Yahoo!ニュース

コロナ「BA.5対策強化宣言」緊急事態宣言やまん防と何が違う?制限は? ポイント解説

市川衛医療の「翻訳家」

新型コロナのいわゆる「第7波」で、オミクロンBA.5系統の変異ウイルスが猛威を奮っています。これまでのウイルスよりワクチンなどによる免疫を逃れる性質が強いとされ、全国で広がっています。

事態を受け、7月29日に政府は「BA.5対策強化宣言」の取り組みを発表。これまで、宮城県・神奈川県・愛知県・京都府・福岡県など複数の自治体で宣言が出されています。

この「BA.5対策強化宣言」。自治体ごとに呼びかけられている内容は違いますが、主には下記のようなもので、これまで一般的に言われてきた感染対策と大きな変わりはありません。

※基本的感染対策の再徹底(「三つの密」の回避、効果的な換気など)

※ワクチンの接種

※高齢者や同居家族などに、感染リスクの高い行動を控える こと

新型コロナウイルス感染症対策本部(第 95 回)資料より抜粋

この「BA.5対策強化宣言」は、私たちの生活にどんな影響があるのか?緊急事態宣言やまん防(まん延防止等重点措置)と何が違うのか?ポイントをまとめました。

【以下の内容は、公開時(8月9日)の情報をもとに記載しています】

ポイントその① 強制力は弱い

「BA.5対策強化宣言」と緊急事態宣言やまん防との最大の違いは、強制力です。

いま行われている様々なコロナ対策は「新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下、特措法)」を根拠にしています。

この法律には、新型コロナなど感染症のまん延などによって緊急的な事態が起きていると国が判断した時、学校や興行場などに対し、施設の使用の制限や停止を要請できると明記されています(第45条2項)。そして事業者が従わなかった場合、それを「命じる」ことができます(同3項)。

緊急事態宣言やまん防の際に行われる、飲食店やコンサートホールなどへの休業・時短要請は、この特措法の記載を根拠に行われ、反した場合には罰則があるなど強制力を持っています。

一方で「BA.5対策強化宣言」は、上記の枠組みの中で出されるものではありません。

法律上の根拠としては特措法の第29条9項の以下の記載が挙げられています。

「都道府県対策本部長(筆者注・都道府県知事)は、当該都道府県の区域に係る新型インフルエンザ等対策を的確かつ迅速に実施するため必要があると認めるときは、公私の団体又は個人に対し、その区域に係る新型インフルエンザ等対策の実施に関し必要な協力の要請をすることができる。」

「BA.5対策強化宣言」は国(政府)ではなく、自治体を主体として出される「要請」もしくは法律によらない「呼びかけ」で、罰則はありません。緊急事態宣言やまん防とは強制力が異なるわけです(下図)。

※政府資料より筆者作成
※政府資料より筆者作成

ポイントその② 補償は原則ない

強制力と関連し、補償への考え方も異なります。緊急事態宣言やまん防は、国や自治体が強制力を持って休業や時短を要請するわけですから、当然、そこで生じた損害については補償が行われるべきだと考えられます。

一方で「BA.5対策強化宣言」はあくまで強制力の弱い「お願い」レベルであり、補償も原則的には行われません。実際に現在「BA.5対策強化宣言」を出している自治体では、飲食店などに対し休業や時短の要請を行っていませんし、補償も設定されていません。

ポイントその③ 自治体ごとに内容は違う

緊急事態宣言やまん防は、国(政府)が発出するものですので、全国でおおむね同じ内容の対策が行われます。一方で「BA.5対策強化宣言」は政府がざっくり「こんな感じの対策を行ってはどうか」という例示はしているものの、あくまで自治体(都道府県)が主体で行うものですので、具体的な内容は自治体ごとにカスタマイズして良いことになっています。

例えば、8月5日に宣言を出した岡山県の場合、換気など基本的な感染対策の徹底と共に、高齢者など重症化リスクの高い人に対し、混雑した場に出かけないなど外出自粛を呼びかけました。

一方で2日に宣言を出した神奈川県の場合、基本的な感染対策の徹底を呼びかけた一方で、高齢者などへの外出自粛は呼びかけませんでした。また、県民などを対象に旅行などを補助する「かながわ旅割」については継続するとしています。

お住まいの自治体で宣言が行われている場合、具体的にどんな対策が要請されているかについては、自治体のホームページなどをご参照ください。

「行動制限なし」で第7波を乗り切るために

どうすれば医療のひっ迫を防ぎ、行動制限なしに第7波を乗り切ることができるのでしょうか?

重要なのが、発熱外来や救急外来の負担を減らすことです。そのために、若くて症状も軽い人は、医療機関を受診せず、自宅で療養するよう呼びかける取り組みが進んでいます。

若くて軽症の場合、コロナだとしても基本的には解熱剤などを服用しつつ自然に回復するのを待つしかありません。

しかし発熱した際に、学校や職場により検査による確定診断を求められたり、コロナ対応の医療保険の補償に療養証明書が必要だとされたりして、検査を目的に受診するケースが多くなっています。

そこで東京都は8月3日より、医療機関を受診せずともコロナ陽性を登録できる「陽性者登録センター」を開設。20〜30代の重症化リスクの低い人を対象に、自宅で抗原検査キットにより陽性が確認されれば、ネット上で陽性者として登録を申請することができるようになりました(※8月9日9時より30代も追加)。

申請が受理されると、陽性者登録センターが医療機関に代わって保健所に発生届を提出します。国の「My HER-SYS」というシステムに陽性者として登録されれば、療養証明書のダウンロードができるようになります(下図方法)。

なお自宅での療養生活において食料が必要だったり体調に不安を覚えたりした場合は、東京都のサポートセンター(うちさぽ東京)に相談することができます。

厚生労働省ページより「My HER-SYSで療養証明書を表示する場合の方法」https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000934331.pdf
厚生労働省ページより「My HER-SYSで療養証明書を表示する場合の方法」https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000934331.pdf

こうした取り組みはいま、各自治体で広がっています。発熱などによりコロナを疑った場合でも、体調がそれほど辛くないケースなどでは、お住いの自治体でこうしたサービスを使えるか、調べてみてください。

※自己検査による陽性者登録ができるか、それにより療養証明書を得られるかなどの状況は自治体により異なります

「宣言」をきっかけとして、状況に応じたしなやかな対応を

BA.5の感染は高止まりしており、医療機関の発熱外来や救急外来などは厳しい状態になっています。今後、緊急事態宣言やまん防など、いわゆる行動制限を伴うような強制力の強い対策を政府がとる可能性はあるでしょうか?

現在の国の基本的な方針によれば「新たな行動制限を行うことは、社会経済的な損失と得られる効果のバランスを失する」とされており、否定的です。

一方で「今後、ウイルスの特性に変化が生じるか、感染者数全体が大幅に拡大」するなどして医療がひっ迫する場合には「行動制限を含む実効性の高い強力な感染拡大防止措置を講ずる」とも記しており、可能性がないわけではありません。

行動制限を伴う強い措置が行われた場合、社会や経済に与える影響は大きくなります。

「陽性証明を求めないで」行動制限なしでコロナ7波を乗り切るために:医療現場からの訴え(7月29日(金)市川衛)

上の記事で取材に協力いただいた、在宅診療医の佐々木淳さんは第7波を「ウィズコロナの時代への最初の試練なのかもしれません」として、状況に応じたしなやかな対応を一人一人がとることを呼びかけています。

今後しばらくは厳しい状況が続くと思われます。今回の自治体の「宣言」はひとつのきっかけとして、私たち一人ひとりが、感染予防への取り組みや、かかった際の心構えをしておくことこそが必要なのかもしれません。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです。】

医療の「翻訳家」

(いちかわ・まもる)医療の「翻訳家」/READYFOR(株)基金開発・公共政策責任者/(社)メディカルジャーナリズム勉強会代表/広島大学医学部客員准教授。00年東京大学医学部卒業後、NHK入局。医療・福祉・健康分野をメインに世界各地で取材を行う。16年スタンフォード大学客員研究員。19年Yahoo!ニュース個人オーサーアワード特別賞。21年よりREADYFOR(株)で新型コロナ対策・社会貢献活動の支援などに関わる。主な作品としてNHKスペシャル「睡眠負債が危ない」「医療ビッグデータ」(テレビ番組)、「教養としての健康情報」(書籍)など。

市川衛の最近の記事