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ミスター指名挑戦者グッドマンが井上尚弥挑戦前に米国特訓を計画。世界1位とスパーリング予定

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
7月チャイノイ(左)を下したグッドマン(写真:Boxing News)

グッドマンかアフマダリエフか

 12月に日本で防衛戦が有力なスーパーバンタム級4団体統一王者井上尚弥(大橋)の相手に抜てきされるのは誰か? 現状では本命サム・グッドマン(豪州)、対抗ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)というのが大方の見解だと思われる。ダークホースを挙げるのが難しいほど予想は彼ら2人に集中している。ファンの間ではより攻撃的なスタイルで戦うWBAの指名挑戦者アフマダリエフと対戦してほしいというリクエストが多いが、ここではIBFとWBOのマンダトリー(Mandatory=指名)チャレンジャー、グッドマンの近況を追ってみよう。

 グッドマン(25歳)は7月10日、豪州ウロンゴンでWBCスーパーバンタム級8位(当時)チャイノイ・ウォラワット(タイ)と12回戦を行い、3-0判定勝ちを飾った。スコアカードは117-111、117-113、119-109でグッドマンと差がつき、内容は明白なものだった。しかし途中でグッドマンは左拳を負傷。骨折したとも伝えられ、本人が希望する年内に井上に挑むプランが暗礁に乗り上げてしまった。

 その後、拳の経過について明確なニュースは伝わっていない。しかし9月に入り、彼のプロモーター「ノーリミット・ボクシング」がエース格の二世ボクサー、前WBO世界スーパーウェルター級王者ティム・チュー(豪州)が10月19日、米国フロリダ州オーランドでIBF同級王者バカラン・ムルタザリエフ(ロシア)に挑戦すると発表。そのイベントにグッドマンが出場する可能性をほのめかした。よって負傷は大事に至らずに済んだと受け取れる。

ムルタザリエフvs.チューのバナー。グッドマンも組み込まれるはずだった(写真:NO LIMIT BOXING)
ムルタザリエフvs.チューのバナー。グッドマンも組み込まれるはずだった(写真:NO LIMIT BOXING)

マネーではなく名誉を優先

 フロリダのイベントはアマゾンプライムが、視聴者が別料金を支払って観戦するPPV(ペイパービュー)システムではなく、アマプラに加入していれば自由に観戦できる方式で中継することになっている。相当な視聴者を集めると予測されるだけに、グッドマンは高額ファイトマネーを期待できる。だがチャイノイ戦同様、試合をはさめば、井上挑戦のチャンスはまたも遠のいてしまう。

 豪州メディア、CODEスポーツとFОXスポーツ・オーストラリアは「グッドマンはティム・チューのアンダーカードで実利(報酬)をゲットするのを断念し、ナオヤ・イノウエ挑戦を目標に準備を始める」と報道している。そうだとしても井上に挑戦が実現すればグッドマンのファイトマネーもかなりの額に到達するに違いない。

バム・ロドリゲスともスパー

 両メディアによるとグッドマンは豪州のセントラル・コーストでジョエル・キーガン、ルーク・フィリップス・トレーナーの指導でキャンプに入るという。そして井上戦が正式にアナウンスされればアメリカへ飛び、スパーリング中心の合宿トレーニングを敢行する予定。グッドマンは井上が下したTJ・ドヘニー(アイルランド/豪州)に2023年3月、判定勝ちしているが、その前に米国でスパーリング修行を経験した。ロサンゼルスやラスベガスで強豪相手に腕を磨いた。その中には2階級制覇王者で現WBC世界スーパーフライ級王者ジェシー“バム”ロドリゲス(米)も含まれる。

 その時の経過もあってか、スパーリングパートナーに恵まれる米国で実力アップを目指す。チューの試合でテレビ解説を務めた元世界ウェルター級王者ショーン・ポーター(米)氏のサポートもあり、ラスベガスのジムで強豪との手合わせが実現する見通しだ。またスーパーライト級とウェルター級で4団体統一王者に君臨したテレンス・クロフォード(米=現WBA世界スーパーウェルター級王者)とのコネクションもあり、クロフォードのコロラド州のキャンプに合流する話も聞かれる。

フェザー級1位キャリントンも候補

 他方でラスベガスに腰を据えるとなると、井上が来年にも進出するフェザー級でWBA1位、WBCとWBOで2位を占めるブルース“シューシュー”キャリントン(米)とのスパーリングが実現すると噂される。もっとも大手プロモーション、トップランクの下でキャリアを進めるキャリントン(13勝8KO無敗)は先週土曜日にニューヨークで試合を行ったばかりで(WBC3位スライマン・セガワ(ウガンダ)に2-0判定勝ち)果たしてグッドマンの要求に応じられるかは疑問だが……。

セガワ(左)に判定勝ちしたキャリントン(写真:Mikey Williams/Top Rank)
セガワ(左)に判定勝ちしたキャリントン(写真:Mikey Williams/Top Rank)

 今のところグッドマンはモンスターの挑戦者の最有力候補という立場で正式決定まで予断を許さない。だが豪州メディアは彼のことを「ミスター・マンダトリー」と記す。そこには他の意見を寄せつけない、問答無用の押しの強さが感じられる。ドヘニーも米国で特訓を行ったが結果はご覧の通りだった。おそらく井上vs.グッドマン(あるいはアフマダリエフ)まで3ヵ月弱。かなり充実したトレーニングを敢行しても結末は見えている印象がしてならない。またしても井上の強さが引き立つ攻防になるだろう。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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