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こどもの安全保護法が必要だ #ジャニーズ #STOP子どもの性被害 #日本版DBS

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
イギリスには「こどもの安全保護」法制があるが、日本にはない(提供:イメージマート)

ジャニーズ問題で、子ども若者への性暴力被害の深刻さが改めて知られるようになりました。

一人の加害者が多くの被害者を生みだしてきたおぞましい実態を見過ごしにしてきた日本のままで良いのでしょうか。

芸能界にかぎらず、あらゆる場で、子どもへの性暴力、性被害を防ぐ日本になるためには「こどもの安全保護法」が必要です。

1.イギリスでは学校・園から芸能事務所、スポーツクラブまで「こどもの安全保護」の法制・ルールを整備

私自身は、イギリスの取り組みに注目してきました。

英国では「こどもの安全保護(チルドレン セーフガーディング)」という法制が機能しており、子どもたちをあらゆる虐待・暴力・脅威から守ることが、国(司法・立法・行政)・地方自治体の責務とされています。

国・自治体が子どもに関するすべての関係者に、「こどもの安全保護(チルドレン セーフガーディング)」のための責務を果たすように、ルールを整備してきました。

イギリスでは学校・園から芸能スクール、スポーツクラブまで「こどもの安全保護(セーフガーディングチルドレン)」をホームページや施設の入り口に掲げ、「こどもの安全保護主任」を定め、相談先を明記し、子どもにも保護者にも共有されています。

例えば、人気サッカーチームであるマンチェスターユナイテッドのホームぺージにも、「こどもの安全保護方針」に責任者、相談先が示されています。

マンチェスターユナイテッドHPに掲げられる「こどもの安全保護方針」
マンチェスターユナイテッドHPに掲げられる「こどもの安全保護方針」

イギリスの子どもタレント事務所や、ダンススクールアクタースクールなどでも「こどもの安全保護方針」はあたりまえのように公表され、万が一、大人や家族から性暴力・虐待やハラスメントに遭ったときに、子ども自身が相談できるようになっているのです。

2.子どもの権利と「こどもの安全保護」

―DBSや被虐待児保護は「こどもの安全保護」法制の一部

なぜイギリスでは「こどもの安全保護」の仕組みがここまで発達しているのでしょうか。

実は、子どもの権利条約、そしてイギリスこども基本法が、その基盤にあります。

イギリスは1989年のこども基本法(Children Act)、1990年の子どもの権利条約批准以降、30年をかけて、子どもたちの権利を実現する仕組みを作ってきました。

子どもの権利の中でも「守られる権利」は、子どもたちが安心安全に成長するためのもっとも基本的な権利の1つです。

子どもたちに加害するのは、家族だけではない、子どもに悪意をもって近づく大人もだ。

子どもたちを守るためには、家族内での虐待への対応をするとともに、学校・園やそれ以外のあらゆる子どもの活動の場で、子どもたちを守る仕組みが必要だ。

イギリスでは政治家、行政関係者、司法関係者にもこの考え方が当たり前のように共有されています。

日本では、多くの子どもたちが性犯罪の犠牲者になりながら「犯罪者の職業選択の自由」が侵害されるという理由で、子どもを守る仕組みである日本版DBSに反対する司法関係者もいるのです。

わが国の子どもの権利実現への取り組みが遅れた30年間が悔やまれます。

ジャニー喜多川氏が少年たちに加害を続け、政府もメディアも野放しにしてきた30年でもあります。

イギリスでは、子どもの権利の実現のために「こどもの安全保護(チルドレン セーフガーディング)」の法制の充実や、芸能事務所、スポーツクラブまでを対象とした「こどもの安全保護指針」整備や相談体制の充実を実現してきたのです。

DBS(性犯罪者を子どもに近づけなくする無犯罪証明の仕組み)も、被虐待児保護(チャイルド プロテクション)も、政府をあげた「こどもの安全保護」法制の中で体系化され、年々その取り組みが拡充されているのです。

3.日本に「こどもの安全保護法」を

―芸能界、スポーツ界でも子どもの「守られる権利」の実現を

イギリスの取り組みを知っている私にとっては、こども家庭庁で進められている日本版DBSが、性犯罪者にとっては抜け穴だらけとなることを懸念しています。

※末冨芳「日本版DBS(子どもたちを性被害から守る仕組み)は「全ての仕事」を対象に!」(Yahoo!エキスパート記事,2023年8月14日)

学校・園で働く大人のみ、DBS(無犯罪証明)が義務化され、それ以外の塾・ならいごと・フリースクール・子ども食堂・学習支援などの居場所では、DBS利用が前提とされていないのです。

芸能界、スポーツ界も同様です。

また「こどもの安全保護」を国・自治体をあげて取り組むための法制は日本にはありません。

日本のこども基本法は子どもの権利の国内法で素晴らしい内容です。

しか、イギリスのこども基本法と違い、子どもの守られる権利の実現を具体的に示した法律ではないのです。

日本政府は、DBS導入で弱腰になっている場合ではありません。

子どもたちの「守られる権利」を実現するために、あらゆる場面で子どもたちを守りぬく「こどもの安全保護法」を制定し、官民あげた実現に取り組んでいくべきはないでしょうか。

ジャニーズ問題後も、「こどもの安全保護法」が整備され、運用されなければ、芸能界でもそれ以外の子どもたちの活動の場でも被害は続くでしょう。

私自身の作成した資料「英国こどもの安全保護政策(Safeguarding Children)から考える日本の課題」はこちらからご覧いただけます。

読者のみなさんは、子どもたちの「守られる権利」を置き去りにしたままで良いと思われますか?

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

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