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デジタルニュースの現状リポート  不信感は政治家や伝統メディアの「偏向」から生まれる

小林恭子ジャーナリスト
デジタルニュースは生活の至る所にある(写真:ロイター/アフロ)

新聞通信調査会の「メディア展望」3月号に掲載された筆者原稿に補足しました。)

 英オックスフォード大学に設置されているロイター・ジャーナリズム研究所は、毎年、世界主要国のデジタル・ニュースをめぐる状況について調査を行い、その結果を発表している。最新版「デジタルニュース・リポート 2017」を紹介してみたい。

 今回で6年目となるリポートは36カ国・地域の7万人を対象にし、英YouGovが昨年1月から2月にかけて調査を行った。調査費用の一部はBBCを含む英メディア、複数の大学、米グーグルなどが負担した。

メッセージアプリが人気、SNSへの不信感

 36カ国・地域全体の特徴として、いくつか拾ってみる。

 

 (1)ソーシャルメディアからメッセージアプリへ。前者の拡大が停滞気味で、プライバシーをより保てる後者の人気が高まっている。

 

 (2)ソーシャルメディアが事実とフィクションとの区別を十分に行っていると答えた人は24%のみ。伝統メディアの場合は40%。

 (3)ニュースメディアへの信頼性は、国によって大きく異なる。フィンランド(62%)が最も高く、最も低いのはギリシャと韓国(23%)だった。

 (4)メディアへの不信感の高さと政治的偏向には強い相関関係があった。特に政治見解が分極化している米国、イタリア、ハンガリーでこの傾向が見られた。

 

 (5)約3分の1がニュースに接触することを避けることが多い、あるいは時々そうすると答えている。理由は気持ちが沈むから、あるいは真実とは思えないからだった。

 (6)パソコンよりも携帯機器でニュースを閲覧する人が増えている。

 

 (7)携帯機器でキュレーションされたニュースを読む人が多い。特に伸びたのがアップル・ニュースとスナップチャット・ディスカバー。

 

 (8)外出時だけではなく、家でも主としてスマートフォンでニュースを閲覧する人が増えている。

 

 (9)アマゾンのエコーなど音声で動作を開始する機器でニュースに接する人が米英で増えている。

 

 (10)オンラインニュースの有料購読率は、「米トランプ大統領効果」によって大きな伸びを見せた。

 2016年11月の大統領選から昨年の年頭までにニューヨーク・タイムズ紙はデジタルの有料購読者を50万増やし、ウォールストリート・ジャーナル紙は25万増加させた。寄付の比率も増えた。新規購読者の大部分は左派系の若者層だった。

 何故有料購読するかと聞かれ、「ジャーナリズムを助けたい」という人が米国では29%いた。

 (11)オンラインニュースの有料購読率が特に高いのは北欧のノルウェー(15%)、スウェーデン(12%)、フィンランド(10%)だった。最も低いのはギリシャの2%。日本は6%。

 何故有料購読するかと聞かれ、全ての国・地域で最大の理由として挙げられたのは「スマートフォンやタブレットでアクセスしたいから」(30%)。これに「広い範囲の情報源のニュースに接したいから」(29%)、「割安サービスを提供されたから」(17%)が続いた(複数回答)。「ジャーナリズムを助けたいから」は13%だった。

 

 逆に、何故有料購読しないかを聞かれ、最大の理由は「無料でニュースが閲覧できるから」(54%)で、これに続いたのが「最も好むニュースサイトが無料で記事を出しているから」(29%)、「オンラインのニュースはお金を払う価値がないから」(25%)。

 (12)インターネット広告をブロックする「アドブロック・ソフト」の導入はデスクトップでは21%で、これは現状維持。スマートフォンでは7%。

 一時的にアドブロックを行ったという人はポーランド、デンマーク、米国で半数以上を占めた。国別では導入率が最も高いのはギリシャ(36%)、韓国が最も低く(12%)、日本も12%と低い。

 (13)特定の媒体のニュース記事が複数のプラットフォームで配信されるとき、どこでその記事を見つけたかは記憶に残るが、どこの新聞あるいはニュースサイトが制作した記事かは覚えていない傾向が見られた。

 

 (14)ニュースへのアクセスで、紙の新聞を最も好むのはオーストリア人、スイス人。ドイツ人やイタリア人はテレビを最も好む。中南米諸国ではソーシャルメディアやチャット用アプリを最も好む傾向があった。

日本の閲覧傾向は?

 ロイターのリポートは全体の傾向を説明する部分の後に、各国の状況をつづっている。日本の現況を紹介してみたい。

 テレビ、ラジオ、新聞・雑誌を合わせた中で、最も利用するニュース媒体はNHKがトップ(56%)。

 これに続くのが日本テレビ(44%)、テレビ朝日(40%)、TBS(39%)、フジテレビ(36%)、地方紙(23%)、テレビ東京(18%)、朝日新聞(17%)、読売新聞(17%)、民間ラジオ局(13%)、日経新聞(13%)、米CNN(6%)、毎日新聞(6%)、5%が産経新聞、BBCニュース、スポーツ紙(複数回答)。

 オンラインではヤフーニュースが断トツ(53%)で、これに続くのがNHKニュースオンライン(23%)、日本テレビ(15%)、TBS(13%)、テレビ朝日(13%)、朝日新聞(12%)、フジテレビ(12%)、日経新聞(12%)、MSNニュース(8%)、産経新聞(8%)、テレビ東京(7%)、読売新聞(7%)、民間ラジオ局(6%)、毎日新聞(6%)、日経ビジネス(5%)、地方紙(5%)。

 NHKを好む理由は「正確で安心できる」(59%)、「複雑な事柄を理解できる」(43%)、「強い視点がある」(33%)、「面白い、娯楽性がある」(22%)。

 一方、ヤフーニュースを好む人は「面白い、娯楽性がある」がトップの理由で63%、これに「正確で安心できる」と「複雑な事柄を理解できる」がそれぞれ32%、「強い視点がある」は27%だった。

 日本の項目は共同通信社の澤康臣記者の執筆による。澤氏はロイター・ジャーナリズム研究所のフェロー(2006-07年)だった。

 同氏は他国では人気が高いソーシャルメディアのフェイスブックが日本ではユーチューブやLineに続く、第3位の位置にあることを指摘する。

 ニュースにアクセスする際に最も人気があるソーシャル・メディアとメッセージアプリのランキングでは、フェイスブックは第4位となり、ツイッターの下に来る。

 その理由について、澤氏は総務省の2014年の調査を例に出す。これによると、日本人はオンライン上では匿名であることを好むという。これが、ビジネス上のネットワークを作るソーシャルメディアのリンクトインが他国では人気が高いのに、日本では有効回答者の1%しか使っていない理由ではないか、という。

 筆者は毎年、このリポートに目を通してきたが、いつも気になるのが「オンラインニュースへの参加度」という指標の結果だ。

 「参加度」には様々な意味合いがあるが、「ソーシャルメディアなどで共有した」、「コメントを残した」と定義した場合、最もその度合いが低いのが日本だ。トップは中国(64%)とブラジル(同)で、ほぼ真ん中にあたる米国が41%。筆者が住む英国は後ろから3番目の22%。日本は最後で13%だ。

 国民性と関係があるのだろうか?日本のニュースサイトはコメントができない場合も多いので、これが関係しているのかどうか。興味は尽きない。

今年のトレンドは?

 さて、今年、ニュース業界はどうなっていくのだろうか?

 ロイター・ジャーナリズム研究所は、今年のトレンドを予測するリポート(「ジャーナリズム、メディア、そしてテクノロジーのトレンドと予想 2018」)も発行している。

 世界29カ国のメディアで働く、194人のデジタル・ニュース担当者に聞いたところ、最も懸念しているのはフェイスブック、グーグル、アップルなどのいわゆる「プラットフォーム」と言われる企業が影響力を増していること(44%)だった。

 半数に近い担当者が有料購読をデジタル収入の要と考えていた。

 成功の鍵とされているのが「音声」だ。58%がポッドキャストや音声で作動するスピーカーを使うことに力を入れるつもりであるという。また、72%が人工知能(AI)を使った実験を行うことによって、記事のおすすめ機能を向上し、記事の制作を効率化させたいと考えている。

 筆者は先月、日本に一時帰国していたが、家電販売店で見かけたのがアマゾンのエコーなど、音声でニュースなどを流す機器だった。高額というイメージがあったが、機器によっては3000円という価格のものもあり、買いやすくなっているようだ。実際に利用しているという人も友人の中にいた。「音」が確かに鍵になりそうだ。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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