ニンテンドースイッチ「値上げ」の可能性を考える
ソニーの家庭用ゲーム機「PS5」の新モデル(11月10日発売)は、日本では現行モデルよりも値上げし、またマイクロソフトの家庭用ゲーム機「Xbox Series X/S」も今年に値上げ済みです。「ゲーム機は発売から時間が経過すると価格が下がる」というのが当たり前でしたが、違う状態になっています。その中で任天堂は、家庭用ゲーム機「ニンテンドースイッチ」シリーズを価格据え置きのまま。そこで「値上げ」の可能性を考えてみます。
ニンテンドースイッチの米国の価格ですが、有機ELモデルが349.99ドル、通常モデルが299.99ドル、ライトが199.99ドルです。ニンテンドースイッチの通常モデル(当時は税抜き表記で2万9980円)が出た当時(2017年)、為替レートは1ドル約110円で、日米の価格のバランスは取れていました。
ところが現在は、そのバランスが崩れています。現在の為替レート(1ドル150円)で換算し、日本の価格(税抜き)と比べると、有機ELモデルが約1万8000円、通常モデルが約1万5000円、ライトが約1万円もの差があります。
任天堂は、2023年3月期決算説明会(オンライン)の質疑応答で、ニンテンドースイッチの値下げ、値上げについて、現時点では考えていないとしています。元は「値下げをする可能性はあるか」という質問でした。そして値上げに関する懸念点について、円安の長期化、高い調達コストを挙げています。
もともと任天堂は、ゲーム機単体でも利益を出そう……という考えを持っています。かつて取材をしたときも、一時的でも「赤字覚悟でゲーム機を値下げする」というたぐいの戦略は、否定的でした。発売半年後に赤字となる大幅な値下げをした「ニンテンドー3DS」という例外はありますが、そのとき任天堂は3期連続の営業赤字になりました。
ニンテンドースイッチは、発売から6年が経過しています。そのため、生産の効率化は進んでおり、ある程度のコスト高にも対応できるでしょう。
従来のゲーム機のビジネスですが、ゲーム機のコスト削減を受けて値下げを実施、新規層を獲得していく手法でした。ところがニンテンドースイッチは、「値下げ」をせずとも世界で爆発的に売れました。任天堂の好業績の理由の一つには、ゲーム機の「値下げ」をしなかった点もあるでしょう。
そして、かなりの円安が進んだ今となっては、この「値下げ」のカードを使わなかったがゆえに、「価格据え置き」という戦略が取れたとも言えます。言い換えれば、急激なインフレや円安という背景を考えると「据え置き」という戦略が、値下げの代わりのようなもの……と考えることもできます。それにしても、日米の価格がレートから乖離(かいり)するのは、どうしても気になるところです。
PS5の新モデル(デジタルエディション)は、日本の価格をドルで換算したとき、約1万4000円の差があります。そう考えると、ニンテンドースイッチの有機ELモデルの価格差(約1万8000円)も、ここ数年好業績だった任天堂にとっては許容範囲なのかもしれません。
ただしこれ以上の円安が進むなどすれば、場合によっては厳しい選択を迫られることもありえるでしょう。ここまでくると、企業の力ではどうにもならない……自助努力の域を超えているからです。任天堂がニンテンドースイッチの価格をこのまま維持できるか、「値上げ」をするのか……。これもまた今後の注目点の一つといえそうです。