時代は「持続可能な(Sustainable)」から「誠実さ(Integrity)」へ
2050年に向けたカーボンニュートラル(脱炭素)の実現、2030年を目標としたSDGs(国連持続可能な開発目標)の達成――。持続可能な社会を目指す国際的な動きが進むにつれて、企業やブランドによる持続可能性に配慮したビジネスや活動にまつわる発信を目にする機会が増えてきました。こうした中、一部の企業やブランドの間で「地球にやさしい(Earth-Friendly)」「サスティナブル(Sustainable持続可能な)」といった表現を避ける動きが出始めています。
「地球にやさしい」はもうやめよう
米出版大手コンデナストのビューティー雑誌「アルーア(ALLURE)」は、今年4月22日のアースデイに合わせて、化粧品などの容器包装が環境に与える影響をめぐる用語の使い方を見直す考えを明らかにし、美容業界にも賛同するよう呼びかけました。
Allure Will No Longer Call Plastic Packaging "Recyclable"
(allure.com 2021年4月22日公表)
例えば「リサイクル可能な(Recyclable)」という表現。同誌によると、多くのプラスチック容器がリサイクル可能ではあるものの、実際には9%ほどしかリサイクルされていないという調査報告をもとに、「Recyclable plastics(リサイクルが可能なプラスチック)」という言葉の使用をやめるとしています。また、「Biodegradable(生分解性)」「Compostable(堆肥化が可能)」といった、その定義の曖昧さやばらつきのために本当に環境負荷を削減できているか疑わしい“グリーンウォッシュ”につながりかねない表現も使わないと表明しました。
さらに、「地球にやさしい(Earth-Friendly)」という言い回しに至っては、「そのようなパッケージが存在しない限り」使わないと皮肉たっぷりに使用をやめると宣言しました。
サスティナブルは「悪くないが少し古い」
ファッション業界では最近、オーガニックコットンやリサイクル繊維を使用したり、サプライヤーへの適正な賃金支払いを公約するなど、環境負荷の軽減や人権への配慮を打ち出すブランドが増えています。こうしたブランドの間でも、「サスティナブル」という言葉を使うことをむしろ避けるようになってきたとするファッション誌VOGUEの記事も話題になりました。
記事によると、サスティナビリティ志向のファッションブランドとして知られる米ロサンゼルスの「Dôen」は数か月前、「私たちはスローファッションでもサスティナブルなブランドでもない」とするメッセージをホームページに掲載。同社はその後、サプライチェーンの監査を強化するとともに、「Resolution(決意)2021」と題したレポートで、環境へのインパクトの削減からコミュニティでの倫理的取り組みに至るまでの進捗状況について、サスティナブルという言葉を一度も使わずに公表しました。
同誌のコラムニストのエミリー・ファラ氏は「サスティナブルという言葉は悪くはないけれども、少し古くなってきたようだ」と指摘。Dôenの経営者であるクリーブランド姉妹は同誌とのインタビューの中で、「持続可能な(Sustainable)」の次に来る言葉として「誠実さ(Integrity)」を挙げた上で、「私たちは環境や社会への責任を果たしながら、資本主義という構造の中でビジネスとして持続可能であろうとしている。私たちはまだ100%ではなく、挑戦の途上にある」とコメントしています。
ESG時代はインテグリティ重視へ
ファッション業界以外でも、サスティナブルの代わりにインテグリティを使う動きが広がっています。マイクロソフトは2020年度のDevices Sustainability Reportのテーマを「Integrity Built in(組み込まれた誠実性)」として、サプライヤーの労働安全性や責任ある原材料の調達など、設計から調達、製造、流通、利用、廃棄に至る製品のライフサイクル全体におけるESGを意識した一連の取り組みとそれらの進捗状況を明示しています。
国内に目を転じても、日経ESGブランド調査が2020年からインテグリティの項目を追加してランキングを公表しています。もはやサスティナブルだけでは、ESG時代のビジネスの潮流や人々の製品やブランドへのニーズを表現しきれなくなってきていることがうかがえます。