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ダークサイドへ導かれる人々 〜千年が十年のネット社会〜

森井昌克神戸大学 名誉教授
悠久の時の流れ

相変わらずバイトテロをはじめ、ネットを発端とする事件が絶えない。人々をネットのダークサイドへ誘う、その魔力(フォース)はどこからくるのであろうか。

悪ふざけ自慢(バイトテロ)

回転ずし大手チェーン・はま寿司(本社・東京)の「8号鯖江店」(福井県鯖江市下河端町)の男性アルバイトが、調理場でハサミを天ぷらにして、しゃりに乗せた写真を撮影、短文投稿サイト「ツイッター」に投稿していたことが29日、分かった。

出典:47NEWS: ハサミを天ぷらにしてツイッター投稿 寿司チェーン店アルバイト

相変わらず犯罪を含む反社会的行為や迷惑行為をツイッター等のSNS(ソーシャルネットワークサービス)で自慢することが多発しました。当然、その証拠となる写真や記事が公開される事から、大騒動となり、当人だけでなく、その勤務先や学校が社会的な批判を受け、結果的に当人は解職、退学、さらに閉店や休業、あるいは謝罪を求められる事態を引き起こしています。

炎上とその結果

実は最近に始まったことではなく、インターネットの利用が広まったときからなのです。数年前ではサッカー選手とモデルの女性がホテル

を利用したことを、そのホテルのアルバイト学生がツイッターで投稿してしまい、騒ぎを引き起こしました。仮にもアルバイトとはいえ、ホテルの関係者がその利用者の個人情報を晒すことはホテルの信用にも関わります。ホテル側では公にも謝罪するとともに、アルバイト学生を解雇しました。これだけで治まったわけではなく、アルバイト学生の氏名や所属大学、住所、それに写真がネットに公開されました。それに自宅内の写真、家族の写真、父親の勤務先まで公開されたのです。自宅や大学、それに父親の勤務先にも抗議の電話があったということです。これは過去の事件として記憶に残るだけでなく、その晒された個人情報すべてが記録として未来永劫残るのです。

理解を超えたネット社会

なぜ、このようなことが続くのでしょうか。それはインターネット、広くはネット社会を理解していないからです。正確に言えば、理解を越えて、実生活に密着してしまったのです。使い方やそれが引き起こす結果を推し量ることなく、目の前の便利さに飛びついているからなのです。まさにドラえもんのお腹の四次元ポケットから取り出されるひみつ道具を使い、目先の便利さに目を取られ、後の影響に翻弄されるのび太くんのごとくです。大きな違いはひとつの些細な失敗と教訓(学習)に終わるところが、一生付きまとう人生の汚点となることです。しかもそれが常に他人の目に晒されるのです。

千年の変化

インターネットが人々の生活に根付き、今またスマートフォンの普及によって、それが確固たる社会的基盤となりました。しかし、それは高々、この10数年程度の歴史しか無いのです。社会とは人と人との繋がり、その関係を基本とします。ほんの数十年前まで人々の基本的な生活は千年以上前の平安時代と何ら変わる事はありませんでした。もちろん、鉄道、車、飛行機が生まれ、そしてラジオ、テレビが普及し、電話も利用出来ますが、人と人が直接会って、手を取り合うことが基本だったのです。その上で千年に渡って、徐々に変化を遂げて来たのです。都会はともかく、地方では上記の文明機器を利用するほんの一瞬を除いて、千年前とほぼ同じ生活形態と見なしても良いでしょう。それがこの十数年で急激な変化を遂げたのです。

ネット社会の歪み

ネット社会という急拵えの、いわば新しい社会で、好むと好まざるとに関わらず、生活を行わざる得なくなりました。千年の変化をわずか十年で成し遂げる事自体に無理があり、少なくとも歪みを持たざる得ません。その歪みの結果が「悪ふざけ自慢」であり、昨年のパソコン遠隔操作事件やネット口座預金不正引き出し等のサイバー犯罪へとつながっているのです。人のネット社会に対する意識が技術の発展に追いついていない事が歪みを生じる一つの原因です。

時間を越えるネット社会

大昔、数百年以上前まで人々の社会生活は点の世界でした。つまり地理的にも、その閉ざされた社会で生活していたのです。やがて交通手段が発達し、面の世界となりました。世界中、何処ででも生活出来る世界になったのです。現在のネット社会は空間を超越した世界です。時間を越えて生活、つまり記録が残り、未来に届ける事ができるのです。しかもそれに誰でもアクセスできる世界なのです。真偽に関わらず、誹謗・中傷を含めたすべての記録が残されるという陰の部分に十分留意すべきなのです。

本稿は、公益財団法人 兵庫人権啓発協会が発行している「ひょうご人権ジャーナルきずな」(2013年11月号)での拙稿:情報化社会の現状と今後の方向性-急速な社会変化とその歪みを受け入れて-を基に加筆、修正したものである。

神戸大学 名誉教授

1989年大阪大学大学院工学研究科博士後期課程通信工学専攻修了、工学博士。同年、京都工繊大助手、愛媛大助教授を経て、1995年徳島大工学部教授、2005年神戸大学大学院工学研究科教授(~2024年)。近畿大学情報学研究所サイバーセキュリティ部門部門長、客員教授。情報セキュリティ大学院大学客員教授。情報通信工学、特にサイバーセキュリティ、情報理論、暗号理論等の研究、教育に従事。内閣府等各種政府系委員会の座長、委員を歴任。2018年情報化促進貢献個人表彰経済産業大臣賞受賞。 2019年総務省情報通信功績賞受賞。2020年情報セキュリティ文化賞受賞。2024年総務大臣表彰。電子情報通信学会フェロー。

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