世界で進むグリーンウォッシュ規制は何を変えるのか?
サステナブルな製品やサービスを選択できる可能性が広がる消費者にとっては朗報とも言えるグリーンウォッシュ規制。しかし、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミー、生物多様性への配慮などサステナビリティを軸とした経営に取り組む企業にとって、製品やサービスについてのコミュニケーションへの影響は避けられない。
EU(欧州連合)の指令案をベースに作られつつある世界のグリーンウォッシュ規制から、特にどのような点に注意すべきことになるのかお伝えしたい。
証明を伴わない主張はNG
グリーンウォッシュをめぐっては2020年以降、オランダやオーストリア、ベルギー、ハンガリー、ノルウェー、英国の競争・消費者保護当局が、広告におけるサステナビリティの訴求に関するガイドライン(Green Claim Code)を相次いで発行。特定の業界を対象としたコンプライアンス調査を行うようになった。フランスでは2021年に公布した気候変動対策・レジリエンス強化法で、グリーンウォッシュと見なされた広告に対して広告料の最大80%の罰金が科せられるようになった。
欧州だけではない。オーストラリア競争・消費者委員会(ACCC)は2023年12月、グリーンウォッシュから消費者を保護することを目的とした、罰則つきの新たな環境およびサステナビリティに関する主張のガイダンスを発表。米連邦取引委員会(FTC)も、グリーンウォッシュ防止のためのガイドラインの見直しに着手している。
こうした各国の動きを先導、統合する形で、欧州議会は2024年1月、グリーンウォッシュに関する指令案を採択した。消費者に誤った情報を提供してはならないという広告についての規定で、以下のような広告表現を禁じるとしている。
何よりも重要なのは、事業者が訴求の裏付けとなる証拠書類を保持する必要があるという点だ。その上で、訴求がどのような客観的な情報などに基づくものなのかを明確にしなければならないというのだ。製品のどのような側面で、どのような根拠でサステナブルなのか。製品全体、部品、素材、あるいはサステナビリティ方針なのか、訴求する対象を明確にするとともに、訴求する範囲も明確にすることが求められる。
また、これまでも環境に関する広告でよく使われてきた「green(グリーン)」 「environmentally friendly(環境にやさしい)」などといった一般的な訴求は、立証が困難であるとともに、環境破壊を引き起こさないという絶対的な印象を与えうるとして、具体的な内容を補足するための説明文を同じ媒体内でつけることを求めている。欧州委員会は、一般的な環境訴求で注意すべき表現として以下のような用語を例示している。
reduced CO2 emissions, zero emissions, carbon neutral (positive), green, eco-friendly, ecological, responsible, conscious, biodegradable, biobased , pollutant free
「根拠となるデータを保管しているから大丈夫」では済まないということだ。これらの用語は使ってもいいが、必ず補足説明をしなければならなくなる。
「カーボンニュートラル」にも厳しい目が
さらに、「カーボンニュートラル(脱炭素)」「ネットゼロ(温室効果ガス排出量の正味ゼロ)」といった気候変動対策に絡んだ一般的な環境訴求に関わる用語を使う際には、特に注意が必要だ。訴求の対象は製品なのか、部品なのか、包装なのか、サービスなのか、あるいは全体なのか。製品ライフサイクルの全部、または一部についてなのか。いつ、どこで、どのようなプロジェクトを通じてカーボンオフセットを行ったのか説明することも求められる。
なぜ、欧州を中心に環境訴求にここまでの厳密さが求められるようになるのか。それは、脱炭素とサーキュラーエコノミー(資源循環)を基軸に競争力の向上を図ろうとしている企業と、環境や社会に配慮したいわゆるエシカルな製品やサービスを購入したい市民とが出会う好循環を作り上げるためだと、筆者は理解している。こうした状況を作り出すために必要ではないかと思われる点について、最後に提起しておきたい。
グリーンウォッシュ・フリーな社会へ考えるべきこと
EUの新規則では、グリーンウォッシュではない訴求であることを立証するための客観的な根拠として、高い水準の認証制度を持つエコラベルの取得や第三者機関によるライフサイクル・アセスメント(LCA)の実施が想定されている。エコラベルについては、既存のものは認めるとともに、規則発効以降はEUが認定するという方向性が打ち出されている。そうなると、こうした認証の取得やLCAの実施、さらには得られたデータの保管などに関わるコストは誰が負担するのかという問題が生じてこよう。企業が投資するのか、消費者による追加負担が必要なのか、さらには公的な第三者が関与するのか――。
このあたりのコンセンサスが得られないと、企業の対応としては積極的に投資しながら誠実に情報を発信する企業と、逆に情報を出さなくなる(出せなくなる)企業とに二分されてしまいかねない。そうなれば、消費者にとっては製品の環境面の性能を比較評価できないために購入・利用には至らず、企業にとっても環境面での優位性をアピールしても収益につながらない状態となる。これでは、誰も幸せになれないだろう。
一方、日本の現状はどうだろう。日本ではグリーンウォッシュの規制につながる法律は存在しておらず、景品表示法第五条(不当な表示の禁止)と環境省が提示している「環境表示ガイドライン」(2012年改訂)を法的根拠として是正勧告などを行っているのが現状だ。グリーンウォッシュが疑われる広告表現の差し止め請求ができる主体も適格消費者団体(事業者の不当な行為に対する差止請求権を適切に行使できる団体として、内閣総理大臣が認定した消費者団体のこと)に限られており、この点も含めて景品表示法の改正を求める声が関係者の間で出ている。具体的な動きはまだないものの、環境表示ガイドラインの法制化も含めて、グリーンウォッシュへの抑止効果を狙った新たな法体系が必要な時代に入っているのはないだろうか。
グリーンウォッシュを抑止する上では、メディアの役割も重要だ。英国のガーディアン紙は、化石燃料とたばこ関連の企業による広告掲載を除外している。日本のメディアの姿勢は、果たしてこのままで良いのだろうか。
炎上を気にしすぎて積極的に広報できないのはもったいない。とはいえ、これまで以上に社内外で多様な視点に基づいた議論とチェックを経ないと、思わぬ痛手を負いかねない。いかにグリーンウォッシュを避けて、実のある環境についての訴求ができるか――。グリーンウォッシュをめぐる新たなルールは、サステナビリティが必須となるこれからのビジネスにおけるステークホルダーコミュニケーションのあり方を大きく変えていくだろう。