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新華社が「中国最後の指導者習近平」と報道――ハッカーにやられたか?

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
中国政府メディアに「最後の指導者」と報道された<紅い皇帝>習近平(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

3月13日、中国時間の午後5時、中国政府の通信社「新華社」のウェブサイトに「中国最後の指導者、習近平」という報道が現れた。すぐに削除されたが、一部の中文メディアがPDFでダウンロード。中文世界に衝撃が走っている。

◆「中国最後領導人習近平」――スクープは博訊(Boxun)

[ http://boxun.com/news/gb/china/2016/03/201603140234.shtml#.VuawBOZ8o20 「中宣部、超級ハッカー? 新華社が“中国最後の指導者、習近平”と報道」]という見出しで、最初に報道したのは博訊というウェブサイトだ。博訊のサーバーはアメリカのカロライナ州にある。

新華社は中国政府の通信社で、中宣部(中国共産党中央委員会宣伝部)の直轄でもある。

博訊は以下のように報道している。

――3月13日、劉奇葆・中宣部長は早目に仕事を引き上げるという某報道があり、中宣部システムは言論制御上、手がゆるむのではないかとされた。すると北京時間の13日午後5時頃、新華社のウェブサイトに突然「記者の手記」の形で、「昆泰酒店(ホテル) の内と外から中国経済の自信を探し求める」という記事を載せた。その記事の中には「中国最後の指導者、習近平は今日、両会で、中国の発展は一時的な波乱こそあるが、長期的にはやはり前途洋洋であると、発表した」とある。博訊の記者は、14日の未明にこの記事を見つけたが、新浪網などでは、まだ修正をしていなかった。

これは書き違いである可能性は否定できないが、多くの官方(正式の)ウェブサイトでは今のところ修正していない。何かしらの内幕があるのか、この時点では分からない。

(筆者注:「両会」とは、現在北京で開催されている全国政治協商会議(3月3日~3月14日)と全人代(3月5日~16日)のこと)

このように書いて、リンク先にあるページに、ダウンロードした新華網の報道内容が掲載してある。

なお、博訊のページの最後には、「これは博訊が初めて見つけた第一報なので、転載するときには必ず情報源を明示すること」と書いてある。その通りだ。スクープする人は、日夜アンテナを張りながら特定の精神性を以て網にかかってくる情報を見つけている。その人の努力は尊重されなければならない。筆者は忠実に守っているが、他は「自分が独自に見つけたのだ」と言ってしまえばそれで済むので、スクープしたのが誰であるかはお構いなしに、中文ネット空間は、その後、一気に燃え上がっていった。

◆党宣伝部の無界新聞が「習近平は辞職せよ」という公開状――博聞社がスクープ

実は全人代が始まる前日の3月4日、「無界新聞」が「習近平同志が党と国家指導の職務を辞職することを要求する」という公開状をウェブサイトに載せたことを「博聞社」がスクープした。

これもハッカーの仕業だとされており、もちろんすぐに削除されている。しかし既に遅し。全世界に転載されてしまった。

「無界新聞」というのは、2015年3月、財訊メディアグループと新疆ウィグル自治区およびアリババグループの三者によって創立された新メディアだ。CEOは欧陽洪亮という、まだ若い男性で、彼はもともと雑誌『財経』の記者をしていた。『財経』の親会社が財訊メディアグループだ。したがって無界新聞は欧陽洪亮が中心となって起こした新メディアということになるが、なぜ新疆ウィグル自治区と提携したかというと、新疆ウィグル自治区の書記・張春賢の妻で中央テレビ局のキャスターであった李修平氏と欧陽洪亮は親しい関係にあったからだ。

そこで新疆ウィグル自治区に白羽の矢が当たったのだが、ここは「一帯一路」の拠点の一つ。昔から新シルクロード経済ベルトの石油パイプラインの拠点として、中央アジア五カ国を結んでいる。

アリババのCEO馬雲氏は、習近平国家主席と微妙な関係にあることを、2015年12月13日付けの「アリババが香港英字紙買収――馬雲と習近平の絶妙な関係」に書いた。微妙なというのは、令計画が「西山会」で逮捕されたように、馬雲も実は「江南会」を結成していた。しかし、窮地に追いやられ危機を感じ取った馬雲は、変わり身早く、「江南会」を「湖畔大学」に変身させ、私立の「創業者のための大学(専科)」を設立し、習近平の望む方向にネット業界、特に言論業界を動かし始めた。だから、「一帯一路」に関しても習近平が喜ぶように新疆ウィグル自治区を拠点にウェブサイトを立ち上げようとしたわけである。

ところが、その「無界新聞」でこのような公開状が出たということは、習近平にとっては、「絶対に!」許されないことである。

おまけに3月8日、新聞記者の「習近平政権を支持しますか?」という質問に対して、新疆ウィグル自治区の張春賢書記は「その話は、又にしましょう」と回答している。

前代未聞の回答だ。

新疆ウィグル自治区は石油王だった周永康の地盤だった。

果たしてこれら一連の動きは、単なる「ハッカー」の問題とみなしていいのだろうか?

中宣部の中に何かがあるのか、あるいはネットユーザーの中に「習近平政権打倒」あるいは「共産党一党支配体制打倒」を狙う勢力があるのか?

中国国内にも、この二つの「ハッカーが起こした記事」を見てしまったネットユーザーが少なくない。

不穏な動きの中、3月14日、両会の一つの全国政治協商会議は閉幕され、16日には全人代も閉幕して、2016年の両会が終わる。

張春賢書記の運命や、いかに――?

真犯人はいったい誰なのか――?

そして何よりも、習近平政権のゆくえはどうなるのか。目が離せない。

追記:なお、冒頭にある「中国最後の指導者」に関しては、新華社はその後、「中国最高の指導者」の誤記であったとして謝罪し、「最後」を「最高」に修正した記事を再度配信しているが、もしこれが誤記だとすれば、前代未聞だ。全人代という最もデリケートな時期に、ただ単なる「誤記」が生じるとは思いにくい。「無界新聞」も含め、何かが起きているのではないのか。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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