諸国で新聞はどこまで信頼されているのだろうか(2023年公開版)
文化の象徴、立役者を自称する新聞だが、インターネットとそれを扱う機器の普及に伴い、利用価値や相対的存在意義が変質しているのが実情。諸国ではどれほどの信頼を得ているのだろうか。新聞通信調査会が2023年2月に発表した調査結果「諸外国における対日メディア世論調査」(※)から確認していく。
次に示すのは、調査対象国では新聞はどれほどの信頼を得ているのだろうか、との問いの回答結果。設問では単に「新聞」とのみの表記だが、その文脈から全国紙あるいは地方紙など法人が販売する、一定数以上の販売数を持つ新聞を対象としていると判断できる。まったくの信頼無しをゼロ点、普通を50点、全面的に信頼を寄せている認識ならば100点とし、自由採点をしてもらった上でその平均点を算出した結果が次のグラフ。今調査では日本は対象としていないが、2022年8~9月に実施された類似形式による「メディアに関する全国世論調査」(※※)の結果も併記する(調査方法が異なるので参考値以上の意味は無い)。
何が「普通」とすべきかは判断が微妙であり、歴史的背景や価値観によるところが大きいが、直近年度ではイギリス以外の国で普通以上の信頼は得ていることになる。もっとも欧米ではいくぶん信頼度は低め、アジア、特に中国や日本では高めの値が出ている。新聞など従来型のメディアに対する日本の信服感はかねてから知られているところであり、それが裏付けられた形となる。中国が高いのは政治体制的なお国柄によるものだろう。他方、韓国が欧米並みに低めなのは意外ではある。
イギリスと韓国では2019年度で大きく値が落ちたのが目にとまる。報告書では特に解説は無いが、それぞれの国では政局が大きく動いており、それに絡んだ報道に厳しい目が向けられた結果だと推測される。タイの2020年度における大幅な下落も同様の理由だろう。
「そこそこ、普通には信頼できる」との判断が示されている新聞だが、今後インターネットの普及がさらに進むに連れて、役割が縮小化する懸念がある。むしろ実際にはその過程にあると評してよい。そのような状況が今後さらに進行していくのか、それとも今まで通り新聞は報道に大きな役割を果たし続けるのか、新聞の未来について思うところを述べてもらった結果が次のグラフ。ただし今項目は直近調査では省略されているので、この項目に関する最新分となる2017年度発表のものを代用する。「役割は今まで通り大きい」とする方向性の意見を合算し、過去の同様調査との比較をしたグラフも併記しておく。
今回の調査対象国の中では新聞への信頼度が一番低いイギリスでは、役割の縮小を唱える人が一番少ない(参考値の日本は除く)。一方で維持を回答する人もタイや中国に続く少なさで、「どちらともいえない」との回答が一番多い割合を示している。他国と比べて新聞への想いは複雑なようだ。「もっとしっかりしてくれ」との内面の思いがにじみ出ているようでもある。
役割は縮小化するとの意見はタイで8割超え、中国で7割超、アメリカ合衆国やフランス、韓国で6割前後。ただしアメリカ合衆国やフランス、韓国では役割の維持を主張する意見も約3割台を示しており、新聞の権威継続を思う人が一定数いることが分かる。詳細は省略するが、年齢階層別動向を見ると、おおよその国で若年層ほど役割の縮小を予見し、高齢層ほど役割は依然大きいままと認識している(中国では年齢階層別の違いはさほど無く、韓国では中年層が一番役割縮小の値が高いなど、国ごとの事情も透けて見える)。価値観の年齢階層間における格差が表れているようだ。
日本では役割縮小の回答率はイギリスに近いものの、維持の回答率はフランスや韓国とほぼ同程度。調査手法が異なり一概には比較できないものの、新聞に対する信奉心の強い日本らしい実態には違いない。
経年推移の限りでは、アメリカ合衆国と中国以外では「役割は大きい」との認識は縮小しつつあるように見える。新聞報道に関して周辺環境が真逆のように見える両国で、インターネットが普及を進めても新聞が報道に果たす役割は大きいままだとの認識が同じように増加しているのは、興味深い傾向に違いない。次回調査では是非とも今件項目を復活させてほしいものである。ただ、未調査年が5年継続していることから、新聞通信調査会側ではこの設問を再び採用するつもりはないのかもしれない。
■関連記事:
【世界各国の「新聞・雑誌」や「テレビ」への信頼度(2017-2020年)(最新)】
※諸外国における対日メディア世論調査
直近発表分はアメリカ合衆国、イギリス、フランス、中国、韓国、タイに対し、2022年11月から12月に行われたもので、アメリカ合衆国は電話調査とウェブ調査の併用、イギリス・フランス・韓国は電話調査、中国・タイは面接調査で実施されている。調査地域は中国・タイは都市圏、それ以外は全国。回収サンプル数は各国約1000件。グラフの年数表記は調査結果の発表年で統一している。過去の調査もほぼ同じ形式で実施されたが、2014年度分は中国において質問そのものができなかった項目が複数ある。またイギリスの2020年度分は新型コロナウイルスの流行悪化の影響で調査はできなかったため、回答値が一切無い。
※※メディアに関する全国世論調査
直近分は2022年8月26日から9月13日にかけて住民基本台帳からの層化二段無作為抽出法によって抽出された18歳以上の男女個人5000人に対して、専門調査員による訪問留置法によって行われたもので、有効回答数は2993人。有効回答者の属性は男性1399人・女性1594人、18~19歳55人・20代246人・30代386人・40代520人・50代500人・60代495人・70代以上791人。過去の調査もほぼ同様の調査スタイル。
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