「ドライブ・マイ・カー」を作品部門候補に。「L.A.TIMES」がオスカー投票者に猛烈アピール
アカデミー賞のノミネーション投票が進行中だ。投票締め切りはアメリカ時間2月1日とすぐそこに迫るが、そんな中、「L.A.TIMES」は、30日の特集の一部として、「ドライブ・マイ・カー」は国際長編部門だけでなく作品部門にも候補入りするべきだと主張する記事を掲載した。
プリント版の見出しは、「Hey, Academy, Drive This 'Car'」。記事を書いたのは、同紙のトップ映画批評家ジャスティン・チャンだ。
チャンは、自身の批評記事をはじめ、過去にもあらゆる機会に「ドライブ・マイ・カー」を大絶賛してきている。だが、この映画を高く評価する批評家は、もちろん彼だけではない。今作は、L.A.映画批評家協会、ニューヨーク映画批評家サークル、全米映画批評家協会という3つの重要な団体から、外国語映画賞ではなく作品賞に選ばれているのである。この3つから作品賞に選ばれたのは、過去に「グッドフェローズ」「シンドラーのリスト」「L.A.コンフィデンシャル」「ハート・ロッカー」「ソーシャル・ネットワーク」の5本だけ。これら5本はすべてオスカー作品部門にノミネートされ、そのうち2本は受賞した。
つまり、統計的に見れば、「ドライブ・マイ・カー」もオスカー作品部門に候補入りする確率はかなり高いように思える。それでもチャンは「こと映画のように好みが大きく左右するものにおいては、統計はそれほど意味を持たない」とし、「『ドライブ・マイ・カー』が作品部門の候補として有力視されないのはなぜなのか」と疑問を投げかける。
チャンも参加する複数の批評家たちによるオスカー予測「Buzzmeter」で、「ドライブ・マイ・カー」は10本目の候補に入っているものの、この記事の中でチャン自身が認める通り、それは今作をとことん気に入っているチャンが1位に入れたことからなんとか引き上げられたものだ。現実的に、今作が10本の枠の上位ではなく、ボーダーラインにいることは疑いの余地はない。レビューサイトRottentomatoes.comによると批評家の98%が褒めているのに、ことオスカーとなると、どうして苦戦するのか。それは、「国際長編映画部門はともかく、作品部門はどうだろうか」という雰囲気がまだ根強いからだと、チャンは指摘する。
この映画の舞台は日本で、主要な出演者は日本人、セリフのほとんども日本語。どこから見ても「外国映画」であり、投票者はそう意識してしまう。2年前には韓国映画「パラサイト 半地下の家族」がオスカー作品賞を受賞するという画期的な出来事が起きたところではあるが、アカデミー会員にはまだ「作品賞は英語の映画にあげるべき」という観念を持つ人が少なくないと、チャンは見るのだ。
そんな投票者たちに、チャンは、どこの国の映画かに関係なく、作品の価値で判断しようと提案する。もしみんながそうすれば、「ドライブ・マイ・カー」だけでなく、スペインの「Parallel Mothers」やフランスの「Petite Maman」、ノルウェーの「The Worst Person in the World」も作品部門の候補として名前が挙がるはずだとも、彼は書く。そんなことを言えば「エリート意識だ」という批判を受けることも、彼は知っている。だが、チャンは、候補入りするのはアメリカやイギリスのセレブリティの作品であるべきだ、つまり、自分たちの文化のほうが上なのだと考える人たちから「エリート意識」と言われる筋合いはないと反論。この6年ほど、アカデミーが多様化のために努力をしてきたことも引き合いに出し、「そういう団体だからこそ、違った文化、違った言語の作品のすばらしさを讃えるのは正しいのではないか」と訴えている。
そんなチャンは、特集の別のページで、彼が望むオスカー候補作、候補者を挙げた。予測ではなく、あくまで彼が「こうあるべきだ」と考えるリストである。その中で、「ドライブ・マイ・カー」は、作品、監督、脚色、国際映画長編、主演男優(西島秀俊)、助演女優(パク・ユリム)、助演男優(岡田将生)の7部門に入った。さらにチャンは濱口竜介監督の最新作「偶然と想像」を脚本部門に入れている。
ここまで情熱をかけて応援してくれる批評家は、さすがに珍しいかもしれない。しかし、投票者の多くが住むL.A.の新聞だけに、その影響力は大きい。2月8日のノミネーション発表日、果たして「ドライブ・マイ・カー」は何部門に食い込んでいるだろうか。