Yahoo!ニュース

ジョニー・デップの「ファンタスティック・ビースト」解雇にファンが激怒

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

「自分はDV加害者ではない」と訴えるイギリスでの民事裁判敗訴からわずか4日、ジョニー・デップが、「ファンタスティック・ビースト」3作目から解雇された。ワーナー・ブラザースは、彼が演じていたグリンデルバルド役を新たにキャスティングするという。この映画の撮影のためにすでにロンドンにいるデップは、現地時間6日、インスタグラムで、その事実を自ら発表。そのメッセージには、「最近起こったことについて、以下のような短い声明を発表したいと思います。まずは、僕を忠実に支えてくれたみなさんに感謝したいと思います。この2日間はとくに、みなさんから心配や愛のメッセージをいただけたことに感動していました。ふたつめに、ワーナー・ブラザースから、『ファンタスティック・ビースト』のグリンデルバルド役を降板するよう言われたことをご報告します。僕はその要望に敬意を表し、従うことにしました。最後に言いたいのは次のことです。イギリスの裁判所が下した信じられない判決は、真実を語るための僕の闘いを変えることはしません。僕は上訴します。その決意は固いです。僕について言われていることは嘘だと、証明してみせます。この瞬間によって自分の人生とキャリアが定義されることにはさせません。読んでいただいてありがとうございます」とある。

 デップが起こしていたのは、デップが元妻アンバー・ハードに対して暴力を振るっていたとする記事を書いたイギリスのタブロイド紙「The Sun」に対する名誉毀損裁判だ。7月、16日間にわたって行われた裁判では、デップとハードがそれぞれに供述。ハードは「自分は殺されるのではないかと思っていた」などデップの暴力が日常だったことを語り、デップは、暴力的だったのは逆にハードのほうで、嫌がらせとしてハードか彼女の友人がベッドの中に人間の排泄物を置いたこともあるなどと語っている。ハード側は、デップ宛てに書いた未送信のメールやハードの日記、母に送ったテキストメッセージを提出、デップ側は、ハードが妹に対して暴力を振るう監視ビデオが証拠としてあると述べた。デップの元恋人ウィノナ・ライダーも、「彼が暴力的だったことは一度もありません。ほかの人に対してもです」という、デップを弁護する手紙を裁判所に提出している。

 しかし、現地時間今月2日、裁判所は、「The Sun」が書いたことは実質的に真実だという判決を下した。129ページに及ぶ判決文の結論で、判事アンドリュー・ニコルは、「原告は名誉毀損を訴えるに必要な要素を提示したものの、被告は自分たちが出版したことが実質上事実であると見せつけた。私は被告が述べた14の事例を検証し、原告が語ることも考慮した上で、この結論を出している。こういった状況では被告が守られると議会は述べている。記事がフェアでない、被告に悪意があるということは、関係がない」と述べている。

 この直後にも、ファンからは、「#JusticeForJohnnyDepp」のハッシュタグとともに、「だから男性のDV被害者は名乗り出られないのだ」といった批判のツイートが寄せられた。しかし、デップが「ファンタスティック・ビースト」を降板させられたとわかると、ファンの怒りは頂点に達する。これまでに、ツイッターには、「ジョニー・デップはキャプテン・ジャックとグリンデルバルド役を失いました。DV被害者という理由で。ハリウッドはDV被害者をこう扱うのです。役を取り上げるのです」「ジョニー・デップは『ファンタスティック・ビースト』を下ろされたのに、アンバー・ハードはまだ『アクアマン2』に出る。こんなバカげたことはない」「アンバー・ハードは彼の評判だけでなくキャリアまで破壊して喜んでいるんでしょうね」「ジョニー・デップは濡れ衣を着せられた人たちのために闘っています。自分のキャリアがどうなるかは気にしないんです。真実と正義のほうがもっと大事だから」「ごめんね、もう『ファンタスティック・ビースト』は見ないことにします。ワーナーは大きな間違いを犯しました。ジョニー・デップは被害者だと知っていながら、彼を降板させたのです。私は彼を支持し続けます」「キャプテン・ジャックとグリンデルバルドを演じられる俳優はほかにいません」などの投稿が寄せられている。その数は、こうしている合間にも、どんどん増えていく一方だ。

 この裁判とは別に、デップはアメリカ国内でもハードに対する名誉毀損裁判を起こしている。こちらは、ハードが2018年12月、「Washington Post」にDV被害者として書いた意見記事をめぐるもの。記事の中でハードはデップを名指ししていないものの、それが誰かは明白な書き方をしている。デップは、この記事のせいで「パイレーツ・オブ・カリビアン」を降板させられたのだと信じている。彼がハードに求めているのは5,000万ドル。この裁判は来年5月3日に始まる予定だ。デップとファンには、長い闘いが続く。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

猿渡由紀の最近の記事