Yahoo!ニュース

「禁断の書」持っていた北朝鮮女性、それが何かも知らず処刑

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮の公開裁判(デイリーNK)

 北朝鮮の平安南道(ピョンアンナムド)で「地下教会」の信者ら5人が当局によって逮捕されたと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が伝えている。

 RFAによれば、逮捕劇があったのは約3カ月前のことだ。道内の順川(スンチョン)市のある民家で深夜に集まり、聖書を読み礼拝を行っていたキリスト教信者ら5人が、急襲した保衛員(秘密警察)らによって逮捕・連行されたという。

 5人は家族ではないということで、宗教が禁じられている北朝鮮でどのようにキリスト教が広まり、信者どうしがネットワークを構築していたのか興味深いところだ。だが、逮捕された5人は非常に残酷な運命を辿るものと思われる。

(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

 実際、咸鏡南道(ハムギョンナムド)の新浦(シンポ)では、聖書を持っていただけの女性が処刑される事件が起きている。

 現地のデイリーNK内部情報筋によれば、彼女は特にキリスト教を信仰していたわけではなかった。どこかで手に入れた聖書を、それがどのようなものかも知らないまま、商売用の倉庫に放置していただけだった。それが運悪く近所の住民の目に触れ、当局に密告されてしまったのだ。

 さらに運が悪かったのは、潜水艦の建造施設がある新浦は、当局の警戒が非常に厳しいところだということだ。そういった地域の保衛部は往々にして過剰な行動に出がちで、また実績作りのため犯してもいない罪をでっちあげることもある。

 この女性も外国と通じたスパイであるとの容疑をかけられて処刑されてしまった。

 ちなみに順川の地下教会も、近隣住民の密告で摘発された。夜な夜な集まりを持つ5人を不審に思って通報。その情報をもとに保衛部が張り込みを行い、礼拝の現場に踏み込んだのだという。

 このような場面で密告を行うのは、だいたいが保衛部のスパイだ。反体制の芽を未然に摘みとるため、保衛部は隣近所の様子を監視する協力者を、人民班(町内会)ごとに運用しているとされる。

(参考記事:美女2人は「ある物」を盗み公開処刑でズタズタにされた

 しかしそこまでしていても、地下教会は生まれては潰され、生まれては潰されを繰り返しているのだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

高英起の最近の記事