ATPツアーファイナル現地レポート:王者に平常心を失わせた錦織圭のポテンシャル
■第3セットの数ポイントが試合の行方を決する。しかしその瞬間まで、王者は自分を疑っていた■
1-6,6-3,0-6というスコアを通常、どう表現するかは難しいところでしょう。
フルセットまで行っているので、接戦…という見方もできるかもしれません。失った1-6,0-6に主眼を置けば、完敗と取ることもできるでしょう。しかし、今日の錦織対ジョコビッチの試合を見た多くの人は、きっとこう思ったはずです。
「数ポイントが反対側に入っていれば、試合結果も違うものだったのでは」と。
そのような見方をしていたのは、恐らくは勝者のジョコビッチも同じだったのではないでしょうか。この試合、ジョコビッチはコート上で何度か、彼らしくない苛立ちとシニカルな行為を見せました。
第2セットの第2ゲームをダブルフォールトで失った時、錦織贔屓の客席に向け拍手をして、反発のブーイングを浴びます。試合後のカメラへのサインでは、無造作に「・」を書いたのみ。
それらの行為の理由を彼は明確には言わず、「そうしたかっただけ。あれが僕の新しいサインだ」、「ファンは自分の好きな選手を応援する権利がある。それに影響を受けてしまった自分が悪い」とだけ説明しました。それらの発言の中で、彼が口にした最も素直な言葉が「第3セットの出だし、僕はラッキーだった。彼(錦織)は複数のブレークポイントを手にしていた。もし彼がブレークしていたら、試合の行方はわからなくなっていただろう」だったでしょう。
「彼は現在のツアーで、最も速く最も才能に満ちた選手の一人だ。だからどのサーフェスでも危険な選手なんだ。もし少しでも打つことをためらい始めたら、彼のカウンターの餌食になりプレッシャーをかけられてしまう」。
そのプレッシャーと圧迫感が、王者に平常心を失わせていた……そう考えるのは、それほど身贔屓ではないでしょう。
※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookより転載。
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