藤井聡太王座、初防衛&七冠堅持に向け幸先のよいスタート 後手番で永瀬拓矢九段に快勝
9月4日。神奈川県秦野市「元湯 陣屋」において第72期王座戦五番勝負第1局、藤井聡太王座(22歳)-永瀬拓矢九段(31歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。
9時に始まった対局は20時30分に終局。結果は124手で藤井王座の勝ちとなりました。
藤井王座は初防衛に向けて、幸先のよいスタートを切りました。
第2局は9月18日、愛知県名古屋市・名古屋マリオットアソシアホテルでおこなわれます。
藤井王座、後手番で「変化球」
振り駒は「歩」が1枚、「と」が3枚、立った駒(無効)が1枚。第1局は永瀬拓矢九段の先手と決まりました。
永瀬九段は角換わりを志向します。対して後手の藤井王座は3三金型の角換わり(1図)という、比較的前例の少ない戦型を選びました。
藤井「後手番になった場合には、やろうと思っていた作戦ではあったんですけれど。序盤からかなり手が広い将棋になるので。そのあと、どういう形になるかは、わかっていなかったです」
藤井王座がこうした「変化球」を投げるのは珍しいことです。ただし初めてではなく、4月20日に指された叡王戦五番勝負第2局▲伊藤匠七段-△藤井叡王戦(肩書は当時)でも現れた形でした。結果は先手の伊藤七段勝ち。最終的には伊藤七段が3勝2敗で五番勝負を制しています。
本局、藤井王座は前例と同じく、手早く銀を前線に進めていく早繰り銀に出ました。対して永瀬九段はバランス重視の腰掛銀で対抗。さらには銀矢倉にスイッチして、柔らかく受けます。
藤井王座は銀を中央に進めて1歩を得します。対して永瀬九段は藤井陣に1歩を打ち捨てます。藤井王座が合わせて2歩得した代償に、永瀬九段は角を打ち込んで自陣に成り返り、馬を作りました。
藤井「(45手目)馬を作られたあたりは、うまくバランスを取れるかどうかかな、と思っていたんですけど」
永瀬「▲4七角成まで予定だったような気もするんですけど。プランが弱かったような気がします」
52手目。藤井王座が攻めの銀を前に進める土台の歩を打ったところで、昼食休憩に入りました。
13時、対局再開。藤井王座が本格的な攻めを始めたのに対して、永瀬九段は受けながらカウンターを狙います。
藤井「昼休明けのあたりから少し、自信がないような気がしたので。ちょっとそのあたりの指し方でもう少し工夫が必要だったのかなという気がしています。(69手目)▲8三銀と打たれてしまったあたりは、ちょっと苦しいかなとは思っていたんですけど。どのぐらい攻めの形を作れるかというところかなと思っていました」
永瀬「判断がかなり難しいかなと思ったんですけど。よさを自覚することはなかったので。もう少しよい手を発見できれば、少し模様がいいと感じられたかもしれないですけど。そのよさを感じられる手は発見できなかったような気がします」
75手目、永瀬九段は藤井陣に打った銀を引き成ります。形勢は依然、ほぼ互角。17時、夕食休憩に入りました。
17時30分、対局再開。互いの玉に攻め駒が迫り、いよいよ終盤戦に入りました。
100手目。藤井王座はあたりになっている金を逃げます。これが的確な判断でした。
永瀬「△2四金と出られて、もう少し難しいのかと思ってたんですけど。▲3三桂成とか▲5三銀成、不成とか効かないと、けっこう差がついてしまっているのかなとは思っていました」
攻防において正確な速度計算が要求される進行は、藤井王座の得意とするところ。互いの駒が入り組んで複雑な状況から、誤ることなく一手勝ちのルートを選んでいきます。
113手目。永瀬九段は残り時間10分をすべて使い、金をタダで捨てる王手(2図)を放ちます。
この勝負手にどう応じるか。藤井王座も残り5分しかありません。そして3分考え、正確に△同飛と応じました。以下は▲5三銀成△5八飛と進んで、後手勝勢です。
藤井「△5八飛車と飛車を打って、詰めろが続きそうな形になったかなと感じました」
121手目。永瀬九段はタダで取られるところに角を打って、藤井玉に王手をかけます。対して藤井王座は、角を取らずに逃げました。歩打ちの追撃にも、さらに玉をかわします。攻防ともに見込みのなくなった永瀬九段はここで投了。124手で藤井王座の勝ちとなりました。
藤井「序盤はじっくりした展開になったんですが、その中で、どうバランスを取ればいいかがなかなかわからなかったので。まずはそのあたりをしっかり振り返られればと思います。(9月4日の)第2局まで2週間ほどあるので、その間にしっかり準備をして、またいい状態で臨めるようにしたいと思います」
永瀬「(第2局まで)時間が空きますので、せいいっぱい準備をしてがんばりたいと思います」
両者の通算対戦成績は、藤井16勝、永瀬7勝となりました。