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「流言は智者にとどまる」 災害デマのパターンは知って、拡散を防ぐ

石戸諭記者 / ノンフィクションライター
(ペイレスイメージズ/アフロ)

記者として東日本大震災や熊本地震など災害現場、発生時から飛び交うデマやうわさの取材をしてきた。多くの専門家が指摘するように、デマ、うわさはパターン化されている。デマをゼロにするのは難しい。不安や善意からうっかり拡散に加担したり、騙されたりしないためにまとめた。

1 注目されたい「ネタ」投稿

 代表的なものは「動物園からシマウマが逃げた」「ライオンが逃げた」といった類のツイートだ。これらは悪意がある「デマ」というより「ネタ」として投稿する愉快犯といった意味合いが強い。

 いっときの混乱を招くがすぐさま検証が始まり、収まっていくのも早い傾向にある。

2 災害再来流言

 東日本大震災でも取材をしていると「明日何時に地震が起こるから注意したほうがいい」と真顔で語る人たちと何人も出会った。予言が当たったという人のネット上の書き込み、広がっていたうわさが根拠だった。

 こうしたうわさは「災害再来流言」と呼ばれ、昔からみられる典型的なパターンだ。大きな災害の直後は広がる可能性が高いものだと言える。

 災害が起きれば、人は不安になる。次は別の地域で起きるのではないか。また明日、地震が来るのではないかという不安が広がった時、うわさやデマも広がる。特に災害発生時は多くのニュースが流れるが、携帯もつながりにくくなり友人や知人の安否といった当事者にとって必要な情報は不足する。

 情報不足は不安の原因だ。直後に広がるうわさやデマは不安の現れと考えたほうがいい。

3 災害の理由を後付けで説明するもの

 典型的なのは「地震雲」だ。雲の形が地震を予言していて、大きな地震の発生前にみたといううわさが広がる。

 これも科学的にはまったくの間違いで、雲が地震発生の前兆になることはない。

 「地震雲」言説のやっかいなところは「災害再来流言」と結ぶつくところだ。「地震雲をみた。北海道の皆さん注意してください」といったツイートがでてきたときには注意が必要だ。

4 「犯罪が起きる」言説

 「窃盗団が略奪をしている」といったうわさが典型。窃盗は平時から起きる犯罪で、災害時に窃盗団がやってきて、窃盗が増えたというデータは阪神大震災でも、東日本大震災でもなかった。

 最近では「〜〜人の窃盗団」といった人種差別的なツイートも見られる。こうした書き込みを広げてはいけない。

5 善意の「拡散希望」ツイート

 SNSはそもそも善意と相性がいい。結果として間違った情報を流しても、万が一人助けにつながるなら……。そんな気持ちが背景にあるのか、「【拡散希望】マスコミが報じていないけど〜〜で物資が不足している。すぐに送ってほしい」「救助要請」といったツイートがよく広がる。

 うわさやデマと一概に決めつけることはできないが、真偽がわからないものも多く拡散には注意が必要だ。ツイートを見かけて拡散したときには問題がすでに解決されている可能性もある。救助も同様だ。

 良かれと思って、真偽不確かな情報を反射的に広げたところで、かえって混乱のほうが広がってしまうという事態になってしまう。

 良かれと思うなら、拡散に加担しない。どうしてもツイートしたいなら、例えばNHKや全国紙、地元紙が行政に確認して流している情報をシェアするくらいでちょうどいい。

流言は智者にとどまる

 災害時の流言やデマを研究する東京大の関谷直也氏に取材した時、こんなことを言われた

「うわさというのは、インフルエンザのようなもので、どこからともなく広がり、いつの間にか収束していくところに特徴があります」

「パターン化できるのに、なぜ防げないのか。うわさの特徴は完全に否定できないことにあるからです。あやふやなものでも、もしかしたら……、万が一……、と思わせる」

 災害時に平時と同じように落ち着いていられる人はいない。あやふやな情報に踊らされるのは、ある意味で当然のことだ。だからこそ、間違った情報を確信したときはすぐに消したり、否定したりと言った火消しに回ることが重要だ。

 「流言は智者にとどまる」という言葉がある。あやふやなうわさは智者は広げないという意味だ。デマやうわさで一番助かるのは、拡散ではなく止めること。これに尽きる。

記者 / ノンフィクションライター

1984年、東京都生まれ。2006年に立命館大学法学部を卒業し、同年に毎日新聞社に入社。岡山支局、大阪社会部。デジタル報道センターを経て、2016年1月にBuzzFeed Japanに移籍。2018年4月に独立し、フリーランスの記者、ノンフィクションライターとして活躍している。2011年3月11日からの歴史を生きる「個人」を記した著書『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)を出版する。デビュー作でありながら読売新聞「2017年の3冊」に選出されるなど各メディアで高い評価を得る。

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