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厚底シューズ“戦国時代“到来?「箱根駅伝」で区間賞選手が履いていたのは?

和田悟志フリーランスライター
1区区間新記録の吉居大和はナイキ エア ズーム アルファフライ ネクスト%を着用(写真:松尾/アフロスポーツ/日本スポーツプレス協会)

 1月4日にアップした記事(https://news.yahoo.co.jp/byline/wadasatoshi/20220104-00275829)では、1月2日、3日に行われた箱根駅伝で選手がどのメーカーのシューズを履いたか、各メーカーのシェア率について書いた。

 今回はもう一歩踏み込んで、各区の区間賞獲得者が履いていたシューズについて言及したい。

 シェア率では、前回の約96%からは減らしながらも、今回もやはりナイキが約73%と圧倒的な数字を誇った。区間賞を獲得した選手が履いていたシューズでも、10区間中8区間がナイキのシューズだった。

 ちなみに、今大会では、1区の吉居大和(中大2年)、9区の中村唯翔(青山学院大3年)、10区の中倉啓敦(青山学院大3年)と、3区間で区間新記録が誕生した。これにより、10区間全ての区間記録がナイキの厚底シューズで出された記録となった。

 1社ばかりを礼讃するつもりはないのだが、着用シューズの勢力図が変わりつつあるなか、ナイキの区間記録独占には驚いた。

区間賞獲得者10人中6人が「アルファフライ ネクスト%」を着用

 もう1つ興味深かったのが、選手たちが選んだ勝負シューズの“種類”だ。

一口にナイキのシューズと言っても、「ナイキ エア ズーム アルファフライ ネクスト%」か「ナイキ ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト% 2」のいずれかだった。

 今大会の区間賞獲得者が履いていたシューズは以下の通り(あくまでも目測なので、間違っていた場合はご容赦いただきたい)。

  • 1区:吉居大和 (中大2年) ナイキ エア ズーム アルファフライ ネクスト%
  • 2区:田澤廉 (駒澤大3年) ナイキ ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト% 2
  • 3区:丹所健(東京国際大3年) ナイキ ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト% 2
  • 4区:嶋津雄大(創価大4年) ミズノ プロトタイプ(ウエーブデュエル ネオ?)
  • 5区:細谷翔馬(帝京大4年) アディダス アディゼロ タクミ セン 8
  • 6区:牧瀬圭斗(順天堂大4年) ナイキ エア ズーム アルファフライ ネクスト%
  • 7区:岸本大紀(青山学院大3年) ナイキ エア ズーム アルファフライ ネクスト%
  • 8区:津田将希(順天堂大4年) ナイキ エア ズーム アルファフライ ネクスト%
  • 9区:中村唯翔(青山学院大3年) ナイキ エア ズーム アルファフライ ネクスト%
  • 10区:中倉啓敦(青山学院大3年) ナイキ エア ズーム アルファフライ ネクスト%

 となっている。

 ナイキのシューズでは「アルファフライ ネクスト%」が6人、「ヴェイパーフライ ネクスト% 2」が2人と、「アルファフライ ネクスト%」のほうが圧倒的に多かった。

 これが意外に思えた。統計をとったわけではなく、あくまでも取材現場レベルで感じたことだが、この1年は「アルファフライ ネクスト%」よりも「ヴェイパーフライ ネクスト% 2」を履いている選手のほうが多いように感じていたからだ。

 また、元日のニューイヤー駅伝では、7区間中6区間の区間賞がナイキのシューズで、その内訳は、箱根とは真逆で「ヴェイパーフライ ネクスト% 2」が5人、「アルファフライ ネクスト%」が1人と、「ヴェイパーフライ ネクスト% 2」のほうが多かった。

コースに合わせてシューズを選択?!

 この結果が興味深かったので、メーカー関係者の方に聞いてみた。すると、このような回答があった。

「アルファフライかヴェイパーフライかは、好みが別れるところではあると思いますが、直線距離だとアルファフライが威力を発揮して、細かいターンがある場合はヴェイパーフライの方が小回りがきく、ということがあるようです」

 なるほど。

ニューイヤー駅伝は、群馬県庁をスタート&フィニッシュとし、高崎、前橋、伊勢崎、太田、桐生と1周回するコース。カーブや右折、左折と直角の曲がり角も多い。

 それに対して、箱根駅伝は、大手町と箱根・芦ノ湖を往復するコース。5区と6区はカーブが多いが、その他の区間は緩やかなカーブや曲がり角もあるものの、ほとんど直線的なコースといっていい。

 全体的には「ヴェイパーフライ ネクスト% 2」を履いた選手のほうが多かったので、もしかしたら区間賞獲得者に「アルファフライ ネクスト%」が多かったのはたまたまなのかもしれない。だが、コースに合わせて戦略的にシューズを選んだ選手もいただろう。

2区区間賞の田澤廉はヴェイパーフライ ネクスト% 2
2区区間賞の田澤廉はヴェイパーフライ ネクスト% 2写真:アフロ

 アディダスを履いた選手では、「アディゼロ アディオス PRO 2.0」を選ぶ選手が多い中、5区区間賞の細谷翔馬(帝京大4年)は、それよりもソールが薄い「アディゼロ タクミ セン 8」を履いて山を上った。やはり選択肢は複数あった。

 また、アシックスのカーボン搭載厚底シューズ「メタスピード」シリーズは、ストライド走法に適した「スカイ」、ピッチ走法に適した「エッジ」と2種類から選べるようになっている。もっとも、トップランナーには「スカイ」を選択する選手が多いようだが……。

2年連続5区区間賞の細谷翔馬はアディゼロ タクミ セン 8
2年連続5区区間賞の細谷翔馬はアディゼロ タクミ セン 8写真:アフロ

 自分の走りやコース特性に合わせてシューズを選択することも、戦略の1つと言えるだろう。

 各メーカーの厚底レーシングシューズが出揃い、今後ますますランニングシューズ“戦国時代”も激化していく――。

フリーランスライター

1980年生まれ、福島県出身。 大学在学中から箱根駅伝のテレビ中継に選手情報というポジションで携わる。 その後、出版社勤務を経てフリーランスに。 陸上競技(主に大学駅伝やマラソン)やDOスポーツとしてのランニングを中心に取材・執筆。大学駅伝の監督の書籍や『青トレ』などトレーニング本の構成も担当している。

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