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東京マラソン2019 上位エリート選手の7割がナイキの“厚底シューズ”を履いていた!

山口一臣THE POWER NEWS代表(ジャーナリスト)
日本人トップの堀尾選手もナイキの“厚底”だった(写真:つのだよしお/アフロ)

新たに4人のMGC出場権獲得者が誕生した!

 日本最大のランニングの祭典、東京マラソン2019(3月3日)、終わってしまった。今年は9年前の第4回開催以来の冷たい雨の中の大会になった。ランナーも応援の人も、心を込めて、お疲れさまでした~と言いたい。とくに制限時間ギリギリペースだったみなさん、長時間、雨の中ご苦労さまでした!

 さて、トップアスリートたちの競技としてのレースを振り返ると、エチオピアのビルハヌ・レゲセ選手が悪条件にもかかわらず2時間4分48秒の好成績で優勝したほか、日本勢では初マラソンだった中央大4年の堀尾謙介選手が2時間10分21秒で日本人トップの5位に入り、学生初のMGC(マラソン・グランド・チャンピオンシップ)出場権を手に入れるなど見どころ満載で目が離せなかった。

 MGCは9月15日(日)に行われる2020東京オリンピックのマラソン出場選手を選考するためのレースで、「男子は東京マラソン1~3位で記録は2時間11分以内、4~6位で2時間10分以内」といった一定の条件を満たした選手が出場できる。男子は大迫傑選手(ナイキ)、設楽悠太選手(ホンダ)など24人の出場が決まっていて、今回の東京マラソンで堀尾選手をはじめ新たに4人の選手が出場権を獲得した。

(参考記事)マラソン五輪代表に新選考制度導入、予選シリーズに豪華メンバーずらり

大迫選手の棄権は賢明な判断だった

 一方、昨年のシカゴマラソンで日本新記録(2時間5分50秒)を出し、東京での記録再更新が期待された大迫選手が29km付近で棄権する大番狂わせもあった。大迫選手は初マラソンだった2017年のボストンから走るたびに毎回、自己ベストを更新していた。東京はシカゴと並ぶ平坦な高速コースなので、日本中のマラソンファンが注目していた。

 実際、下り坂が続く序盤は自らの日本記録を超えるハイペースの展開だった。しかし、20kmを過ぎた門前仲町付近からしだいに失速して、銀座まで来たところでレースを断念した。テレビ中継で解説をしていたシドニー五輪の金メダリスト高橋尚子さんが「レース前に会った時も、いつも以上にナーバスだったので体調が本調子ではなかったのかも……」と語っていた。2日前に行われた有力選手らの記者会見でも目標タイムを聞かれ、大迫選手のみが「??時間??分??秒」と具体的な数字をあげていなかった。

 当日の悪天候もあったと思うが、さまざまな条件が整わなかったのかもしれない。マラソンとは実に繊細なスポーツなのだと改めて思い知らされた。

 もっとも、記録の再更新は私たちファンが勝手に思っていることで、本人にとっての本番は五輪出場をかけた9月のMGCだ。日本陸連マラソン強化戦略プロジェクトリーダーの瀬古俊彦さんも、レース後の記者会見で「無理する必要はない。賢明な判断だった」とコメントした。大迫選手が棄権するシーンを観て、筆者もそう思っていた。今回は、コースのようすを確認できればいいのである。撤退は勇気ある決断だったのだな、と。

目の前を“厚底ランナー”が続々と通過する!

 そんな大迫選手の棄権シーンをテレビで確認してから筆者は沿道に出た。日比谷通り32km地点の少し手前の新橋5丁目付近である。先頭のレゲセ選手をはじめ、トップランナーたちが次々と駆け抜けていく。正月の箱根駅伝の直後に「箱根駅伝 なんと区間賞の70%を“厚底シューズ”が叩き出していた」という記事を書いた筆者としては、東京マラソンではどんなものかというのが気になっていた。

(参考記事)箱根駅伝 なんと区間賞の70%を“厚底シューズ”が叩き出していた

(参考記事)記録を伸ばす革命的なシューズ「ヴェイパーフライ4%」 ナイキが明かした「厚底」の秘密

“厚底シューズ”というのは、言わずと知れたナイキのズーム ヴェイパーフライ4%のことだ。それまで上級ランナーは“薄底”だといわれていた常識を覆して、世界の記録を塗り替えてきたシューズである。ボーっと見ているだけで、かなりの数のランナーがヴェイパーフライを履いていた。「数えてみよう……」とバカなことを思い立った(笑)。

 新橋5丁目から地下鉄都営三田線の御成門駅までダッシュして地下道をくぐって反対側に出て、再び先頭集団が来るのを待った。

 数えるといってもカウンターを持っているわけではない。頭の中で通過ランナーの数を数えながら、ヴェイパーフライ着用者を指で折った。やっている途中で、逆にすればよかったと後悔した。ヴェイパーフライを履いてないランナーを数えた方が楽だったのだ。あくまでも筆者の目視で確認できた限りだが、目の前を通過した上位エリートランナー50人中なんと35人がヴェイパーフライを履いていた。着用率70%だ(ちなみに箱根駅伝の時はヴェイパーフライだけではないがナイキの着用率は約41%だった)。

選手どころかペースメーカまでもが……。これは銀座付近(筆者の友人が撮影)
選手どころかペースメーカまでもが……。これは銀座付近(筆者の友人が撮影)

 やってみてわかったのは、ヴェイパーフライは比較的見つけやすいということだ。今回、確認できたのは、オレンジ、薄いグレー、濃いブルーの3種類だ。まず、近づいてくる選手を見るとつま先が上がっているので、白いソールに特徴的な黒い三角が見えてくる。だいたいこれでキマリだ。目の前を通過する時に、ナイキのロゴマークが確認できる。万一、見落としても、通過後、後ろからソールを見るとだいたいわかる。同じナイキでも、ヴェイパーフライ以外はなかなかこうはいかないと思う。

男子上位5人の“厚底”着用率はなんと100%だった!

 では、上位フィニッシュ選手はどうだったかというと、これがまた凄い!

1位 ビルハヌ・レゲセ(エチオピア) 2:04:48 ヴェイパーフライ4%フライニット

2位 ビダン・カロキ(ケニア) 2:06:48 ヴェイパーフライ4%フライニット

3位 ディクソン・チュンバ(ケニア) 2:08:44 ヴェイパーフライ4%フライニット

4位 サイモン・カリウキ(ケニア) 2:09:41 ヴェイパーフライ4%

5位 堀尾謙介(中央大) 2:10:21 ヴェイパーフライ4%フライニット

 男子5位までの選手の全員がヴェイパーフライの着用者だった。100%だ。10位まででは、7位の藤川拓也(中国電力)、9位の高久龍(ヤクルト)の計7人、着用率70%なので、筆者の目視による観察もまあまあ当たっているということだろう。来年はカウンターを持って数えにいこう(笑)。ちなみに女子は上位5位中、1位、2位、4位の選手が履いていた。

 いずれにせよ、相変わらず上級ランナーのナイキ ズーム ヴェイパーフライ4%の支持率が圧倒的なのがわかるだろう。

 こうした“厚底シューズ”の快進撃を前に、「上級者=薄底」信仰の本家と見られていたアシックスもついに“厚底”に舵を切った。“厚底”というくくりでは、他にも元祖といえるHOKA ONE ONEがある。

(参考記事)ナイキの独壇場だった“厚底シューズ”ワールドに満を持してアシックスが参入!

 それぞれのコンセプトはまったく違うが、複数のメーカーにこうした動きが見られるということはランニングシューズ全体のトレンドがいよいよ“厚底”に向かい始めたということかもしれない。しばらく目が離せそうにない。

THE POWER NEWS代表(ジャーナリスト)

1961年東京生まれ。ランナー&ゴルファー(フルマラソンの自己ベストは3時間41分19秒)。早稲田大学第一文学部卒、週刊ゴルフダイジェスト記者を経て朝日新聞社へ中途入社。週刊朝日記者として9.11テロを、同誌編集長として3.11大震災を取材する。週刊誌歴約30年。この間、テレビやラジオのコメンテーターなども務める。2016年11月末で朝日新聞社を退職し、東京・新橋で株式会社POWER NEWSを起業。政治、経済、事件、ランニングのほか、最近は新技術や技術系ベンチャーの取材にハマっている。ほか、公益社団法人日本ジャーナリスト協会運営委員、宣伝会議「編集ライター養成講座」専任講師など。

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