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五輪開会式でNHKアナの「台湾です!」に感涙 台湾にかかわる人々がこの一言に歓喜した理由

中島恵ジャーナリスト
東京五輪での台湾選手団の入場(写真:ロイター/アフロ)

7月23日に行われた東京オリンピックの開会式。さまざまな「見どころ」や「突っ込みどころ」が満載だったが、台湾人や台湾にかかわる人々を歓喜させた一場面があったことは、すでに多くの人々が知っていることだろう。

各国・地域の選手団が入場行進する際、NHKの和久田麻由子アナが言った「台湾です!」という一言だ。

この言葉はツイッターなどで拡散され、「そうです!台湾です!」、「台湾なんです!」「この一言がうれしくて、なんか、涙が出てきた……」などの言葉が次々と並んだ。

台湾メディアも「台湾に誇りの瞬間をもたらした」と報道し、開会式から1週間近く経った今でも、反響は波のように広がっている。

「台湾です!」の一言がうれしくて…

その瞬間は、突然やってきた。

開会式の入場行進が始まってしばらく経った頃、105番目の選手団が入場してきた瞬間、場内に「チャイニーズ・タイペイ」というアナウンスが鳴り響いた。他の選手団の入場のときと同様、最初にフランス語、英語、そして、日本語の順だった。

だが、そのあと、NHKの和久田アナが突然、「台湾です!」とはっきりとした口調で言い放ったことに、多くの視聴者が驚かされた。

筆者も「おっ?」と思ったが、アナウンサーはそのまま、何事もなかったかのように台湾選手団の紹介を続け、すぐに次の国の選手団へと話題は切り変わった。

つまり、ほんの短い紹介に過ぎなかったのだが、この言葉が発せられるとすぐに、SNSでは驚きの声が挙がり、大騒ぎとなった。

なぜかといえば、すでに報じられている通り、台湾の五輪参加について、IOC(国際オリンピック委員会)は、中華民国(台湾)ではなく「チャイニーズ・タイペイ」としているからであり、これまでも踏襲されてきたからだ。

しかし、NHKアナが放った「台湾です!」の一言に何か法的な問題点があるわけではない。これまでも、日本のテレビや新聞などの報道では「台湾」と呼んできているからだ。ただ、世界の耳目が集まる入場行進の場であるということが、国内外に驚きをもって受け止められた。

105番目に登場した

また、入場した順番も話題に上った。「チャイニーズ・タイペイ」であれば、今回の五輪の入場行進の順番(日本語の五十音順)で、107番目(チェコとチャドの間)に登場するはずだ。だが、「台湾」としての順番である105番目(大韓民国とタジキスタンの間)に登場した。

これらのことが台湾人はもちろん、台湾にかかわるすべての人々を喜ばせた理由だが、むろん、中国では否定的に受け止められており、ウェイボーなどでも「どういうことだ?」と議論になった。

中国の政府系メディア「環球時報」は「公共放送として『1つの中国』を損なうような報道はすべきではない」と主張。不快感をあらわにしたが、中国政府がこの問題について公的に抗議するような事態にまでは至らなかった。

台湾に住む筆者の台湾人の友人は「大好きな日本で開かれた記念すべき東京五輪で、台湾のことをアナウンサーが『台湾』と呼んでくれたこと。このこと自体が、台湾人の心にぐっと響き、満ち足りた気持ちになりました。IOCに気を遣いながらも、やはり、日本は台湾にとって真の友だと思いました」と話していた。

参考記事:

中国の最強卓球ペアが負けた瞬間 中国メディアは厳しい報道をするも、SNSでは真逆の反応が……

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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