なでしこジャパン4選手が掴んだ新たなチャンス。東京五輪の選手登録人数拡大で、18人から22人に
東京五輪のサッカー競技で、選手の登録枠が従来の18人から22人に拡大されることが、FIFAからの通知によって決定した。中2日で最大6試合という過密日程に加えて、酷暑が予想される中、新型コロナウイルスの影響によって起こりうることを想定した、今大会限りの特別措置となる。
これまでのレギュレーションでは、18人の中で負傷者などが出た場合に大会中に、4人のバックアップメンバーの中から選手の入れ替えが可能となっていたが、新たな規定では、22人の登録メンバーから試合ごとに、ベンチ入りメンバーを含めた18人を選ぶこととなる。
なでしこジャパンは、バックアップメンバーとして選出されていた、GK平尾知佳(アルビレックス新潟レディース)、DF三宅史織(INAC神戸レオネッサ)、MF林穂之香(AIKフットボール/スウェーデン)、MF木下桃香(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)の4名が、正式メンバーとして加わった。
高倉麻子監督は以前、4名のバックアップメンバーの選考基準について、全体的なポジションバランスや、チームに足りない要素を埋める選手を選ぶことを示唆していた。また、選出時には、「登録上は18人ですが、私自身はメンバーは22人だと考えています」と語っている。
複数のポジションをこなせる選手が多く、誰が出ても大きく力を落とすことなく個性を生かし合えるチームづくりを目指してきた。そのなかで、たしかな実力を持つ4人の戦力が加わるこの変更は、日本にとってプラスに働くだろう。また、4人の中では平尾と三宅が2019年W杯を経験しており、林と木下はA代表で初の世界大会となる。
ここでは、新たに正式メンバーとして登録されることとなった4選手を紹介する。
22 平尾 知佳 ヒラオ チカ(アルビレックス新潟レディース/24歳/GK)
173cmの恵まれた体格に加え、GKの天資と言える大きな手を持ち、国内GKの中ではクロス対応に屈指の強さを見せる新潟の守護神。年代別代表では飛び級で上の代に入り、正GKとして2015年のAFC U-19女子選手権で優勝、16年のU-20女子W杯では3位に貢献。GK池田咲紀子、GK山下杏也加とは、10代の頃からともに切磋琢磨を続けてきており、19年のW杯も3人のGKチームで日本のゴールを守った。明るい性格でプレッシャーに強く、ムードメーカーにもなれる。ケガの影響もあって所属チームで昨年10月以降戦列を離れていたが、今年4月のWEリーグプレシーズンマッチで復帰し、5月には1年2カ月ぶりに代表に戻ってきた。6月の2連戦は選外となったが、ケガ人が出たため追加招集となり、ラストチャンスで持ち味をしっかりとアピールした。バックアップメンバーに選ばれ、「悔しい気持ちと、帯同してチームのために戦える嬉しい気持ちの両方があります」と話していたが、正式メンバーとしてチームに加わることに。新潟では、シュートストップや1対1に加え、昨年からはキックのバリエーションも増えたという。ケガの時期を支えてくれた新潟のメンバーやスタッフ、サポーターへの感謝も込めて、日本を最後方から支える。
19 三宅 史織 ミヤケ シオリ(INAC神戸レオネッサ/25歳/CB、SB)
ボール奪取とビルドアップに長けたセンターバック。本職のセンターバックに加えてサイドバックでもプレーできる。A代表の初選出は17歳と早く、高倉ジャパンでも2017年末からコンスタントに選出されてきた。19年末のE-1選手権ではフル出場で優勝に貢献するなど、コンビネーションを計算できる選手の一人だ。転機となったのは、17年から毎年、アメリカで行われてきた4カ国対抗戦。国内リーグではビルドアップを強みとしてきたが、アメリカやイングランド、ブラジルなど、世界のトッププレーヤーたちのパワーとスピードを体感し、「まずは失点しない、負けないことから逆算するようになりました」と、守備力向上に努めてきた。もともと線が細かったが、課題を見つめ直し、「試合に出るためには、対人の強さを上げていくことが必要」と、食事量や筋力トレーニングを増やし、アジリティを高めるトレーニングなどで動きの質も改善。合宿中の練習や男子チームとの試合では、力強いくさびのパスを通してチャンスに繋げる場面もあり、筋力アップは攻撃面でもいい影響を及ぼしているように見える。INACでは昨年から3バックでもプレーしており、守備範囲とプレーの幅を広げている。オフでは常に周りを笑わせ、チームに笑顔をもたらすムードメーカーだ。
20 林 穂之香 ハヤシ ホノカ(AIKフットボール(スウェーデン)/23歳/ボランチ)
試合の流れを読み、ベストなプレーを瞬時に嗅ぎ分けるクレバーなボランチ。判断が適切で、技術的なミスが少なく、ずば抜けたスピードやパワーがあるわけではないが、球際に強く、運動量が多い。守備ではスペース管理やピンチの芽を摘むプレー、攻撃では長短のパスでの組み立てや、ミドルシュートが持ち味。セレッソ大阪堺レディースでは、10代の頃から若いチームを牽引し、背中で見せるリーダーだった。一方、年代別代表では飛び級で選ばれることも多く、U-20女子W杯は2度経験。最年少で出場した2016年は3位、18年大会では初優勝を支えた。今春、同志社大学を卒業してスウェーデン1部のAIKフットボールに移籍。同チームは、林のサッカーIQの高さと、プレッシャーの中でも「止める」「蹴る」「運ぶ」といった基礎技術の高さを評価したという。リーグ戦ではミドルシュートやフリーキックなど、鮮やかな長距離砲も決めている。新天地での挑戦をスタートさせてまだ数カ月だが、「スピード感や強さに慣れて対応できるようになった」と成長を口にしている。今大会では、中島依美や杉田妃和、三浦成美とともに日本の中盤の選手層を厚くする。
21 木下 桃香 キノシタ モモカ(日テレ・東京ヴェルディベレーザ/18歳/SH、FW)
バックアップメンバーから正式メンバー入りが決まり、18歳の最年少で東京五輪への切符を勝ち取った新星。サイドからのチャンスメイクや突破力が魅力で、テクニックとスピードがあり、判断も早い。年代別代表では飛び級で上の代に入るなど、ポテンシャルの高さを認められてきたが、国内リーグでも昨季から出場機会を増やして、随所に非凡な才能を見せつけてきた。2018年からベレーザの永田雅人監督(現ヘッドコーチ)の下で、ボールを奪われないスキルや相手の逆をつくテクニックを身につけ、感覚的にプレーしていたことを、論理的な視点で考えるようになったという。4月のパラグアイ戦で代表デビューを飾ると、出場3試合目のメキシコ戦で代表初ゴール。「シュートの威力がないので、普段から股を抜いてGKの逆をつくことを意識しています」と、股抜きから冷静に狙い通りのコースに決める大物ぶりを見せつけた。憧れの選手は、ボランチとして代表の黄金期を支えたMF阪口夢穂。唯一の10代で周囲の期待の高さも感じられるが、本人はしっかりと地に足をつけている。「世界がどんなところなのかを経験したい思いが強いです」と、A代表で初となる世界大会の舞台で、あらゆることを貪欲に吸収するつもりだ。