外国人メイドを受け入れる前にやるべきこと
女性の活躍推進が盛り込まれた日本再興戦略(いわゆる新成長戦略)が6月下旬に閣議決定されました。この中の「育児・家事支援環境の拡充」では「外国人家事支援人材の活用」と明記され、いよいよ外国人労働者の受け入れに向けた地ならし的な動きが出てきました。
【参考サイト・記事】
外国人労働者、家事にも受け入れ 今秋に関西の特区で(朝日新聞デジタル)
配偶者控除を廃止して、女性に働いてもらおうとしている現政権が打ち出すもう一つの施策が、女性の家事負担軽減のための外国人労働者受け入れ。そう、外国人メイドです。男性による家事労働の分かち合いを推し進める努力を十分にせずに外国人労働者に頼ることに対しては、私も含めて違和感をお持ちの方々も少なくないと思われます。加えて、私はもう1つの点で、非常に危うさを感じています。
それは、誰がこの人たちに日本語を教えるのか、ということです。
もう10年ほど前になりますが、留学する家族に同行してドイツ・ミュンヘンに住むことになった際、ドイツ語がさっぱりできなかった私は、ミュンヘン市のVHS(Volkshochshule)という官製カルチャースクールのような語学講座でドイツ語を習いました。
語学講座には、ドイツ人にとっての外国語(日本語講座もあります)はもちろんのこと、かつての私のようにドイツに住む外国人向けに様々なレベルのドイツ語コースが設けられていました。外国人向けのドイツ語教育を専門とする有名なゲーテ・インスティテュートや民間の語学学校なら、半期(5-6ヵ月)の授業料が日本円で10万円というのもザラでしたが、市の講座なので有難いことに2万円程度で済みました。
日本の感覚では、公民館などで開かれる市民講座は「安いけれども内容が薄いのでは?」と捉えられてしまうかもしれません。でも、このドイツ語コースは違いました。教材はゲーテでも使っているものを使っていましたし、教員はすべて語学教育のプロ。そこに安いと来ているのでいつも大変な人気で、同じクラスを受講している人の中には、自分に合ったレベルのクラスが既に満席で、仕方なく1つ上のこのクラスを取ったという人もいたぐらいでした。
私が通ったのは、火曜日と木曜日の午後6時からのコース。市内の高校の教室を借りて行われる授業には、様々な事情でドイツに住むことになった20人ほどのクラスメートがいました。住み込みのお手伝いさんをしながらドイツ語を学ぶポーランド人の女子留学生、ギリシア人学校の教員として赴任してきたギリシア人の男性、日本での留学経験もあるという生物学研究者のブルガリア人男性など。アジア系は私を含めて2人だけ。「『こんにちは』ってギリシア語で何て言うの?」などと聞きながら、ヨーロッパに来たことを実感できる楽しいひと時でした。
これほど安価で良質な外国人向けのドイツ語講座があるのは、ドイツ語をしっかり勉強して仕事につき、納税してくれる外国人には市民権を与える(もちろん用件は厳しい)という、ドイツ政府の移民政策の基本スタンスを反映しているからに他なりません。日本でも、仮に移民受け入れに舵を切るのであれば、外国人向けの良質な日本語講座を全国あまねく設けて、日本語習得の機会を保障することを同時並行で進めるべきです。大学生の頃、地元の公民館での日本語講座を手伝っていたことがありましたが、主婦や定年後のシニアボランティアがいなければ成り立たない状況でした。今もあまり変わっていないのではないでしょうか。
コミュニケーションがままならないと、周囲との摩擦やコミュニティからの孤立を招く原因になり、来てくれる側も受け入れる側もお互いにとって不幸です。女性の活躍支援をうたう現政権の本気度が問われていると思います。