久々上昇、中身は高齢出産化…米国の人種別出生率詳細を確認していく
人口問題や少子化対策などの話題が登る際、海外の参考にすべき事例としてアメリカ合衆国(以下アメリカ)が挙げられる。元々ヨーロッパからの移民などによって建国された特殊環境も一因だが、多様な民族によって構成されており、移民政策に関してはオープンな部類に区分される国で、先進諸国の中では珍しく人口が増加する傾向にあると注目されている。一方そのアメリカでも昨今、これまでの状況・傾向がくつがえされそうな動きが統計から確認できる。今回は同国の公的データを基に、同国の出生率(合計特殊出生率)に関して、主要人種別の動向を確認していく。
まず「合計特殊出生率」との言葉について。これは「一人の女性が一生のうちに出産する子供の平均数」を意味する。この値が2.0なら、単純計算で夫婦2人から子供が2人生まれるので(男性は子供を産まない)、その世代の人口は維持される。各年齢(世代)の女性の出生率を合計することで算出される。ただし実際には多種多様なアクシデントによる減少があるため、人口維持のための合計特殊出生率は2.07から2.08といわれている(これを「人口置換水準」と呼ぶ)。
この合計特殊出生率に関して、アメリカの疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention、CDC)内にある人口動態統計レポート(National Vital Statistics Reports)を元に、公開されている各人種的な属性について値を抽出、再計算した結果が次のグラフ。直近5年間の動向はやや詳しい形で別途描き起こした。なお白人・黒人に関しては非ヒスパニック系の値を適用している。
緩やかな動きを示していた合計特殊出産率だが、2007年から2008年を境に、どの人種においても明らかに漸減しているのが確認できる(アジア・太平洋諸国はやや持ち直しの機運もあるが、それも大きな戻し方では無い)。
この減少理由については諸説があり、そしてそのいずれもが単独で断定できるだけの理由とは成りえない(社会現象は多くの場合、多様な要因の結果生み出されるものである)。例えば2012年に掲載されたブルームバーグのコラム「米国での出生率低下、その脅威とジレンマ」では、「先進諸国病」の症状の一つ、具体的には経済的・文化的レベルが上がると、養育費は累乗的に増加し、世帯への子供一人あたりの負担も相応に増えるが、世帯所得の増加はそれに追いつかず、経済上まかなえる子供の数は減るからだと説明している。
また「医学、科学技術、公衆衛生技術の進歩や経済の発達に伴い、乳幼児の死亡率が減少する」のも一因と考えられる。該当女性の体力的な問題もあるが、出産した女性が新たに子をもうけるためには、それなりの多様なリソースが必要となる。しかし、乳幼児の育児の際にはそのリソースの確保が難しい。一方で乳幼児の段階でその子供が亡くなってしまった場合、次の出産へのリソース確保の機会はより早く得られるようになる。つまり少子化は「多死多産」から「少死少産」へのシフトの結果であるとするものだ。
これら「経済的要因による少子化への動き」は、日本国内でも複数の調査結果から裏付けられている。例えば国立社会保障・人口問題研究所が発表した「第14回出生動向基本調査」でも、「欲しいと思う子供の数」まで子供を持たない理由の最上位には「子育てや教育にお金がかかりすぎる」との回答が出ている。
数年前までは他の先進諸国における合計特殊出産率の低さを、対岸の火事のように見つめているだけだったアメリカが、その川を渡り、自らも火の粉を受けている。直近の2014年では白人およびアジア・太平洋諸国で前年比プラスを示したことから、全体の合計特殊出生率もわずかではあるが増加したものの(グラフ上では同じ1.86だが、厳密には2013年は1.858で、2014年は1.863となっている)、予断を許さない状況には違いない。
なおこの直近年における上昇理由を母親の年齢階層別に見ると、日本同様に高齢出産化が進んだ結果であるのも確認できている。
日本とは文化的な事由をはじめ諸条件が異なるため、一概に同じとは言い切れない。しかし検証とその結果を施策に活かす意味でも、日本国内の動向と共に、状況分析が求められよう。
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