、新たな感性によって今をときめくブランドへと刷新している。逆に「ボルサリーノ」はイメージを守る姿勢が強すぎて、リブランディングや外部クリエイターらとのコラボレーションなどに大胆に踏み出せずにいたようにも見える。また、イタリアは日本以上に工場や産地が廃れたり職人不足になるなど、モノ作りの現場のパワーが少し落ちてきていたと指摘する日本人経営者もいる。「ボルサリーノ」もいつの間にかそんな状況に陥ってしまっていたのだろうか?
日本企業との協業やM&Aもあるか!?
日本では、傘やストール、帽子などの服飾雑貨を手掛けるオーロラが2007年、ボルサリーノ ジャパンを設立し、日本における輸入販売やライセンス事業を行ってきた。サブライセンシーとして、中央帽子がメンズハットを、大丸松坂屋百貨店が靴を生産している。朗報なのは、イタリア本国はいわゆる企業は倒産という形になるが、ブランドとしては継続することになる公算が大きいことだ。
前述したビームスなどは、欧米のブランドを自社のテイストに合わせた仕様でオーダーして仕入れる“別注”というシステムで、他社との差別化を図ったり、オーセンティックなブランドの良さを生かしながら時代対応力を高め、ブランド本国からも高い評価を得てきた。例えば「ボルサリーノ」も、日本のセレクトショップやクリエイターなどと積極的に組むことで、活路が見いだせる可能性もある。
また、カール・ラガーフェルドがデザイナーを務める「シャネル」では、自らのモノ作り力を維持向上させるために、2002年、専門性の高いファクトリー(工房)を一気に5社、M&A(企業の買収・合併)したことがある。刺しゅうの「ルサージュ」、帽子の「ミッシェル」、羽根・カメリアの「ルマリエ」、コスチュームジュエリーの「デリュ」、靴の「マサロ」がそれだ。さらに、2020年に向けて、パリ北部に新社屋を建設するが、その中に専門アトリエを集約するなど、モノ作りの現場を最高の労働環境にしようという思いがさまざまな施策から垣間見えてくる。
そう考えると、日本のアパレルや、PB(プライベートブランド)などオリジナル比率が高まっている小売企業も、自ら優良な工場を持つことによって、作り手の顔が見え、自分たちが作りたいものや顧客の欲しいという欲求に合致するものを作る力を高めるというM&Aにチャレンジしてみても良いかもしれない。
いずれにしろ、世界中のセレブリティやファッション好きに愛される老舗ブランド「ボルサリーノ」には、“守破離”の精神が必要だ。伝統と革新を融合させ、再び輝きを取り戻すことができるのか。低迷を続けるブランドやメーカーの再生の試金石になるだろう。