「陽性証明を求めないで」行動制限なしでコロナ7波を乗り切るために:医療現場からの訴え
新型コロナ「第7波」の拡大が止まりません。国内の先週の新規陽性者数は世界で最大となり、28日の東京都の陽性者数は、初めて1日4万人を超えました。
その影響で医療機関に患者が殺到。「半日電話をかけ続けても受診先が見つからない」「急病で救急車を呼んでもなかなか来ない、搬送先が見つからない」事態が起きています。
「行動制限なし」が国の基本方針となっている中で、どうすればコロナの影響を最小限に留められるのか。
在宅診療医として現場でコロナ診療に取り組み、内閣府規制改革推進会議の専門委員(医療・介護・感染症対策)も務める佐々木淳医師は「学校や職場は、具合の悪い人に陽性証明を求めない」など4つの「協力」が必要だと発信しています。
●基礎疾患のない若い人は、原則自宅で経過観察。医療機関を受診しない。
●陽性の同居者がいる人は、症状が出たら陽性とみなす。追加で検査する必要はない。
●学校や職場は、具合の悪い人やみなし陽性の人に陽性証明を求めない。
●とにかく重症化した人への医療アクセスの確保を最優先する。
いま、何が求められるのか。佐々木淳さんに伺いました
【この記事の内容は、2022年7月29日の状況を前提にしています】
Q)佐々木さんは、在宅診療グループの理事長であり、最前線で診療に携わっていらっしゃいます。現場は、どうなっていますか?
(佐々木さん)「最近のコロナは、感染しても重症化しないし、あまり気にしなくてもいい」これがたぶん、多くの人の認識だと思います。
一方で医療提供体制は非常に厳しい状況にあります。病院にかからない人にはわからないかもしれません。だけど、いざ医療が必要となったとき、「一体どうなってるんだ!」ときっと感じると思います。
「熱が出て具合が悪くても、半日電話をかけ続けても受診先が見つからない。」「救急車を呼んでもなかなか来ず、ようやく来たと思っても、搬送先が見つからない。」という事態が起きています。昨年の夏と同じです。
そして今回は、主に子どもを経由して、医療関係者にもケタ違いの感染が拡がっています。私の在宅診療グループでも、医療者の感染により、複数のクリニックで大幅に診療機能が低下しました。
このような事態は全国の病院でも多発しています。そろそろコロナ以外の病気の治療にも支障が出てくるはずです。
Q)佐々木さんがSNSに投稿した、冒頭に示した「4つの協力」のお願いは、これまで一般的に推奨されてきた対応とは違っているように感じます。なぜ、発信されたのですか?
(佐々木さん)僕の個人的経験の範囲内の印象ですが、いま発熱外来を受診する人の8割以上は基礎疾患のない若い軽症の人たちです。
中には発熱やノドの痛みが辛くて受診する人もいますが、多くは検査による確定診断が目的です。「医療機関を受診して、陽性証明をもらわないと学校や仕事を休めない」あるいは「保険の入院給付金が下りない」というのがその理由です。
いま、そうした人の受診で発熱外来がパンクしています。その結果、本当に医療につながなければならない重症化リスクの高い人、抗ウイルス薬の投与などが必要な人が医療にアクセスできない事態が起きています。
いま必要なのは、本当にリスクがある人が、適切に医療につながれる環境を作ることです。それが、医療システムを含めた社会全体にとって第7波を乗り切るために必要なことだと思います。
学校や職場の総務人事担当者のみなさまは、緊急的な状況を考えて、陽性証明書や診断書の提出を求めることを控えるなど、柔軟な対応をとっていただきたいと思います。
Q)とはいえ、発熱したら「コロナかも?」と不安になります。「検査して確かめたい」という気持ちは否定できないのではないでしょうか
(佐々木さん)はい、その気持ちはとてもよくわかります。万が一発熱した時に「自分がコロナかどうか知りたい」と思われる方は、いつでも自己診断できるよう、あらかじめ抗原検査キット(薬局で購入できる、体外診断用医薬品として承認された検査キット)を購入しておくことを強くおすすめします。
自治体によっては感染が疑われる場合、「検査キット配布センター」から無料で届けてもらえます。ただし、キットが自宅に到着まで2日程度かかるのと、対応力に上限があることから、手元に確保しておくのがよいと思います。
加えておすすめしたいのが、解熱鎮痛剤を購入しておくことです。若くて基礎疾患がない人は、医療機関を受診しても解熱鎮痛剤や咳止めの処方がされるだけのことがほとんどなのですが、実は、同じものをお近くのドラッグストアで購入することができます。
代表的な解熱鎮痛剤であるアセトアミノフェンの場合、医療機関で処方されるのは大人で1回300〜500mg、子供は1回あたり10〜15mg×体重が目安です。
市販されている薬だと、「タイレノールA」や「ラックル」であれば1錠あたり300mg、「ノーシンAC」だと150mgと少なめですが、同じ成分が配合されています。
いま、医療用医薬品としてのアセトアミノフェン(カロナールなど)は急激に需要が増えたので、手に入りにくくなっています。ドラッグストアでも、購入が難しくなるかもしれません。
その場合には、ロキソプロフェンやイブプロフェンなど、消炎鎮痛作用のある成分が配合されているものを選択してもよいと思います。ぜひドラッグストアや薬局で、薬剤師さんに相談してみてください。
抗原検査キットと解熱鎮痛薬、そして非常用食材の備蓄があれば、医療機関を受診することなく自宅で療養ができます。
Q)なるほど、これだけ感染が広がっている中なので、いわば災害への対策と同じように、万が一自分が感染した時に安心していられるよう備えておくことが大事だということですね。
(佐々木さん)「行動制限をしない。」これは政府の方針であるとともに、多くの国民のコンセンサスでもあると思っています。
私たちは自由を選択しました。その結果起きていることに対し、自粛警察のような社会的圧力に屈するのではなく、一人ひとりがスマートにしなやかに対応できることが大事だと思っています。
①状況に応じた合理的な感染対策
②合理的な感染時の対応
③医療提供体制維持
これができて初めて「ウィズコロナ」ということになるのだと思います。
安全に経済活動を継続することは難しくありません。中には一時的に延期したほうがいいイベントもあるかもしれませんが、延期できないなら、ワクチン接種を含めて「自分を守る、自分と生活を共にする人を守る」ことをこれまでより少し意識したほうがいいと思います。
東京の新規感染者数が5万人を超えたら、相当に厳しいことになると思います。
山場はまだまだ先。いま私たちにできることは、合理的な感染拡大防止のための工夫と、重症化リスクの少ない人は、感染したときに医療機関を受診しなくてもよいように備えておくことです。
今後しばらくは、受診したくても、そう簡単には受診できないケースが増えていくと思います。
これはウィズコロナの時代への最初の試練なのかもしれません。
医療者も、できるだけ社会活動を制限せずにコロナと共存できる道を探りたい、という気持ちには変わりはありません。みんなで一緒に、次のステップに進みたいと願っています。
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取材協力
佐々木淳(ささき・じゅん)さん
在宅医・内科医/内閣府 規制改革推進会議 専門委員(医療・介護・感染症対策)/厚労省 薬局薬剤師の業務・機能WG 構成員/「患者が主役」。治らない病気や障害があっても納得して人生を生き切れる。そんな社会を実現すべく首都圏+沖縄の18診療拠点から400人の仲間と6600人の在宅患者さんに24時間の在宅総合診療を提供中。
※この記事は、7月27日の佐々木淳さんがSNSに投稿した内容を、佐々木さんの同意のもと、インタビュー形式に編集して情報を追加したものです